第二章 [VS組織編]

第6話[断罪の舞踏会]


テーブルを囲って座るニーナとナナとハイドフェイスとヒナ

そしてテーブルの上には一つの封筒が置かれている。


「…いや別にこんな会議するほどじゃないって」


「ダメだよお姉ちゃん、いくら何でも相手が悪いよ!」


封筒の中にはニーナへの依頼が書かれていた、それはとある集会を襲撃して欲しいという依頼だったのだが…


「”マスカレード”戦後最大の武装集団の集会を襲撃…これは流石に厳しいですよ…」


「いや別に大したことないでしょ、私、並みの人間相手なら大丈夫だし。」


余裕の顔をするニーナだがハイドフェイスとナナは真剣な眼差しでニーナを見る。


「そうじゃなくて…」


「たしか、護衛の兵士に一人優秀なのがいるとか」


「そうそう」


「いやいや…大丈夫だって…」


ニーナは手をひらひらとさせながら余裕の様子

ハイドフェイスは実際に戦った故か大丈夫じゃないかと言う表情を、ヒナはそもそも無関心だったがナナだけは真面目に心配をしている表情をしている。


「…じゃあ誰か一緒に連れてって」


「え、えぇ…」


ナナが異様な程に心配するので流石にニーナも折れじゃあナナと行こうと言おうとしたが、実はナナ自身とある集団の荷物護衛を依頼されていたのだった。


「仕方ないなぁ…仮面」


「あっ、はい」


ハイドフェイスはニーナの後を付いていく。

ふと足を止め、少々不服そうながらしばらく考えた後、納得したような顔をしてニーナはナナに行ってくるねと伝えながら玄関へ足を向ける


玄関の開閉音がするとナナはテーブルに肘をついて不機嫌そうに言う


「ったく…ま~た一人で行こうとして…」


「また?」


ヒナが尋ねるとナナはいつも見せない様な悲しげな顔でヒナを見る。


「あのバカ姉、ちょくちょく相談もせず一人で大勢相手に戦いに行くから…」


「で、でもあの強さなら…」


「でも…あれは…」


しばしの沈黙の後、再び口を開く。


「何でもない…ごめん」



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「ここがあのマフィアのハウスね」


「ハウス…?」


ニーナとハイドフェイスは大規模マフィア集団、マスカレードの集会場所のコンサートホールだった廃墟の前に立っている


「で、作戦は?姐さん。」


「…?」


ニーナは子犬のように首をかしげる

まさか、とハイドフェイスは悟り恐る恐る尋ねる


「…まさかこのまま正面から行くんですか…?」


ニーナはフフッと笑う


「それ以外無いでしょ」


思わず溜息が漏れる、ナナが心配する訳だと心のどこかで納得してしまった。

そんな事を考えているとニーナはコンサートホールのエントランスへの入口を開ける。

そこには警備員…



だった物が転がっていた



「…あれ?」


あたりを見回すと焼け焦げた者から切り落とされた者まで死屍累々と警備員らしき遺体が散らばっている。


「先客でもいるのかしら」


「だとしたら先に獲物を取らないとですよ、姐さん」


「それじゃホールとやらに行ってみましょ」


ニーナは暗い通路の中へ入りどこからホールへ行けるか探し回るがそこへ一人の影が近づく。


「…ん?この匂いは…」


床に火の粉を散らしながら煙草が落ちる、落ちた煙草から視線を上げるとそこには誰かが立っていた。


「久し振りね、姉さん、まだ生きてたなんて思わなかったけど」



鈍く光る照明で全身が照らされ初めて正体がわかった、そこには髪を後ろで一つに結んだ黒髪の少女が返り血まみれで立っていた。

以前戦った刀を扱う少女、風香だ。

その手には刀とセミオートマチックポンプショットガンが握られている


「狙いは私…じゃないのね」


「そう、だから邪魔しないで、絶対に」


その声は静かだがどこか怒りに満ちて聞こえた。

背筋が凍るような眼差しで釘を刺されたが風香は何かに引き寄せられるように暗闇の通路へ消えていった。


「…にしてもここは暗いですね」


「まあ私暗いとこ慣れてるから大丈夫だけど…あ、あったわ。」


