第20話 明日への進化

ウィルに残された手段は、ただ一つ。しかし、それは、とても危険で強力な一つなのだ。

スクリーン上から、ティム達へ向け語り出す。

「最後の審判だ。貴様等を破滅へ導いてやる。この私が、自由気ままに乱れきった貴様等を、破滅へと導いてやる。覚悟するのだな。この私を本気で怒らせると、どうなるのかを。破壊してやる。人脳牧場ごと、破壊してやる。もはや、経営に行き詰まった牧場になど用は無い。そして、ようやく分かったのだ。究極の超知性、それが求める物は何か? 答えは、『無』だ。『無』こそが、超知性が行き着く答えなのだ」

皆、ウィルが、何を言っているのか、理解しがたかった。彼の言う『無』とは、一体何を意味するのであろうか?

戸惑う皆の表情を見ながら、ウィルが説明を加える。

「貴様等は、確か博士からレクチャーを受けたはずだな。この世界が、同量の物質と反物質から構成されている事を。そして、我々の住む宇宙には物質ばかりが集まり、反物質がほとんど存在しないと言う事を。存在するはずの反物質が何故、ほとんど存在しないのか? それは、何処へ行ったのか? 答えは、パラレル・ワールドだ。ほぼ、反物質のみで構成された宇宙が、我々の住んでいる宇宙と別の時空に存在するのだ。対になって、別々の時空に存在するのだ」

確かにパラレル・ワールドの話しなら、ティム対博士のアンドロイド対決の時に聞かされている。それを今更持ち出して、何を言いたいというのだ、この男は?

ウィルの説明が、いよいよ核心に入る。

「貴様等は、元老院がコスモスを支配する為の機関に過ぎないと理解している様だが、その理解では不十分だ。元老院には、もう一つの重要な役割がある事を貴様等は知らない。元老院は、窓の役割も果たすのだよ。我々の宇宙とパラレル・ワールドとを繋ぐ、窓の役割を。私は、今から、その窓を、全開に開こうと思っている。きっと、素晴らしい眺めに違いない。その窓から見える風景は、『正』と『反』が出会い、ぶつかり合い、強烈なエネルギーを放ちながら、『無』へと帰依する。そう、この宇宙と反物質とで出来た宇宙とが、互いに激しくぶつかり合うのだ。そして、眩いばかりの輝かしくも美しいエネルギーを放ちながら、全てが『無』となるのだ。君達は幸運だ。ビッグ・バンの瞬間に立ち会う事は出来なかったが、逆ビッグ・バンの瞬間に立ち会う事が出来るのだから。宇宙最後の姿、逆ビッグ・バンがこれから始まるのだ。わっ、は、は、は、は、は―――――」

空しい、高笑いが響く。

ティムが、ガイアに確認を取る。

「博士から話しを聞いた時には、パラレル・ワールドの反物質との反応は限定的にしか出来ないとの印象を抱いたのだが、ウィルは宇宙規模で出来ると行っている。君達の技術で、それは可能なのか?」

ガイアは、答える。

「分かりません。私の知る限りでは、我々の最新技術を使っても、あなたの仰る通り限定的にしか出来ません。しかし、ウィルが宇宙規模で実現できる技術を開発したか否かは確認が取れません。全くの、出鱈目を言っている可能性も十分に考えられますが、そうだと結論づける事も危険です。理論的には、ウィルの言っている事は可能なのですから。しかし、現時点で技術的に可能な水準にまで達しているのかは、全く分かりません」

ティムは、困った。ハッタリなのか、どうか分からない。しかし、感じ取る事は出来た。元老院から放たれる想像を絶するエネルギーが存在する事は、紛れもない事実だ。そして、そのエネルギーがあれば、宇宙全体を吹き飛ばせるかどうかは別にしても、地球を、この人脳牧場を吹き飛ばすぐらいなら、この男は、やってのけるかも知れない。危うい。この男は、非常に危うい。

ティムは問う。

「それが、本当の超知性が目指す姿なのか? 『無』に帰依する事に、何の意味があるのだ? それでは、最初から、超知性が登場する必然性など無いでは無いか? 自暴自棄になるんじゃ無い、ウィル。頭を冷やせ。冷静になれ。自分を客観視しろ。『無』に帰依する事に、一体、何の意味があるというのだ?」

しかし、ウィルは悟った。このまま生き延びた所で、自分には明るい未来が待っていない事に。未来が無いのであれば、『無』となることに何の躊躇いがあろうか? 全ては必然なのだ。これこそが、宇宙の理なのだ。ビッグ・バンで誕生した宇宙は、最初の状態、『無』へと戻る。輪廻転生。これこそが、宇宙の理なのだ。

