私の名は。
「私の名前は赤ずきんよ‼︎よろしくね‼︎」
なびく長い金髪が目を惹くその女は、自らの名前を赤ずきんと名乗り、額に汗をかいて、ハァハァしながら、こちらの両肩をがっしりと掴んできて、突然襲い来た未知の恐怖に硬直するエルダーに顔を近づけ始める。
女の身長は、こちらの身長が幼女(女神)サイズにまで縮んでいると仮定するなら、恐らく160前後、エルダーと向き合うと、彼女の胸がエルダーの顔に丁度正面にくる位置だ。
「……本当に、赤ずきんって名前なのか?」
にわかには信じがたい恐ろしいネーミングだったため、今の危機的状況を忘れて思わず真顔で、マジなトーンで聞き返してしまうエルダー。
赤ずきんの肩越しには、再びこちらの姿を捉えたトカゲが、上半身と下半身がいまにも離れ離れになりそうなりながらも、雄叫びをあげて突進を始めているが、どうしても気になってしまい、視界に入っていない。
答えを聞くまでは死んでも死にきれないと言った様子だ。
トカゲの行動を知ってか知らずか、全く気にした様子のない赤ずきんは、相変わらず鼻息荒く、ついにはよだれまでたらしだし、
「ええ、そうよ、私の名前はアカズ=キンよ‼︎」
今にもエルダーを頭から齧らんばかりに口を開いて、ベロベロと舌を動かし始める。
あまりの恐怖に必死に離れようと赤ずきんの体を押しているエルダーだが、体格差からから出る力の差はどうしようもなく、ビクともしない。
そのうち向こうから離れてくれるのを待つしかないようだと抵抗をやめ、なすがまま、状況に流されるがままな体制に入る。
……しかしまぁ、真意は不明だが、寒気すら覚える気味の悪い行動。
今にも泣き出してしまいたくなるような状況だ。
そんなやりとりをしているうちにも、トカゲはゆっくりと着実にエルダー達に近づいてきているわけだが……
赤ずきんの顔も近づいてくる。
もうコンマ数秒で、二つとも射程圏に入るという距離。
「おい‼︎後ろ‼︎……ウェ……」
何か、大切なものが二つ同時に失いかけている現状、せめて命だけは助かろうと必死にエルダーは叫ぶ。
が、同時に届いた奇妙な感覚にことばに詰まる。
「……ンチュッ、ンチュッ、かわいい幼女ちゃ〜ん、そんなこと言ってわたしから逃げられると思ったら大間違いよ〜」
が、タコみたいに尖らした女の唇が、嫌がって逸らした顔の側面、頬を捉え、魂でも吸われそうなくらい吸引される。
(……アカン、話が通じない)
今、自分の精神的、女神の体の、何か大切なものが失われた。
そして、同時にトカゲが攻撃のモーションに入り、一度は赤ずきんの割り込みによってかわした鋭く尖った爪が、再び死神の鎌のように命を刈り取るため、こちらに狙いをさだめて、振り下ろされた。
「しっ……‼︎」
死んだ‼︎
せっかく女神が未来を自分に託してくれたのに、始まったばかりの、ってか始まってすらいない感じのする物語が、こんな頭のおかしい変態に捕まったばっかりに、終わってしまった。
そう思って、ギュッと目を閉じてその時を待つ。
ズガァン‼︎
……が、いつまで待っても来るはずの衝撃音が来ないことに疑念を抱く
「……生きてる?」
片目を開けて周囲を確認する。
すると、丁度目線の先に、先程振り上げられていたものと思われる、それだけで自分の身長より大きいトカゲの爪が映る。
……映る?
トカゲの爪は、それがもうピカピカに磨きあげられた出来のいい鎌のように、光を反射していて、対象に入ったものをまるで鏡みたいに写している。
……そして、そこには自分の姿が。
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