第11話 ハンドとの戦い

「そう言えば、名乗るのを忘れていたな」

 スーツ姿の敵は、おもむろに告げる。

「私の名は『ハンド』。貴様らに死を纏わせる者だ!」


 途端に辺りに異臭が立ち込める。

「しまっ…」


ドガァンッ!!!


 言うより早く、俺たちの周りに爆炎が巻き起こる。髪と皮膚の焦げる匂いが鼻につく。肺まで焼けるようだ。3人とも大丈夫なようだが、負ったダメージはかなりだ。

 爆炎は一瞬で消えて無くなったが、まだ異臭が漂っている。未だ危機的状況には変わりない。


「くぅっ…『さい』ッ!」

 真奈美が苦し紛れに言葉を放つ。闇雲に放った言霊は、『ハンド』の身体に叩き付けられる。

 ドムッ!

という鈍い音と共に、敵の身体が仰け反る。

「ぐぅぅ…まだまだ…」

 さらに『ハンド』は、その右手のひらに火球を産み出し、野球のボールでも投げるかのごとく、俺に向かって投げつける。

 俺は避けずに、短剣と腕でガードをし、火球の直撃を受ける。皮膚が剥がれるが様に、激痛が走る。


「今だ! 行け!」

 俺の身体を盾にして、背後でぬえに変化したカイが弾き出る。リノリウムの床に爪を立て、敵の目の前まで疾駆する。


「グルゥァァアアアァァァ!!!」

 鉈のような爪を振り下ろす。肩口から腰まで袈裟懸けに爪で引き裂かれ、『ハンド』はよろける。

 さらに俺の追撃。

 影を細く伸ばして枝分かれし、刃として、短剣に沿わせて幾筋にも纏わせる。さながら刃の多層菓子ミルフィーユとなる。

 接敵エンゲージして放つ、高速多重斬撃。さしもの敵も、もんどりうって倒れる。しかし、


ゴォォゥッ!


 突然『ハンド』の身体が炎に包まれる。熱で傷を焼き、無理矢理にふさいでゆっくりと立ち上がってきたのだ。

「まだだ…。まだ終わらん! あのお方…『ブレイン』のためにも!」

 ボゥ! ボゥ! ボゥ!

 『ハンド』の背後にいくつもの火球が産み出され、それらは不規則な軌道を描いて俺たちに向かって来る。

「はっ…『止まれ』っ!」

 真奈美が言霊で火球を一時的に停め、隙間を縫うように避ける。俺は影の刃で迎撃しながら、一旦下がる。カイは直撃を受けるも、四肢を踏ん張り耐える。


「『斬』!」

 真奈美の言葉が『ハンド』の身体を裂き、敵は声も上げられずに力無く崩れ倒れる。やっと終わったようだ。

「クククク…」

 細い息と共に笑い声が力無く吐き出された。それは敵である『ハンド』からだった。

「…何が可笑しい…」

 俺が問いかけると、『ハンド』は素直に答える。

「私の役目は終わった…。後は『ブレイン』が…」

 そこで力尽きたようだ。気絶して身動きすらしなくなった。


「どういう事だ?」

 俺にはさっぱりわからなかった。だが、嫌な予感と、新たな戦いがあるのではという予想はあった。

「………」

 思案にふける真奈美。今ある情報をありったけ集めて状況を整理し、を読み解くのだ。


「…そうか…。これは陽動だわ。本当の狙いは…支部長の家よ! 急ぎましょ」

「支部長の家に、その『ブレイン』が行っている。そうだな?」

「そう」

 短い問答の後、俺たちは支部長の家へ向かって走り出した。

 今更ながら間に合うか、いくぶんか、いやかなり不安だった。

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