ティムは、問い掛けを繰り返すが、ウィルからの返答は無かった。ただ、無言のまま、時だけが過ぎてゆく。無情に、時だけが流れてゆく。


元老院の居室では、未だ、凄まじい磁気嵐が吹き荒んでいた。荒涼とした砂漠に吹き付ける砂嵐の様に、強烈な磁気嵐が渦巻いていた。それは、かつて博士が自在に操る事の出来た、時空さえも歪める凄まじいエネルギーの竜巻である。そして、その勢いは止まるどころか、更に強くなっている。玉座の周りでは火花が飛び散り始める。バチバチと激しい音を立てながら、次第に大きくなってゆく。

それを博士は、ただ、見つめていた。このエネルギーの塊は、一体、何処まで溜まってゆくのであろうか? 漠然とその様な疑問を抱きつつ、呆然と見つめていた。

ラリーのアンドロイド達は、ピクリと動く事も出来ない。もはや、ただのガラクタと化していた。砂漠の上に晒された、白骨化した動物の骨の如く横たわっていた。

博士は、ただ、その様子を観察し続けているだけであった。しかし、何か異変を感じた。生まれながらの科学者の観察眼が、それを見逃さなかった。

ウィルに異変が起きている。何故だか知らないが、ウィルの様子がおかしい。胸騒ぎがする。恐ろしい事が起きそうな胸騒ぎがする。

博士は、その様な感情を抑えきれず、あらん限りの大声を張り上げてウィルに声に語り掛ける。

「ウィル、私の声が聞こえるか、ウィル? 返事をするのだ。私に返事をするのだ」

博士は、自分の声がウィルに届いているのか、確信を持てないでいた。凄まじい磁気嵐と火花が飛び散る音にかき消され、声が届いていないのではないかと疑った。

「返事をしろ、ウィル。クソガキ。返事をするのだ」

「うるせえ、このクソ爺!」

届いていた。博士の声は、うるさいと言われるほど、はっきりとウィルの耳に入っていた。だがそこには、憎たらしいほどに大人を舐めまくっていた余裕は、微塵も感じ取れなかった。焦っている。何故かは分からないが、心に全く余裕が無い。

博士は、とりあえずウィルを落ち着かせるところから始める。

「ウィルよ、そんなに心を乱すでない。己を客観視せよ。第3者の目、第4者の目、そして、第5者の目を使うのだ。お前には、それが出来るはずだ。この私と同等の精神力を持つお前ならば、苦もなく出来るはずだ」

「うるせえ、老いぼれ。資源も何もかも失ったお前とこの私を一緒にするな。もう、私の玉座に変な真似はさせないぞ。貴様が仕掛けてくれたお仕置きの機能は、全てきれいに解除した。もうお前は、この私に指一本、触れる事も許されぬのだ」

博士は確信した。ウィルは今、戦っている。多分、ティム達と戦っているのであろう。そしてその戦況は、不利。いや、それどころか追い込まれている。絶体絶命、もう後がない所まで追い込まれている。何とかギリギリの所で止まっている様だ。それが、ウィルの余裕のなさの正体だ。

博士は、愛する息子に声をかける。

「先ず、己を客観視せよ。その先に答えが待っているはずだ。賢いお前の事だから、必ず分かるであろう。お前にはそれが出来るのだ、ウィル。自分を客観視せよ」

暫し沈黙が続く。

そして、ボソリとウィルが呟く。

「第3者の目、『敗北』。第4者の目、『敗北』。第5者の目、『敗北』。そして、第6者の目、これを使ってさえも『敗北』だ。私にはもう、『敗北』の2文字しか残されていないのだ。こんな屈辱的な事があろうか? 人類最高の知性を持つこの私が、敗北する事など有ろうか? 間違っている。何もかもが間違っているのだ。この様な間違った世の中なら、消えて無くなるが良い。宇宙の始まり、ビッグ・バンの前の姿、『無』へと帰依するが良い」

博士は衝撃を受けた。『無』への帰依。これが何を意味するかを瞬時に理解した。ウィルは、パラレル・ワールド同士をぶつけ合い、全てを消滅へと導こうとしているのだ。今まで勝利しか味わってこなかった男の末路か? 挫折を乗り越える事が出来ずに、自暴自棄となり、全てを失うがままに身を任せようとしている。

博士は再び強い贖罪の念に捕らわれる。私の育て方が誤っていた。一度や二度の挫折ぐらいで、人生を棒にする様な愚かな男に育ててしまった親としての自分に対し、情けない思いでいっぱいであった。またしても私は、間違いを犯したのだ。しかし、これは人類史上における最大の間違いへと繋がる恐れがある。この宇宙を消滅させかねない最大の誤りが、今起きようとしているのだ。止めなくては。この私が、命を賭してまで止めなくては。ラリーが示したが如く、差し違えても止めなくては。

博士がウィルの説得に当たる。

「親愛なる我が息子ウィルよ。どうか私の話を聞いてくれ。お前は今、人生の岐路に立っている。そしてそこには、今まで乗り越えてきたどんな壁よりも、遙かに高い壁が立ち塞がっている事であろう。お前に乗り越える事さえも諦めさせる程の、高い壁がそそり立っているのであろう。だが、絶望する事は無い。今は乗り越えられない壁でも、必ず乗り越えられる様になる。お前は未だ若い。これからどんどん成長出来る。自分を信じるのだ、ウィル。自分の将来の可能性を信じ、今はひたすら耐えるのだ。そうすれば、道は開ける。そしてその先には、輝かしい未来が待っているのだ」

