第29話 えぴろーぐ?

 一夜が明け、疲れきった私が目を覚ましたときにはもう昼を過ぎていた。

 ご主人は、まだ眠り続けている。


 彼女が、目を覚ましたら。


 覚ましたら……どうしよう?


「むう……」


 広がる聖都のパノラマを前に、私は頭を悩ませていた。


 煉瓦と石畳の情緒溢れる街並みと、背景に広がる高層ビル群。見慣れてきたけど、まぁヘンテコな風景だ。

 この丘に立って初めて見たのが、一週間とちょっと前。色んなことがあり過ぎて、なんだかもっとずっと前のように思えてしまう。


 あのとき、この場所で。

 ご主人が行方不明になって、どうにか無事に取り戻した。


 そのことに満足を覚えつつも、やはり私の心配は未来へと向かわざるを得ない。


 ご主人の地獄行きを回避するために、これから何をどうするべきなのか。私に何ができるのか。

 そして何より……私はこの先、ご主人とどのような関係を築くことになるのか。


「何よ何よ、シケた顔しちゃってー。こんなにも素晴らしい世界の素晴らしい天気が台無しじゃない」


 ばしばしと馴れ馴れしく背中を叩くのは、あの日も私の隣に立っていたこの世界の神様である。


「そんなに色々心配しなくたって、私がついてれば大丈夫だって今回の件ではっきりしたでしょ?」


 今回の……どの件だ?


 私の懐疑になど気づく様子もなく、神様はドヤ顔で胸を張ってのたまう。


「ふっ……迷える魂を導いたついでに魔神の復活まで阻止するなんて、自分の有能さがつくづく恐ろしいわ。まさに神ね」

「……そうだな」


 ……導かれたせいで迷った気がするのは、愚かな私の気の迷いだろうか。

 というか、魔神がどうのというのはむしろ誰かさんの杜撰ずさんな仕事こそがそもそもの元凶だったのでは? しかも、その後はほぼ何もしてないし。


 あえて言うなら、最後の歌か。幼稚園児の作文に酔っ払いが節をつけたような。


 いや――

 実際、あれのおかげでご主人を取り戻せたのも確かといえば確かなのだが。


 このひとを見よ。捨て犬あれば、拾う神ありだ。

 守りたまい、さきわえ給え。あらゆる事象と幸福の因果を神の恵みと感謝する精神構造のお目出度めでたさをこそ、人は信仰と呼ぶのかもしれない。


「あらあら、嫌だわ。この子ってば。そんなに尊敬の眼差しで見られたら、いくら神でも恥ずかしいじゃない」


 おお、神よ。あなたが恥を知っているとはついぞ私は知りませんでした。

 よろしかったら、鬱陶うっとうしいのでどうかしばらく黙っててください。感謝もしてないわけじゃないけど、あなたのシロは今、悩んでいるのです……


「……でも、いいわ。その心がけが一番大事よ。あなたの新しい人生は、これからが本番なんだもの。さあ、我が使徒シロよ、今こそ私の導きの下で世界に愛と希望の光を……! 我が祝福をあまねく世界に!」


 はいはい、聞いてませんよ。かくて我が導きの神様は、空気も私の気分も読まずに私を励まし、奉仕を要求する。


 頑張れ、シロ。負けるな、シロ。誓いを果たし、主の恩に報いるその日まで――


 私とご主人の冒険は、これからも続く! ……のか?


第四章 終わり

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わんだふる・わんだらーず 観殿夏人 @kaenmukade013

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