ついに……‼︎
きっと最後の力を振り絞った攻撃だったのだろう、絶命してピクリとも動かなくなったトカゲ、
その爪は、どうやって手入れされているのか、ピッカピカに磨き上げられた、まるで鏡のように光を反射し、辺りを映している。
そしてそこには、今まで気になっていたようなならなかったような、恐らくここへ来る前に最後に会った女神の姿になっているであろう、自分の姿が‼︎
……今思えば、なんだかんだで、女神も性別は女性なわけで、男の自分ではあまり確かめるのは良くない気がして、できるだけ気にしないように、意識しないようにしてきた。
だから、この世界へ来てなかなかに時間が立つにもかかわらず、いまだに自分がどんな格好をしているかすら、知らずにいた。
だが、こうしてうっかりと、鏡が目の前に来て、自分の姿が映し出され、それを、止むを得ず視界に入れてしまったからには、意識せざるを得ない。
今の自分は女神の姿。さぞ美しく映し出されていることだろう。
……と、思っていたのだが、
「……なん……だと……⁉︎」
そこには、鏡の中でも美しく輝く、腰まである長い金髪が目を惹く、身長160センチ前後の女が"一人"何もない空間を抱きしめて、そしてそこに何かあるかのように、熱のこもった視線を向け、ベロベロ舌を動かしながら、今にも襲い掛かりそうな勢いで何かに迫っているだけだった。
「あらぁ〜?」
ギョロリ、
目だけ動かした鏡の中の女、
アカズ=キンさんと目が合った。
「鏡に映らないってことは、あなた吸血鬼ちゃんなの〜?」
全身をビリビリさせる、体の芯まで染み込んで来るような気色の悪い声で話しかけてくるアカズ=キン。
「……い、いえ……どうやら……そのようです……ね……」
もう何の理由でそうなっているかもわからなくなるほどに頭は混乱し、全身は鳥肌立ち、今にも溢れ出しそうな何かをぐっとこらえ、声を絞り出す。
手足は痙攣して力は入らなくなり、この女を押し返す力すら残されていない。
(……あれ?今自分は何を考えていた?トカゲに殺される?鏡に自分の姿が映らない理由?この女に犯される?)
「……いや……これ……は……」
違う、
意識が遠のき出したところで、思考がゆっくり深く回り出し、ようやく自分の置かれている現状について考え出し、気づいた。
(いくらこの女が不快とはいえ、身体が痙攣して意識が飛ぶなんて、どんなトラウマだ?)
これは明らかに何か薬物だ。
そこに意識が行ったことで、ある事に気づく。
「この……匂い……」
もう声を出すこともできなくなるくらい、意識が朦朧とする中、視界の真ん中に綺麗な金髪がはっきりと見える。
そしてあの女の顔も。
視界が歪み、もう、化け物みたいに女の顔も歪んで見え、さらに背筋に悪寒を走らせる。
歪んだ顔の口が開いて言葉を発する。
「……どうやら効いて来たみたいね。」
(やはり何か薬物……)
でももう、今更気づいたところで遅かった。
すでに体は完全にこの女に支えられている状態であり、一人では立つこともできない。
腕も、もう上がらず、指一本動かせない。
今感じるのは、頭を抱える女の腕のぬくもり、押し付けられた胸から聞こえる鼓動。
力の入らない自分の体を支える女の力だけ。
反対の耳が捉える音も、ほとんどなくなり、はっきりわかるのは、耳元で囁いていると思われる女の声。
女の声は、やけに早口で、こう言っている。
「そうよ、これこそ、私の幼女捕獲用必殺兵器。名付けてアカズ菌よ‼︎」
女はかなり興奮しているらしく、激しく鼻息を鳴らしながら、さらに顔を近づけてくる。
「なんじゃ……そりゃぁ……」
……そこで意識は完全に消失した。
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