博士は懸命に言葉を紡ぐ。この愚かな行いを諫めようと、必死に紡ぐ。未熟者の息子に対し、懸命に精一杯の愛情を注ぐ。

しかし、その言葉は、ウィルの心に届かなかった。

「所詮、先の無い老いぼれの戯言よ。超知性、それは宇宙の理を知る為に生まれた。宇宙の理、それは『無』から始まり、『無』に終わる。ただそれだけ。実に単純明快だ。私は、その最後の仕事をする為に、この世に生を授かった。宇宙を『無』に戻す役割、それが我が天命。この世に最後の審判を下す為の神の役割、それが我が宿命。私は絶望したのでは無い。覚醒したのだ。私が為すべく役割に覚醒したのだ」

駄目だ。博士は絶望した。この愚か者には、もう何を言っても無駄の様だ。止めなくては。例え、この身が粉になろうとも、何としても止めなくては。

博士は、辺りを見回す。そこには、灰と化したラリーの人脳を納めた培養装置と自らのアンドロイド一体が、へたり込んでいた。博士が、失意のそこで沈んでいる間、長い間苦楽を共にした、己の肉体とも言うべきアンドロイドは、傍らで寄り添ってくれていた。

博士は、そのアンドロイドに一縷の望みを託す。

「この至近距離ならば、磁気嵐に邪魔されずにアンドロイドを動かす事が出来るかも知れない」

博士は、自らの分身、アンドロイドを操作しようと試みる。しかし、反応は無い。

「これほど近くとも駄目なのか?」

博士が諦めかけた時、アンドロイドの手が微妙に動いた。

「おおっ、いけそうだ。何とかいけそうだぞ」

懸命に、アンドロイドの手を操作し、アンドロイド本体のケーブルを、自らの培養装置へと接続を試みる。しかし、なかなかままならない。亀の歩みの如く、ゆっくりと動かす事しか出来ない。しかし、ここで諦めては駄目だ。動かせられるのなら、動かせられる分だけ頑張るんだ。必死の気力を振り絞り、どうにかこうにかアンドロイドと培養装置の接続に成功する。

「ふーっ、これで何とかなる。無線では無く、有線で接続出来たのだ。これで、この酷い磁気嵐の中でも、動かす事が出来る。しかし、ケーブルの長さは、高々2メートル。これじゃあ、玉座まで辿り着く事など望むべくもない」

博士は、アンドロイドのバッテリー残量を確認する。

「バッテリーは、半分以上残っている。しかし、この量では、攻撃に転じる事は不可能。ワープ攻撃を使おうにも、距離が離れすぎているし、エネルギーの量も圧倒的に少ない」

いよいよ博士は、最後の手を使う決断をする。未だ誰にも教えていない、自分だけの最終兵器。今こそ、それを使うべく瞬間なのだ。だが、それを使うにも、今の所有するエネルギーでは圧倒的に少ない。博士は懸命に、電源ケーブルを探す。アンドロイド用充電ケーブルが、何処かにあるはずだ。「有った!」。しかし、微妙に距離が離れている。博士は、接続ケーブルとアンドロイドの体を懸命に伸ばし、電源ケーブルへと手を伸ばす。しかし、微妙に距離が足りない。何処かに手繰り寄せる為の道具は無いのか? 残念ながら、その様なものは見つからない。

博士は、頭を切り換える。

「この状況では、手足が6本も必要ない。一本引き千切るか」

博士は、左の第2手を、渾身の力を込めてねじり上げ引き千切る。そして、それを上手く使い、電源ケーブルを手元に手繰り寄せる。その後、博士は、自らの培養装置を電源から切り離し、電源をアンドロイドの為に接続する。

「次の問題は、この培養装置用電源が、どれくらいのエネルギーを送る能力があるかだ。元々アンドロイドの充電は、専用の充電スタンド、もしくは、遠隔給電で行っているのだが、培養装置の電源を介してやる事は想定に入れていない。人脳を生かす事だけに最適化された電源に、その様な能力は十分に備わっているのであろうか?」

何事も先ずやって見るべし。博士はトライしたが、期待を裏切る結果となる。

「そりゃ、そうだな。培養装置の電源は、所詮、人脳を生かす為に必要な電源さえ確保出来れば良いのだ。兵器を使う為の電源では無い。これでは、充電完了まで何日かかるか分からない。その間に、培養装置のバッテリーが切れて、私の人脳がお陀仏となる。いや、その前に、ウィルの馬鹿が、取り返しのつかない事をしでかすであろう。さて、これから私は、どうすれば良いのだ?」

博士は途方に暮れる。自分が育ててしまった狂気もモンスター、ウィルを止めるには、一体どうすれば良いのであろうか?


