第5話
スマートフォンを開けてみると、全く充電が減っていない事に気が付いた。
得体の知れない違和感を感じながらも、とりあえず電源を落としておいた。
今日こそは、家に帰らなくてはならない。一晩泊めてもらえばもう十分だ。
それに、きっとお母さんやお父さんも心配している。もしかしたら、警察が動いているかもしれない。
きっと、あのおかしい佳恋はわたしの幻覚で、学校に行けばすべて元通りのはずだ。
家に帰ろう。大丈夫。きっといない。大丈夫。大丈夫。大丈夫。
ゆっくりと息を吸って、吐いた。
「すいません。今日はもう帰らせていただきます」
すると、空さんは、言っている意味が分からないとでもいうように目を見開いた。
「どうしてですか?」
「お母さんが待っているからです」
すると、そう__ですか。と悲愴感漂う面持ちで言われたモンだからこちらが悪いような気がしてならない。
でも、今日は帰らなくてはならないのだ。さすがに一日帰ってこないというのは心配だろう。
すると、いきなりぐわんと顔を上げた。
その目に、一瞬強い決意が現れ、次の瞬間消えた。
「__お土産を包むので、玄関で待っていてください」
◇ ◆ ◇
言われた通り、最初の暗い玄関で待たされていた。
朝という事もあり、老化したのか石煉瓦の隙間から光が漏れ出でる。
その光が、例の石楠花のような花を照らしていて、まるでそこだけ天然のスポットライトで照らされているような錯覚に陥る。
鮮明に映し出された花は、確かに美しいのに、日の元で見ると、まるで造花のように見えてしまって、軽く指でつついてみると、やはり本物の花である事がわかる。
まだかな。遅いな。
正直土産物になんて興味はなかったが、こんな屋敷のものだ、もしかしたらすごい値打ちのものかもしれないと思うと、おとなしく待っていられた。
その時、足音がした。
カンテラの明かりが下りてきて、空さんが来たのだとわかる。
洗ってもらったであろう制服を整えて、びしっと立っておく。
上からゆっくりと少女が下りてきた。
しかし、それは空さんではなかった。
瞬時にそれを悟れたのは、髪の長さのおかげだ。
普通(といっていいかわからないが建前上)来客がいるのに髪を切る人は少ないだろう。
しかし、降りてきた少女は、背格好こそ空さんと似ていたが、髪は肩までのウェーブのかかった黒髪で、黒髪というところ以外空さんと違う。
浮かべているのは、氷のような人形めいた微笑ではなく、愛嬌のある笑顔で、どこか浮世離れした空さんとは別人のような印象を受けずにはいられない。
「ようこそ、【アマリリスの館】へ」
その時、思い出した。
あの時佳恋と話していた花の名前は___。
【ホンアマリリス】
アマリリスの悲劇 @sanaesann
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