第10話 問われる時
期日である明後日が来た。
「オーダー入ります、ハムチーズのホットサンド」
真奈美の軽快な声が店内に響く。それに反応して、俺はホットサンドメーカーを取り出す。直火式の二つ折りでハンドルの少し長い、旧式のものだ。
バターを焼き面に薄く塗って、8枚切りの食パンを二枚置き、ハム・溶けるスライスチーズ・ハムの順で間に挟み、二つ折りにしてハンドルのストッパーを引っ掛けて留め、弱火のコンロの火にかざす。
徐々にこうばしい香りが漂い始め、否が応でも食欲をそそる。
頃合いを見計らってストッパーを外し、挟んであったホットサンドをトングで取り出す。まな板の上で斜め半分に切って、皿に盛り付け、パセリを添える。
いつもの手順でホットサンドを提供し、ラストオーダーになった所で、
カランカラン
入り口ドアのベルが来客を告げる。いや、今回は客ではないが。例のミラーシェードのサングラスにオールバックでスーツ姿のあの男だ。
「答えを聞きに来た」
俺も真奈美も警戒心を一気に引き上げ、相手を凝視する。
「まだ閉店時間前だ。どこかで待っていろ」
少し声のトーンを落とし、男に囁くように告げる。
「それはすまなかった。では、以前の廃病院で待っている」
ドアベルが乾いた音を鳴らして、男が去って行くのを知らせる。以前の廃病院とは、例の爆破騒ぎのあったあそこだろう。俺と真奈美はお互いに目配せをして、閉店作業に取り掛かる。
洗い物・レジ
「ガウルさん、どうするの? 支部長からは何も聞けてないよ?」
「そこは、ありのままを話すしかないだろう。向こうは納得しないだろうが」
悩ましい事だが、おそらく結果が見えている。最後は力技になるだろう。
「ともかく行こう。カイを呼んでくる」
今はバックヤードでのんびりしているであろう猫を、探しに入る。
すでにカイは待っていて、毛繕いをしていた。
「あ、そろそろいくかー? オイラはだいじょうぶだぞー」
のんびりした口調に少し毒気を抜かれはしたが、気合いを入れ直してカイに声をかける。
「相手は一筋縄で行かないだろう。お前の力が頼りになる」
「まかせとけー!」
胸をはるカイ。キメポーズをしてるつもりでも、いまいち迫力も無い。そんなカイを抱えて肩に乗せて、店を出る。
「さあ、行こうか」
薄暗い儂の倉庫の中、儂は友の残したアタッシュケースを前にしていた。
「どうしたもんかのぅ…」
キュルルル…
微かだが、モーターの駆動音がした。儂以外の何かが居る。
「誰じゃ!」
儂の
トスッ
へその上あたりに何かが当たった感触がした。腹を見ようと視線を下げようとした直後、
ジジジッ
「ぐぁぅうっ!」
電気が流れる感触と共に、身体が痺れて動けなくなってしもうた。
気絶直前、最後に儂の視界に入ったものは、車椅子に鉄の腕を生やし、身体があるべき場所に培養槽に浮かぶ脳が見えた…気がした…。
「答えを聞かせてもらおう」
廃病院の中で待っていたスーツ姿の敵。その相手に、まずは真奈美が声をかける。
「本当にここに『賢者の石』があるの? 何かの間違いじゃないかしら。支部長も言葉を濁してばかりだし。私たちじゃわからない事ばかりよ!」
スーツ姿の相手は、俺の方も顔を向ける。
「貴様も知らないのか?」
「答えは同じようなものだ。何も聞かされてはいない」
俺の返答と共に、相手のスーツからは殺気が膨れ上がって行く。
「『賢者の石』を渡すつもりは無し…か。ならば、力ずくでも口を割らせるのみ!」
「ガウルさん、来るよ!」
「…わかった」
やれやれやっぱりか、と思いながらも短剣を手にする。ともかく、この場を切り抜けないと始まらないようだ。
(続く)
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