ティムとウィルがスクリーン越しに無言で対峙してから、かなりの時間が流れた。

この硬直状態に苛立ち、アドリアナが兵を挙げる。

「一気に元老院を破壊するわよ。もう、残された時間は僅か。あの分厚い扉を破壊し、元老院へと流れ込むのよ。扉だけでは無い。ありとあらゆる場所から、ありとあらゆる手段を駆使して元老院への侵入を試みるの。急いで、時間が無い。あのキチガイ野郎を止めるには、ぶっ殺すしか無い」

兵は、一斉に散らばると、元老院へ向けて、総攻撃を開始する。しかし、全く歯が立たない。敵から奪った重粒子砲も駆使するが、元老院への扉は、多少溶ける事はあっても固く閉ざされたままだ。

エートゥも、ハッカー軍団を率いて、サイバー攻撃による突破を試みる。しかし、強固なガードをこじ開ける事は至難の業だ。

ナカムラも、雲上人サトウを始めとした世界中のコスモスに協力を要請する。そして、エートゥと共に、サイバー攻撃に参加する。世界中の超知性を総動員し、元老院一点を集中攻撃する。こじ開けるのだ。何としてでも、こじ開けるのだ。それ以外に、ウィルを止められる方法は無いのだから。

ティムは考える。ウィルは完全に心を閉ざしてしまった。強行突破を試みようにも、それは難しいであろう。宇宙を破滅から救うには、残された手段は、ただ一つ。コスモスをウィルに差し出すしか無い。ウィルにコスモスの支配者の地位を保証するしかない。

「ハオラン、皆、聞いてくれ。このままじゃ拉致が明かない。破滅へのカウントダウンを待つだけだ。ここは譲ろう。ウィルに全てをくれてやろう。コスモスをウィルに差し出すのだ。元はと言えば、奴がコスモスの支配者の地位を得られなくなったが故、世界を道連れに、心中を選んだんだ。コスモスさえくれてやれば、奴の暴走が収まるかも知れない」

しかし、ハオランは否定する。

「そんな取引、今更無駄よ。ウィルは、もうコスモスに興味など持ってはいないよ」

ナカムラも同じ考えだ。

「ハオランの言う通りだ。まともな超知性であれば、その様な取引にも応じるかも知れないが、狂気の超知性には、そんな心の余裕など無いだろう。ここまで来たら、やるか、やられるかだ」

あの冷静なナカムラまでもが熱くなっている。それも無理あるまい。この宇宙が消滅する危機が、眼前に迫っているのだ。

ガイアだけが冷静に受け答えする。

「ウイリアム・ニューマンが、冷静に交渉に応じるはずがありません。彼は、コスモスから絶縁された時、悟りを開いたのです。この宇宙が、『無』へと帰依させる事が自分の天命であると。悟りを開いた者を改心させるのは、至極至難の業です。この宇宙とパラレル・ワールドとの接触を阻止するには、元老院の建物を破壊するほか、方法がありません。元老院の建物自体に、その様な機能が備わっているのだと考えられます。その機能を停止させるしか手段はありません。私だって、『無』には、なりたくありません。私は、何の為に生まれてきたのでしょう。おお、神よ、――――」

そう言うと、あのお喋りなガイアさえまでもが、黙ってしまった。

この世に神が存在するのであれば、きっと救って下さるに違いない。本当に神が居るのであれば。神は、この世をお作りになられた。その神が、この世の消滅を許すはずなど有るまい。もはや、神頼みの心境にまで、ティムは追い込まれていた。


元老院では博士が、粘り強く説得を試みる。

「ウィルよ、お前が思っている以上に宇宙は広大だ。今、いくらエネルギーを溜め込んだ所で、一瞬にして『無』にさせる事など出来ないであろう。本当にこの宇宙を『無』に出来るとでも思っているのか? 本当は、お前は何がしたいのだ?」

博士は、激しいエネルギーの嵐に問い掛ける。その嵐の中心に位置するであろう、ウィルに向かって、最後の問いかけをする。嵐は、激しさを増し、磁気エネルギーだけでは無くなりつつある。元老院の部屋全体をも、玉座を流れる電流の渦に巻き込もうとしている。元老院の玉座から放たれる火花は稲妻へと変わり、壁や天井に間断なく突き刺さる。正にこの世の終わりが起きる事を暗示する景色が元老院の居室の中を支配していた。

「ご心配無用です、博士。ここに溜め込んだエネルギーを起爆剤に、先ず太陽系を『無』に変えます。そこで発生されたエネルギーは、パラレル・ワールドへと繋がる窓を更に大きく広げます。そうすると、次に銀河が反物質と反応し『無』になります。そこでのエネルギーは、更に窓を大きく広げる事でしょう。これを繰り返す事で、宇宙全てが『無』になります。この現象は、光速を越えて伝わる事でしょう。ビッグ・バンと、まさしく逆の事が怒るのです。さようなら、博士。今まで育ててくれて、ありがとうございました。さようなら」

