第3話 黒い夏


鈍色にびいろの窓に


薄墨うすずみらした室内。


居心地の好いはずのリビングに差す

もやもやとした影。


穏やかな日常に

不意に顔を覗かせる 幼い日の私。


どんよりと沈み込むをさすって


「ああ、そうだ。

 今朝は薬を飲むのを忘れていた。」


と、立ち上がる。




ある人は言った。


その程度のこと、と。

その程度のきず、と。


それでも


その痛みに その寂寥せきりょう


あの日の私は

確かに もだえ苦しんだ。




胸の奥に

ひっそりとみ付いた あの日の私が


穏やかな水面に

時々 薄墨うすずみを垂らす。


「忘れないで。」


「置いていかないで。」


と、そでを引かれているようだ。




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ひつじのうた 来ノ宮 志貴 @siki0210087

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