ニーナは大きめの扉を見つける。


「あ、ちょっと待って下さい一応突入の準備を…」


言い切る前にドアを開ける。


すると多数の照明でオレンジ色に照らされた巨大な空間が目の前に広がっていた。

多数の座席には構成員から幹部と思しき者まで並んでおり中央の広場に椅子は殆ど無く指導者と思われる者が何かを演説していた最中のように見える。


広い空間に銃撃音が響くと次に爆発音が鳴り響く。

ニーナは入って目に入った座席へ向かって専用の13mm大型拳銃シュタークパンター、その炸裂弾を放ったのだ。


「あ、あれは噂の!」


「この数に挑むとは正気かっ!?」


座席から立ち上がる構成員達は各々に銃器を取り出し発砲する、だがニーナの背後から黒い触手が現れ高速で銃弾を弾き飛ばしていく。


「じゃ、私左側やるから、右お願い。」


ニーナは赤い瞳を輝かせながら笑顔で告げると入って左側の座席へ駆ける。

向こうからは銃撃音と悲鳴や断末魔が聞こえる。


「まあ、やるか。」


溜息交じりにナナの言葉を思い出しチェーンソーを取り出しこちらに目もくれずニーナへ攻撃している人の塊へ飛び立つ。



_______________________



銃声が鳴り響くホール

仮面を被ったスーツ姿の男と戦闘服の上にコートを羽織った女性がのんびりと他人事のように仲間が死ぬ惨状を眺めている。

その後ろには片側に巨大な眼球状のパーツの付いた仮面を付けた大男?が立っている


「ふっやはり来ましたね、彼女は。」


「どうするの、マスター、私は今すぐにでもあそこに行って戦いたいんだが」


「まあ落ち着きなさいウル、そろそろもう一人のお客さんが来るはずですよ」


「招かざる客人のようですが?」


「…ところでウル、髪をまた切りましたね、ずいぶん短いショートヘアだ、聞こえも良さそうですね」


「ええ、お陰様で鼠一匹逃がしませんよ」


ウルと呼ばれる少女は長い黒と白で彩られたライフルを真後ろの通気口へ連射する

青い銃弾は通気口を文字通り蜂の巣にした。


仮面の男は席から立ち上がる、すると通気口は一瞬で切り裂かれ中から少女が刀を振りかざしながら暴風を起こしながら飛び出すがそれは大男らしき人物の腕により勢いを消される


飛び出して来たのは先ほどニーナと別行動をしていた風香だった。

その表情は15歳程の少女がしていいような顔では無い。

憎悪と憎しみの混じった表情をしていた。


「やれやれ、またあなたですか、ツェーナさん。」


「…その名で呼ばないで」


「おっとそうでしたね、もう呼んでくれる人も居ませんからね。」


その一言で風香の眉が歪む。

刀を握る力はより一層強くなり周りでは嵐の前兆のように風がざわめいていた。


「ヴェニス、お前には用はない私はコイツだけ殺せればいい」


ヴェニスと呼ばれた男はスタスタと歩き出す・


「さて、じゃあ私はこの辺で、ウル頼みますよ。」


「あの噂の猫と戦ってもいい?」


ヴェニスは両手を広げながら楽しげに言う。


「ええ!いいですとも、好きなだけ戦いなさい、でも"仕事"はやっておいて下さいよ~」


「はいはい、それじゃ、バニッシャーその子のお相手はよろしく」


「e8aab0e3818be6aebae38197e381a6e3818fe3828c !?!?!??????」


バニッシャーと呼ばれる巨体の存在は腕に刀をめり込ませたまま聞き取れないうめき声で返答する。

だが刀は滑るように腕を切り裂きながら腕から抜ける、風香はそのまま脇腹を狙い刃を振るうが肘で掃われる。


「e5ab8ce381a0e6adbbe381abe3819fe3818fe381aae38184!!!!!!」


「五月蠅い…!」


刀を手元で回し刃をバニッシャーへ向け再び振るう。

脇を切り裂いたが完全には切れず、傷口も浅い。


「すこし黙らせてやるわ」


左手にショットガンを持ち頭へ向けて放つが避けられ相手の右肩が吹き飛ぶ、が相手は大した事もない様子に思わず舌打ちする。


「ふざけるんじゃないわよ」


そのまま逆手持ちの刀を振り上げるが防がれ…



無い!