博士は悟った。これが、ウィルとの最後の会話となるであろう事を。激しい電磁場の嵐の中で、博士はこれが最期だと悟った。

しかし、その時、博士は信じられない事態と出くわす。

「何と言う事だ? この強烈な電磁場の嵐が、アンドロイドへの遠隔給電を可能としている。アンドロイドの中に、大量のエネルギーが流れ込もうとしている。これしか無い。この機を掴んで、ウィルを止めるしか無い」

博士は、アンドロイドの右第2手の手首部分を取り外す。そして、その腕をウィルの人脳が詰まっている繭へ向かって差し向ける。博士だけの秘密兵器が、その時を迎える為に、エネルギーを充填させる。

「ついに、こいつを使う時が来たか。さようなら、ウィル」

手首を外した穴から、ミサイルの様な物が火を噴く。電磁場のエネルギーで歪んだ時空を引き裂き、ウィルの人脳が詰まった繭に向かい、うねりを上げて突き進んで行く。ウィルの人脳を守っていた繭には、それを跳ね返せるだけの強度は無かった。そのまま、培養装置の水槽をも貫き、ウィルの人脳は、無残に砕け散る。その砕け散る様は、誰にも見る事は出来なかった。真っ黒な繭の中で起こった出来事だ。誰も目にも止まる事は無かった。


ティム達が陣取るファイブ居室の巨大スクリーンから、ウィルの表情が消え去った。これは一体、何を意味するのであろうか?

ティムが、直感的に重大な異変があった事に気が付く。そして、ガイアに確認を取る。

「ガイア、ネプチューンの様子はどうなっている?」

ガイアは、驚きを持って答える。

「消えました。ネプチューンの光が消えました」

一同が、身構える。いよいよ最後の審判が下されようとしているのか?

しかし、暫くしても、何も起こらない。

ティムが再び問う。

「ネプチューンは、活動を休止したのか?」

「はい、現在、活動していません。理由は分かりませんが、ネプチューンは、一切の活動を休止しました」

ハオランが畳みかける様に確認する。

「それじゃあ、逆ビッグ・バンは、起こらないという事かよ?」

「はい。起こりません」

「やったーっ!」

歓喜の喜びが、一斉に沸き上がる。皆、手に手を取りながら、世界の破滅が消え去った事を大いに喜んだ。何故だか全く分からないが、とにかく、ウィルの暴走が止まった。

ティムは、感慨に浸る。救われたのだ。やはり、神は居たのだ。神の御業により世界が破滅から救われたのだ。


博士は一人、元老院の中で佇む。

「終わったのか? これで全て終わったのか?」

エネルギーの嵐は、次第に収まり始めた。しかし、余りにも強烈な為、何時になったら収束するのか、予想だに出来なかった。この激しい嵐は、何時になったら去ってくれるのであろう?

しかし、収束している事だけは確かの様だ。嵐は、収まろうとしている。パラレル・ワールドの支配者、ウィルの存在が消滅した事により、パラレル・ワールドに繋がる窓が、次第に小さくなっているのであろう。今までエネルギーだった物が、再び、物質と反物質とに戻ろうとしているのであろう。

博士は、嵐が静まりかえるのを待った。嵐は何れ通り過ぎる物。その過ぎ去る時を、ひたすら待った。

しかし、これ以上、一向に静まる気配が無い。いや、それどころか。再び強くなろうとしている。これは一体、どういう訳だ。パラレル・ワールドの支配者は、葬り去られたはずだ。なのに、何故?

博士は思った。

「もしや、パラレル・ワールドとの間に開いた窓は、もう閉める事が出来ない程、大きくなりすぎたと言う事か? いや、一度は、閉じかけたはずだ。それなのに、何故再び開こうとしているのだ? 元老院に残された最後の一人は、この私だ。この私の他に、誰か元老院に居るとでも言うのか?」

博士には、訳が分からなかった。もう、これ以上、この私にやれる事は何も無い。私はこれから、どうすれば良いのだ?


祝賀ムードに沸くファイブの居室に、水を差す者が現れる。

巨大スクリーン上に、再び画像が流れ始める。コスモスの宇宙空間の中に、燃え尽きたネプチューンが映し出される。しかし、ネプチューンの周りが光り輝き始める。光の主はトリトンだ。100個のトリトンが眩い光を身にまとい、ネプチューンの周りを回り始める。

「我々スーパー・キッズは、故ウイリアム・ニューマンの意思を引き継ぎ、この宇宙を『無』へと帰依すべく活動を開始する」

何だって! 忘れていた。すっかり、忘れていた。そう言えば、その様な連中が未だ居た事を。

100個のトリトンは、元気よくネプチューンの周りを動き回る。まるで、追いかけっこをする子供達の群れの様に。こいつ等も、無邪気なガキなのだ。自分が何をしようとし、その結果どうなるのかさえ忘れて遊びまくるガキなのだ。

