第12話 会うべくして会う敵

 一旦カフェまで引き返し、クルマに乗り込んで支部長宅に向かう事にする。エンジン始動ボタンを押してエンジンをかけ、ギヤをPからDに入れてパーキングブレーキを解除。アクセルを一気に踏み込み、右折しながら道路に出て道を急ぐ。緊急事態だからスピード違反もウィンカーも出さず、交通違反無視でフルスロットル。

「きゃぁぁああ。もっと優しく運転してよ!」

 隣でシートベルトを握りしめながら叫ぶ真奈美は無視で。


 片側一車線の道路を飛ばし、廠舎な豪邸が建ち並ぶエリアに入る。支部長の家は、そのエリアの奥だ。

 門の前にクルマを停めて降りるが、木造の門にはかんぬきがはめてあって開く事はない。周囲は身長よりも高い塀が建ててあり、侵入を拒んでいる。

 時刻は日も落ちて薄暗くなってきており、人通りも無い。俺は周りの様子を見つつ、外灯で出来た影を支部長の家の影を繋げ、そこに3人で潜って塀の内側に入る。

「ガウルありがとー。かげののうりょくはべんりだなー」

 呑気な声でカイが答える。

「二人とも、気を付けろよ。まだ敵が居るはずだ」

 シャツの首もとで弛んだ布を鼻まで引き上げ、戦闘態勢になる。緊張感が一気に引き上がっていった。





 支部長の家の離れの倉庫、俺や真奈美すら近付く事を許されてなかったそこから、虹色の鮮やかな光が漏れていた。そして、異常なまでの禍々しさも。


 俺たちは離れの倉庫に近寄る。正面の出入り扉は鍵が掛けられ、その隣のシャッターは固く閉じられていた。

 短剣を取り出し、バツの字に切り裂く。シャッター内部の鋼材をへし折り、蹴り破って中に侵入する。


 そこには奇妙な光景が広がっていた。

 虹色に輝く石が宙に浮いている。そのすぐ側には、電動車椅子にマニピュレーターの腕が付いた、不恰好なロボットが居た。本来なら人が座る場所には、培養槽に浸かった脳が見える。

 輝く石は、その脳に徐々に近づいており、培養槽を透過して脳に取り込まれようとしていた。


「ふふふふふ。一足遅かったようだな。今まさに、『賢者の石』は我が身体の一部となる。この時をどれほど待ちわびたか…」

 車椅子のロボットは光に包まれ、分解・再構成をされ、人としての手足と身体に変わって行った。無機物が受肉して人になったのだ。

「幾年月、不自由な身体から抜け出すすべを探し、『賢者の石』にたどり着き、その願いは成就した」

 そう言って、こちらに向き直る。白い短髪に陶磁器人形ビスクドールを思わせる肌、筋骨隆々とした体躯に青い瞳。大理石の彫像を思わせた。

「私は『ブレイン』。『ストマック』や『ハンド』が世話になったようだな」

 こちらを見る目が冷たい。俺も冷や汗をかいている。

「そこで君たちに相談がある。もう君たちに用は無い。このまま何もしなければ、見逃そうではないか」





 俺は躊躇していた。

 放つオーラの禍々しさから、明らかに危険な存在だ。見逃すのもひとつの手だ。しかし、

「人のものを盗んでおいて『見逃す』ですって! 盗っ人猛々しいとは、この事ね。こちらこそ、見逃すつもりは無いわ!」

 毅然と真奈美が言い放つ。どうやら、俺は臆病風に吹かれていたようだ。

 俺は短剣2本を両手に構え、影を細く薄く伸ばして幾筋もの刃と化し、戦闘態勢を取る。カイも同じく、その身体をぬえの巨驅に変じ、既に爪と牙を剥き出しにしていた。


「そうか…。それは仕方ない。死ね」

 最後の戦闘が始まった。

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