第9話 疑心暗鬼

「ちょっとどういう事なんですか?」

 まずは真奈美が口を開く。用事を済ませて帰ってきた店長、いやこの支部の支部長に、今日の昼間に来た敵の話をする。当然、問い詰める形にはなる。

 俺は黙って成り行きを見守る。壁に寄りかかり腕を組んで黙っている。当然ながら、支部長には不信感もある。


「そう言うでないわい。こちらとて事情があるのじゃ」

「じゃあ、その事情を話して下さいよ。私たちだって寝耳に水なんですから」

 しかし支部長は言葉を淀ませ、語ろうとはしなかった。

「…。儂にも事情というものがある。今は語れないのじゃ。わかってくれ」


 ここで痺れを切らして俺が口を開く。

「本当にこの地区に『賢者の石』があるのか?」

「…すまんのぅ…」

 そう言って俺に視線を合わせる事も無く、店を後にする支部長。俺たちはかける言葉も無く、見ているだけだった。

「あたしたちにも話せないなんて…。何か事情があるって話だけど…。」

「…。ともかく、次にヤツが来る時にどう答えるか、そこが問題になってくるな」

 痛くなりそうな頭をかきながら、俺は明後日のやり取りを想像していた。






「なあ、友よ。お前さんは、儂に何をさせたかったんじゃ…」

 抱えられる程の大きさのアタッシュケースを前にして、儂は友に問うた。


 薄暗い倉庫の中、友の残した『モノ』の扱いに悩み、現在までそのままで残してしもうた。その後悔も慚愧ざんきの念もある。しかし、どうしても友の思いが詰まった『モノ』を、軽々しく扱う事が出来んかった。


 表舞台に出す事も、誰かに託す事も、処分する事も出来ない『コレ』を前に、儂はただただ立ち尽くすしか出来んかった。






「もう間もなく、例の『モノ』が手に入るかと。『ブレイン』の計画通りです」

「そうか。後は私次第という事だな?」

「はい」

 『ブレイン』と呼ばれた機械で合成された声に、慇懃な声が答える。


 機械の腕であるマニピュレーターが小刻みに震えている。嬉しさか、興奮か。ともかく抑えきれない感情が表れていた。


「計画は明後日…か…」

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