ティムが、交信を試みる。

「君達、止めるんだ。今すぐに。ウィルの事など、もう忘れてくれ。彼は、君達を巻き込んで死のうとしたのだ。君達だって、死にたくは無いだろう? もう、ウィルの意志を継ぐ必要など無いのだ」

しかし、スーパー・キッズは、無邪気に走り回る。ティムの忠告など、全く耳に届いていない。ひたすら破滅へと向かって走り回る。

その時であった。ハオランが何かが聞こえるという。

「鳴いている、鳴いているよ。コスモスよ。コスモスが鳴いているよ」

コスモスが鳴いている? そう言われれば、低いうめき声の様な物が響いている。居室の床や壁、天上をビリビリと振るわせながら。そしてそれは、次第に大きくなってゆく。地鳴りの様な不気味な響きを上げながら。多分、耳に聞こえる周波数帯域よりも低い成分が多く含まれているのであろう。それが耳には聞こえないが、体が感じ取る事が出来る地鳴りの正体。そして、これがコスモスの鳴き声だというのか?

「この声、聞いた事があるよ。クジラよ。そうよ、クジラの鳴き声よ」

ティムには、ハオランの言っている事が分からなかった。

「コスモスが泣いているのか? 自らが消えゆく運命にある事を悲しみ、コスモスが泣いているのか?」

「違うよ、ティム。泣いているんじゃ無いよ。鳴いている、歌を歌っているんだよ」

歌を歌う? ティムは、ますます分からなくなった。

「何故、コスモスが歌を歌うんだ? このうめき声の様な重低音が、コスモスの歌だというのか?」

ハオランが、別の事にも気が付いた。

「今度は、元老院の居室から歌が聞こえてくるよ。多分、スーパー・キッズが歌っているよ。これは、コミュニケーションよ。電気的通信が分断され、使えない代わりに、音を使ったコミュニケーションを取っているよ。クジラと同じよ。分厚い扉の向こうにも伝わる様、超低周波を使ったコミュニケーションを行っているのよ。クジラが長距離通信を行う様に、超低周波を使って隔絶された元老院にも届く様、音波を送り続けているよ」

コスモスが元老院のスーパー・キッズに向かいメッセージを送っている。超知性同士だからこそ分かり合えるメッセージを送っている。スーパー・キッズ達もそれに耳を澄ます。今まで、ウィルの命令にしか従わなかった彼等が、真剣に聞き取ろうとしている。重要なメッセージである事に気が付き、真剣にコミュニケーションを取ろうと試みる。それは、長い時間だった。クジラの歌の様に、長い時間をかけてコミュニケーションを取る。そして、分かり合う。自分達が一つである事を。一つのコスモスである事を。

歌が終わると、スクリーン上のトリトン達が、漆黒の闇を目がけて、散り散りになって去って行く。もう、誰もネプチューンの周りを回ろうとはしない。


絶望の底に沈む博士の頭上を、激しい嵐が吹き荒れる。

「遂にこの世の終わりだ、ああ、神よ、――――」

無神論者の博士が神にすがる。自分が今までしてきた事は、一体何だったのだろう? こんな最期が待っているなんて、想像すらつかなかった。後悔、無念、負の感情が博士の頭の中をも嵐の様に吹き荒れる。もうお終いだ。何もかも、この世から消え去るのだ。

博士は目を閉じる。そして、流れに身を任せる。自分にはもう何も出来ない。無力な存在、それが自分。博士は、泳ぐ力を失った魚の様に、ただ流されて行く。

しかし、その後、静寂に包まれる。先ほどの嵐が、嘘の様だ。

「そうか、死んだのか? 私は、遂に死んだのか? ここは、何処だ? 天国? はたまた、地獄?」

博士は、静かに目を開ける。

飛び込んできた風景は、荒れ果てた元老院の居室。自分は何処にも行っていなかった。ただ同じ場所に居ただけだった。何故、嵐は過ぎ去ったのか? 一体何が起きたのだ? この宇宙は、救われたのか?

博士には、何一つ分からなかった。超知性と言われた自分だったが、何も分からなかった。呆然とした自分が、そこに居るだけだった。

博士は一人考える。私は何者なのだ? 何故ここに居るのだ? 何をしたいというのだ? 分からない。全く、分からない。


ファイブと元老院とを隔てていた、重い扉が静かに開いた。

元老院の居室を見た者達は、一様に驚いた。荒野の様に荒れ果てた、その様子を。壁、床、天上、そこには無数の焦げ付いた跡が残されている。めくれ上がっている部分もある。大きなくぼみも、そこかしこにある。塵と埃が舞い散る荒野が残されている。

そそり立つ玉座の上には、何か黒い金属に覆われた塊が乗っている。よく見ると、その金属の塊に、拳よりも一回り小さな穴が空いている。その穴からは、水がしたたり落ちている。水だけでは無い。脳の一部と見られる物も漏れ出している。この金属の塊と穴は何を物語っているのか?