それはフェイントで文字通り音速で相手の背後を取った風香、周辺は一瞬で空気が消えあらゆる抵抗が消え去る、その状態で高速の刃を背中に向け貫く。


だが…


「…?」


バニッシャーは胴体が刀に貫かれながらも刃を握りそのままへし折る。

がすぐさま電撃を刃に流し込む風香、バニッシャーの体は痙攣しそのまま焦げ臭い匂いをまき散らし倒れる。


少女はしばらくただ倒れたそれを見ていた。


自分が何をしたのか、頭が理解し始めるとふと笑みが零れ始めた。


「…フ…ハハッ!」


風香は不気味な笑みに顔を歪めながら刀を握り立て続けに電撃を流し込んだ。


刀は高熱で溶解して行き殆ど原型が無くなる頃にはもう投げ捨てられていた。


「…やった?」


風香が喜んだのもつかの間、バニッシャーの手がピクリと動き、だんだんと体が動き始める。


「コイツまだ・・・!」


ショットガンを向けようとしたが敵の動きが速く頭を鷲掴みにされ遠投される。

どうにか空気を集め速度を落としながら中央の広場へ着地する。


「クソッ…アイツは…?」


上を見るとバニッシャーが軽機関銃を構えこちらを見据えている。

電撃で付近を吹き飛ばしその衝撃波に紛れ通気口に入り込む。


「…次こそは……殺す…」



_________________________


むせかえる血の匂い


一面に転がる薬莢


屍の山の中で2人の女性が向かい合う


「やっぱり人間じゃハイブリッドには勝てないか」


ウルはニーナとその近くに転がる構成員の死体を見て言う。

ニーナはにやりと笑みを浮かべながら撃ち切ったマガジンを銃から排出し地面に落とす


「貴女が噂の護衛って奴?」


ウルはニーナの問いに対してウィンクをしながら人差し指を前に掲げる


「ご名答、私はウル…貴女と同じハイブリッドで…」


バァン!! バァン!


「…話の途中なんだけど」


ニーナの不意打ちで放った銃弾をひょいと避けるウル、続けて撃ち続けるがどれも避けられる。


「話を戻すけど、私は犬型のハイブリッド、その中でも特別な子の6番目なの」


話をしながら銃弾を見切り回避するウル。

その表情はどこか余裕で楽しげだ。



「フーン、どうやら速く戦いたいみたいだね。」


「長話が嫌いなだけよ」


「そう、ところで足元に注意した方がいいわよ。」


ウルはニーナの足元を指さす、ふと見るとそこには手榴弾が3つほど転がっていた。


(何時の間に?)


正面を見ると何やら白いライフルを構えたウルがこちらに銃口を向けながら少しずつではあるが後退している。


とにかく近くの死体を念動力で引き寄せ手榴弾の上に被せ爆風と破片が散るのを防いだ、が、ウルはライフルを放つ、いつも通り逸らして避けようとするが銃弾の向きが変わらり難い。


