第10話 問われる時

 期日である明後日が来た。


「オーダー入ります、ハムチーズのホットサンド」

 真奈美の軽快な声が店内に響く。それに反応して、俺はホットサンドメーカーを取り出す。直火式の二つ折りでハンドルの少し長い、旧式のものだ。

 バターを焼き面に薄く塗って、8枚切りの食パンを二枚置き、ハム・溶けるスライスチーズ・ハムの順で間に挟み、二つ折りにしてハンドルのストッパーを引っ掛けて留め、弱火のコンロの火にかざす。

 徐々にこうばしい香りが漂い始め、否が応でも食欲をそそる。

 頃合いを見計らってストッパーを外し、挟んであったホットサンドをトングで取り出す。まな板の上で斜め半分に切って、皿に盛り付け、パセリを添える。


 いつもの手順でホットサンドを提供し、ラストオーダーになった所で、


カランカラン


 入り口ドアのベルが来客を告げる。いや、今回は客ではないが。例のミラーシェードのサングラスにオールバックでスーツ姿のあの男だ。

「答えを聞きに来た」

 俺も真奈美も警戒心を一気に引き上げ、相手を凝視する。

「まだ閉店時間前だ。どこかで待っていろ」

 少し声のトーンを落とし、男に囁くように告げる。

「それはすまなかった。では、以前の廃病院で待っている」

 ドアベルが乾いた音を鳴らして、男が去って行くのを知らせる。以前の廃病院とは、例の爆破騒ぎのあったあそこだろう。俺と真奈美はお互いに目配せをして、閉店作業に取り掛かる。


 洗い物・レジしめ・掃除とこなし、30分ほど経過してそろそろ出発となった。

「ガウルさん、どうするの? 支部長からは何も聞けてないよ?」

「そこは、ありのままを話すしかないだろう。向こうは納得しないだろうが」

 悩ましい事だが、おそらく結果が見えている。最後は力技になるだろう。

「ともかく行こう。カイを呼んでくる」

 今はバックヤードでのんびりしているであろう猫を、探しに入る。


 すでにカイは待っていて、毛繕いをしていた。

「あ、そろそろいくかー? オイラはだいじょうぶだぞー」

 のんびりした口調に少し毒気を抜かれはしたが、気合いを入れ直してカイに声をかける。

「相手は一筋縄で行かないだろう。お前の力が頼りになる」

「まかせとけー!」

 胸をはるカイ。キメポーズをしてるつもりでも、いまいち迫力も無い。そんなカイを抱えて肩に乗せて、店を出る。

「さあ、行こうか」






 薄暗い儂の倉庫の中、儂は友の残したアタッシュケースを前にしていた。

「どうしたもんかのぅ…」


キュルルル…


 微かだが、モーターの駆動音がした。儂以外の何かが居る。

「誰じゃ!」

 儂の誰何すいかに返答は無く、倉庫の中で木霊こだまが響くだけ。そこで、


トスッ


 へその上あたりに何かが当たった感触がした。腹を見ようと視線を下げようとした直後、


ジジジッ

「ぐぁぅうっ!」

 電気が流れる感触と共に、身体が痺れて動けなくなってしもうた。

 気絶直前、最後に儂の視界に入ったものは、車椅子に鉄の腕を生やし、身体があるべき場所に培養槽に浮かぶが見えた…気がした…。






「答えを聞かせてもらおう」

 廃病院の中で待っていたスーツ姿の敵。その相手に、まずは真奈美が声をかける。

「本当にここに『賢者の石』があるの? 何かの間違いじゃないかしら。支部長も言葉を濁してばかりだし。私たちじゃわからない事ばかりよ!」

 スーツ姿の相手は、俺の方も顔を向ける。

「貴様も知らないのか?」

「答えは同じようなものだ。何も聞かされてはいない」

 俺の返答と共に、相手のスーツからは殺気が膨れ上がって行く。

「『賢者の石』を渡すつもりは無し…か。ならば、力ずくでも口を割らせるのみ!」


「ガウルさん、来るよ!」

「…わかった」

 やれやれやっぱりか、と思いながらも短剣を手にする。ともかく、この場を切り抜けないと始まらないようだ。

(続く)

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