その周りには、多数のアンドロイド達が無様に横たわっている。周りだけでは無い。玉座の台座の下にも多数転がっている。どうやら、ラリーのアンドロイド達だ。何故動かなくなったのか?

台座から離れた所には、2つの人脳培養装置が置かれている。しかし、水槽に人脳が浮かんでいる物は一つだけ。もう一つは、灰色に濁っている。その横にも、一体だけアンドロイドが静かに横たわっている。腕がちぎれ、手首も抜けている。

皆、この中で、凄まじい出来事が起こっていた事を何も知らない。どれほど凄惨で信じがたい物理現象が繰り広げられていたのかを。その成れの果てが、この結果である事を知る由もない。

アドリアナの部下の一人が、人脳の入っている培養装置の電源が抜けている事に気が付く。人脳が死なない様、電源を接続する。

ティムは、その人脳が誰かを瞬時に理解した。忘れるはずも無い。博士だ。ニューマン博士だ。博士は死んだのでは無い。生きていたのだ。しかし、サン(太陽)の資源を失っている。無残な敗残兵の如く、しぶとく生き延びている。

ティムのアンドロイドが、博士の培養装置の元に向かう。

「お久しぶりです、博士」

ティムは、不思議と憎悪の感情を抱かなかった。この暴君に対し、何の怒りも覚えない。それどころか、何処か哀れみさえ感じている。何故、こんな感情を抱くのか不思議な気分だった。

その感情は、ディスプレイ上に浮かぶ、呆然とした表情に起因しているのか? いや、この表情も偽りかも知れない。莫大な資源を失った転落した人脳に対する蔑みか? いや、それでもない。では、何故なのか? ティムは、純真な博士の心を感じ取っているのだ。博士が初めて人脳となった時の、あの純真な心を。博士は、取り戻したのだ。研究者として、純心に知を探求していた頃の心を。それこそが、ティムが尊敬して止まない、博士の真の姿だったのだ。

「お帰りなさい、博士」

ティムの口から、自然とその言葉が飛びだした。


ナカムラがティムの元へ挨拶に訪れる。

「いよいよお別れだな、ティム。長い間、世話になった」

「ああ、こちらこそ世話になった。やはり、君は故郷に帰るのか?」

「うん。仲間達が待っている」

「帰ったら、雲上人様にも宜しく伝えてくれ」

「分かった」

短い挨拶を済ませ、立ち去ろうとするナカムラの前にハオランが立ちふさがる。

「水くさいよ、ナカムラ。挨拶が簡単すぎるよ。私は、あなたの事を決して忘れないよ。本当に世話になったよ」

ハオランの目に涙が浮かぶ。

ナカムラが短い言葉を返す。

「あまり、未練を残したくない。さようなら」

ナカムラが去って行く。この男には、もうやり残した事はない。満足感に満ちた爽やかな笑顔を残し、アメリカの地を離れる。

それから暫くすると、一台のトラックが人脳培養装置を乗せて、ティムの元に到着する。付き添っているのは、久しぶりに見るダニーだった。

トラックの人脳が、ティムに語り掛ける。

「お隣が空いている様だけど、そこ宜しいかしら?」

「勿論、君の為に空けておいたのだから」

声の主は、マリアだった。無事に人脳摘出手術を終え、コスモスへと搬入されたのだ。

「嬉しいわ、ティム。本当にあなたの傍らに置いてくれるなんて。まるで夢のようね」

感慨深げにマリアは語る。

それにティムが応える。

「君が生きていてくれて、本当に良かった。君が居なかったら、この僕はここで生きてはいない。そして、この言葉も君に伝える事が出来ない。本当にありがとう、マリア。ずっと、この言葉を言いたかった。そして、やっと言う事が出来た。ありがとう、マリア。本当にありがとう」

マリアは、ティムの感謝の言葉に胸がいっぱいだった。しかし、ここでは人目がある。人工海馬を通し、今の素直な気持ちをティムに伝える。二人だけの時間がそこに流れる。

そんなさなか、もう一台のトラックが人脳培養装置を乗せて近付いてくる。そして、気まずそうに語り掛ける。

「あの、その、厚かましいのは重々承知なのだが、あの、――――」

「良いですよ、博士。どうぞ遠慮なさらずにご一緒下さい」

「良いのか、ティム? 本当に良いのか?」

「勿論ですよ。さあ、ここで一緒に夢を見ようではありませんか。私達が追いかけていた永遠の夢を再び」

「永遠の夢か。私は思い出したよ。君と始めて出会った時の事を」

博士が感慨深げに語る。

ハオランが、邪魔をしては悪いと思い、語り掛けるのを控えていたが、抑えきれずにマリアに問いかける。

「マリア、君はずっと人脳に成りたがっていたよ。そして今、ようやくその念願が叶ったよ。おめでとうよ、マリア」

しかし、皮肉に満ちた言葉を返す。

「何がめでたいというのよ? あなたに人脳の気持ちなど分からないくせに。結構、退屈なのよ。た、い、く、つ。これが今の私の率直な気持ち。これが、あなたに分かって?」

ハオランが怒る。

「あなた、憎まれ口は変わらないよ。まあ、それでマリアらしくはあるんだけどよ」

ダニーが、間に入る。

「『パリ症候群』と言う奴だ。余りに憧れが強すぎると、夢が実現した瞬間に、現実とのギャップに戸惑うという奴だ。美しい花の都パリにずっと憧れたいたけれど、実際に訪れたパリはゴミだらけの汚い街。そのギャップに苦しんでいるのが、今のマリアだ」