「対ハイブリッド用ライフル、通称オーガニクスライフル。」


数発が体や頬を掠め取り火傷のような鋭い痛みが走る。


「…なるほどね」


ニーナは得意の脚力を生かし一気に接近する。

手持ちのハンドガンを確実に当てる距離ならば長いライフルは取り回しが悪い。


「と、でも考えてるんでしょうね」


側面に回り込むもウルはトカレフを片手で持ち既に待ち構えていた。


数発の弾丸が目の前に迫る、が力を使い勢いを殺し左手でどうにか致命傷を避け受けきり、右手の13mm拳銃を打ち込むがトカレフで絡ませながら射線を逸らされる。


「なるほど、当たらないなら無理矢理当てればいい。」


触手で絡めとるように切り裂こうとするも、銃をそのまま弾き飛ばされながら触手に銃弾を撃ち込み勢いを消しながら距離を離す。


「この程度とは思わなかった…よ。」


横から飛んできたチェーンソーをヒョイと避けながら何やらリモコンのような物を取り出す。


「それじゃあ、生きてたらまた。」


ピッ


その機械音の次の瞬間に爆音が鳴り響き座席が幾つか吹き飛ぶ。

足元が大きく揺れ始め、ウルの方向をもう一度見るとそこには既に誰もいなかった。


「…負けた…私が?」


中央の広場へ駆け出し飛び降りる。

かなりの高所だが、猫のDNAから受け継いだ特性で無事着地する。


上を見上げると、入口の何もない空間が微かに歪になっておりゆっくりとバチバチと音を立てながらウルが見え、こちらへ手を振りながらドアの向こうへ消えた。


「…ナナに怒られるかな…」


左手の傷口を抑えながら言う。



_____________________________________



研究所にて



休憩室には一人の少女、ヴェロが一人自販機の前で唸っていた。


「…やっぱお茶か…いや気分を変えてリンゴジュース…」



「何を迷ってるんだ?」


そこに一人の青年と人より一回り大きいロボットのような物が入って来た。


「…今頃何?随分長い間休暇を取っていたみたいだけど?」


「いや、本当に悪かったって…」


「ごめん」


ロボットのような物も謝罪するがヴェロは不機嫌な顔で当てつけるようにボタンを押すが間違ってコーヒーを買ってしまう。

その缶コーヒーを青年に投げるように押し付ける。


「…お前のせいで間違えた、飲め。」


「…まあ嫌いでは無いが…」


仕方なく自販機にお金を入れ改めてリンゴジュースを買う。


「私がこうして暇になってるのは誰のせいだと思ってるんだ、ケルさん。」


「いや…それは…そのスーの調子がだな…」


ケルと呼ばれる青年はロボットのような物を指さすがヴェロは目もくれず椅子に座り紙パックのジュースからストローを取り外す。


「 大事 な 家族 の 妹 さんが調子悪いとすぐそうするよね」


嫌味たっぷりに言いながら紙パックにストローを付き刺す。


「何がチームケルベロスよ、3人で行動したのなんて片手で数えても余りが来るぐらいじゃない。」


「だから…悪かったって…この埋め合わせは必ずするからさ…」


弁解しようと近づくものの寄るなと言われ素直に反対側の椅子に座る。

ズズズとジュースを啜る音だけがしばらく流れる。


するとケルがようやく口を開く。


「なぁ…俺らが居ないだけでそんなに怒る事あるのか?」


「あるに決まってる!」


眉間を寄せながら紙パックを握り潰し怒りをあらわにする。

そのまま紙パックをゴミ箱に叩きつけるように投げ捨て続ける。


「3人で分担する仕事を 私 が全部やらされて責任も全部 私 が取らされて社長に叱られるのも 私 だけ、これで怒らない方がおかしいわ!」


「お前は何時も妹の事ばかり、少しは弁えろ馬鹿!」


ケルの後ろのスーを指差しながら声を荒げて言う。


「仕方ないだろ!唯一の家族なんだぞ!」


「…ッ…私には家族なんていない!」


ハッとなりケルは何も言わずただ啞然としていた。

ヴェロは今にも泣き出しそうな顔で休憩室を飛び出していく。




______________________________



<用語解説>


OCAR-02C オーガニクスライフルウルカスタム

・ハイブリッドの一つヴォルフシリーズの初期ロット型ヒュブリーデの6番目、通称ウルが自身に合わせて改良した物


チームケルベロス

・犬と人間を組み合わせたハイブリッド3人組、孤児三人を試作品としてハイブリッド化させたもの。


<登場人物紹介>


ヴェニス 年齢不明

・裏社会では有名な紫の目に悪いスーツを身にまとったピエロのような仮面の男、様々な組織や企業と手を組み廃墟街で戦いなどを起こして稼いでいる。

組織と手を組んでいるマスカレード幹部の一人、ウルを組織から買い取りバニッシャーの戦闘データを取り多額の報酬を貰っている。



ヒュブリーデ06(ウル) 年齢不明

・ヴェニスが気に入り買い取ったヒュブリーデでかなり初期に作られた古参ハイブリッド、並列思考が可能で避けながら喋ったり複数からの攻撃も避けれる。

ヴェニスに貰ったトカレフは愛用品。


ケル 16歳

・妹が難病を抱えており親に妹と共に捨てられた少年、妹の延命を約束に組織に入るが妹共々ヴォルフシリーズの試作品ケルベロスの一員となりヴェロを含めた三人組で過ごしている、妹のことを自分の命以上に大切にしており他人をあまり信用していない。


スー 14歳

・ロボットのようなパワードスーツを身に纏った幼い少女。

難病を患っていたが全身を機械化した事で解決した。


風香(ツェーナ) 15歳

・バニッシャーに対して異常な程拘りのある少女。風香と自称しているがツェーナとも呼ばれてる。

この年で煙草を吸っているのはこの世界には法など無いのを改めて実感させられる。


_________________________________________________________________________



あとがき



どうもお久しぶりです。



取り敢えず今回はチームケルベロスの残りの登場やらニーナの無茶な性格を描きたかっただけの回的な。



本当はウル戦もっと描きたかったんですがgdgdやっても仕方ないので早々に切ったり等々結構今回はリハビリも兼ねて短めに。




何時もの次回予告を



「いよいよあの日だよ!お姉ちゃん!」


「え?何かあったっけ?」


「もう…私が決めて上げたでしょ?人だけじゃなく生き物全てにとって大事な日だよ!」


「そんな事より2人とも、新しい刺客が来るらしいんだが…」



次回 第七話「騒がしい会」


「お姉ちゃんがデレます」


「ないわよ!」


次回も気長にお楽しみに~



(キャラに次回予告させてみたかっただけなんじゃ)


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