最終話 後日譚 独白
「あれは、儂の友人が作ったものじゃ。
友人はな、『賢者の石』の研究を行っておった。しかし思ったように結果は出せず、ヤツは焦っておった。
その以前だったか、ヤツは胃がんを患っておった。発見された時は既にひどい状況で、全身に転移もしておった。
その頃からかのぅ。家族も友人も省みず、研究に没頭していったのは。ある意味『賢者の石』に魅了されておったのやも知れん。
命を削って研究を続け、ヤツは研究を完成させた。しかしそれは、『賢者の石』とは比較にならない程の劣化品、いわゆる『デミクリスタル』と呼ばれるものじゃった。
『デミクリスタル』が完成してすぐ、ヤツは亡くなった。儂にそれと、「後を頼む」と遺言を残して。
友人が残したそれを、儂はどうする事も出来なかった。日本総支部に渡す事は、友人を裏切る事に思えてのぅ。そして、処分するのなどもってのほか。それこそ遺言、友人の遺志に反すると思っておった。
じゃが、今回の事件で踏ん切りがついた。儂は、残ったこの『デミクリスタル』の残骸を、日本総支部に渡すつもりじゃ。友人を裏切る事になろうとも、この事件の責任とケジメは取らねばならんと思うたからの。
しばらく留守にする。もしかしたら、重い処分が下り、ここには戻って来れんやも知れん。その時は、店を頼んだぞ」
**********
あの事件から一週間が過ぎた。
店はいつもの賑わいを見せていた。
店長の処分に関しては、減俸20%3ヶ月、と軽いものだった。日本総支部も情状酌量をしてくれたのだと、俺はそう思った。
「オーダー入りまーす。ナポリタン2、食後にグァテマラとアールグレイです」
ハキハキした真奈美のオーダー入れが飛び、俺はフライパンをふたつ用意する。
あらかじめ茹でて氷水でしめてあったパスタを二人分、油をひいたフライパンに投入し、炒めて行く。別のフライパンには、玉ねぎ・ピーマン・ウインナーと、シンプルな具材を炒める。火が通った後、パスタと具材を合わせて、特製のケチャップソースをたっぷりと入れ、フライパンをあおるように混ぜ合わせる。炒めるケチャップの香りが、否が応にも食欲をそそる。
白い平皿二枚にナポリタンを均等に盛り付け、粉チーズと乾燥パセリを散らし、完成。
「ナポリタン上がり。持っていってくれ」
ナポリタンを真奈美に任せて、ひと呼吸を入れる。
「ガウル、手際が良くなったのぅ。もう、儂が居なくとも大丈夫じゃな」
「…店長、あんたはまだまだ引退するようなタマじゃないだろ。まだまだ動ける」
俺が呆れたように言うと、少々困ったように店長が答える。
「ガウル…お前って男は…。年寄りをコキ使うとはのぅ」
「まあ、動けるうちに動いておくのが良いわな。儂にとっても、あの友人の供養にもなるしの」
店内には、ピアノのBGMが流れている。
「さて、食後のコーヒーの準備じゃな。ガウルは紅茶の方を頼む」
「わかった」
いつものカフェの賑わい。
日なたぼっこをするカイの姿。
また、何でもない日常が始まる。
カフェ『ダテーラ』の奇妙な面々 皇 将 @koutya-snowview
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