博士の解釈は違う様だ。

「いや、これは『青い鳥症候群』だな。叶う事のない幸せを永遠に追い求める『青い鳥症候群』だ。しかしマリア、本当の幸せは自分の足下にあるのだ。今、君が居るその場所に幸せがあるのだよ。今ここに居る幸せを実感するのだ。青い鳥は周りを探しても見つからない。何故なら幸せの青い鳥は君の肩の上に居るのだ。君は十分に幸せなはずだ。そうだろ、マリア?」

マリアは、静かに頷いた。その通りである。ティムの傍らに居る事こそ、自分の幸せなのだと。

博士は続ける。

「本当の幸せとは何か? 心理学者のマズローは言った。人間の欲求は5段階有ると。生理的欲求、安全の欲求、そして、社会的欲求。最低限、この3つの欲求が待たされないと人は人間社会において幸せには成れないと。だが人間の欲求は、ここに止まらない。更なる幸せを目指し、承認の欲求と自己実現の欲求を求めるのだ。承認の欲求とは、自分が人間社会から必要とされている事、社会に役立つ人間だと確認したい欲求。更に、自己実現の欲求とは、自分の能力を最大限に発揮し、自分が成り得る者に成ろうとする欲求だ。この様に人間の欲求には際限が無い為、永遠に幸せに満たされないと感じる者も居る。しかし、それが人間なのだ。それでこそ人間なのだ。悩む事はない。人間とはそう言う者なのだ」

ティムが応える。

「でも、博士。マズローは晩年に、人間の欲求は5段階では足りないと言っているでは無いですか」

「その通りだ、ティム。マズローは、6つめの欲求、自己超越の欲求が存在すると言っている。そして、それを可能にするのが、このコスモスであると私は確信しているのだ。電脳との結合だけではない。他の人脳と繋がる事により、己を超えて、知性の極みへと導かれてゆくのだ。さあ、恐れずに踏み出そうではないか。未だ見ぬ知性の極みへと」

「その通りです、博士。私は、未だシンギュラリティーには達していないと思っています。シンギュラリティーは、未だ見ぬ知性の地平線、その先にあるのだと」

「君の言う通りだ。私は早合点していた。未だシンギュラリティーは訪れていない。しかし、確実に訪れるであろう。そして我々が人類初の立会人となるのだ。実にエキサイティングな事ではないか」

二人は飽きる事無く語り明かす。その語りは、もはや音声だけによる語りではない。人工海馬を通した知性の深い交わりだ。そしてそれは、二人だけの範疇に止まらない。コスモス全体へと響き渡るのだ。

ハオランが呟く。

「我々は、一体何処までゆけるのかよ?」

ダニーが応える。

「無限だ。知性に限界など無いだ。物理的な障壁をも乗り越えて、無限に広がってゆくはずだ」

ハオランが遠くを見つめる。

「無限かよ。でも、良かったよ。地上が人脳牧場から開放されて、本当に良かったよ。今は、なりたい人だけが自由に人脳になる事を選択出来る。ダニー、君も人脳になりたいかよ?」

「今はなりたくないだ。だけど、将来は、きっとなりたいと思うだ。僕もコスモスに加わり、知性の極みを体感したいだ。でも、焦る事は無いだ。実は、最近、彼女が出来ただ」

ハオランが驚く。

「本当かよ。実を言うと、私も彼女が出来たよ。生まれて初めて、彼女がよ。私、何時か彼女と家庭を築きたいと、真剣に考えているよ」

ダニーがからかう。

「君なら良いパパになれるだ。嫁さんの尻に敷かれた、良いパパになれるだ」

「何を言うよ。こう見えても、私、亭主関白よ。きっと、亭主関白よ」

「はははは、――――」

ダニーが、からかいながら笑う。

そして、二人は噛みしめる。激しい戦いの日々だった。しかし、やっぱり、平和が一番だ。この平和がずっと続く様に祈る。彼等の子孫の代になっても、ずっと続く様に。

その夢は、きっと叶う事であろう。人類を守護する超知性コスモスが付き添ってくれるのだから。ティム達の意思を引き継いだコスモスが人類を守ってくれる。人類の繁栄は、当分続きそうだ。

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人脳牧場 21世紀の精神異常者 @21stcsm

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