第13話 最後の戦い

「そうか…。それは仕方ない。死ね」

 猛然とこちらに向かってくる、白い陶磁器人形ビスクドール。見た目に反して、発する殺気は凶悪だ。俺でも気圧される。


 『ブレイン』はその両手を貫手ぬきてとし、連続で俺たちに放ってくる。全てが急所を狙ったものだ。

「『止まれ』っ!」

 真奈美の言霊に影響を受け、そのスピードを減じる事が出来たが、焼け石に水。何発かの貫手は、俺たちの身体を掠めた。


「『ざん』っ!」

 真奈美が言霊を叩きつけるが、言霊を手刀しゅとうで切りつけ、その効果を滅する。「ビシッ!」と言霊が裂かれる音がした。

 カイは猛牛のごとく突進し、狙い定めて爪牙を突き立てようとする。しかし『ブレイン』は、身体を右にずらし、爪牙の挟み込みの隙間を縫う形で避ける。目標を失ったカイは、大きくたたらを踏んで向き直る。

 さらに俺の攻撃。影を薄く細く伸ばし纏わせ、両手に持った短剣に幾筋にも添わせて、刃の多層菓子ミルフィーユを作り出す。そして間合いに入って死角から高速多重斬撃。それすらも、計ったかのように刃の隙間に身体を滑り込ませてかわす。


**********


 ジリ貧だった。


 あれから数合、攻防が重ねられたが、向こうの攻撃は僅かながら当たり、こちらの攻撃はことごとくかわされる。決定打こそ無いものの、こちらの疲労とダメージは、徐々に蓄積されて行った。


 俺は意を決する。

 両手に持った短剣を逆手に持ち、影を身体に纏わせて、ノーガードでゆっくりと『ブレイン』に歩いて行った。

「ちょ…。ガウルさん! 何を…」

 真奈美の静止も聞かず、そのまま歩を進める。

「フン! 死に急ぎたいか? ならばトドメをくれてやろう!」

 『ブレイン』は構え、右手を貫手の形にし、真っ直ぐ俺に突進する。

 そして、『ブレイン』の右手が俺の胸板に向かって放たれる。


ドムッ!

ドス ドスッ

 俺の胸板を貫く『ブレイン』の右貫手。その手を引き抜くより早く、影の力で無理矢理に俺の両腕を動かし、短剣二本を『ブレイン』の右腕に突き立てたのだ。

「捕ま…えた…」

 やっとの思いで声を絞り出し、勝利を告げる。その状態のまま追撃として、足元の影が持ち上がり幾筋もの薄い刃と化して、『ブレイン』の腹を四方から突き刺す。

ザクッ ザクザクザクッ


「『ばく』ッ!」

 狙い済ましたように、真奈美が言霊を放つ。狙いは『ブレイン』の右膝。

ボムッ

 鈍い破裂音と共に膝が折れ、その場に膝から崩れ落ちる。


 そして『ブレイン』の背後から襲いかかるのは、カイ。牙は肩口に、両方の爪は脇腹に突き立てられ、更なるダメージを与える。

「ウガァァァァアアァァァァ!」

 凄まじい激痛だろう。しかし俺とカイを振り解こうと、強引に身体を捻る。『ブレイン』の執念だ。


 無理矢理に振り解かれ、俺とカイはたまらず投げ出される。カイは倉庫の棚に叩きつけられ、俺は床に力無く転がされる。

「わ…私は…まだ…」

 更に立ち上がり動こうとする『ブレイン』。しかし、力が入らないように膝から座り込んでしまう。

「な…なんだ…コレは…」

 『ブレイン』は両手を見つめる。その指先は、砂粒に変化し、サラサラと崩れ始めていた。身体が崩壊して行っているのだ。その現象が、身体の端から全身に及ぼうとしていた。

「あ…ああ…。私は…私はまだ…」

 身体の崩壊は体幹まで及び、1分も経たずに『ブレイン』の身体は砂の山と化した。その頂上には、柔らかな脳髄と、光を無くした只の水晶のようになった『賢者の石』が置かれていた。


 戦いは、呆気あっけなく終焉を告げたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る