イケメンな異形くん

@katsute-42

第1話人化するモンスター

 築20年くらいの2階建の一軒家から、金切声の悲鳴が轟いた。

 喧騒な声が似合わない美少女、樋賀亜沙美(ひがあさみ)がたかだか虫一匹のために甲高い声を張り上げようとは情けない。16年も生きてきて悲鳴上げて泣いているのだからみっともない。


「こんな遅い夜にどうしたの?」


「Gが出た~‼」


「アーサちゃん、どこにもいないわよ、そんなモノ」


「ホラ、ママのすぐ近くまでいったわ。そこよ、そこ‼」


「どこにもいないって……アーサちゃん、病院行く?」


「ママ、アレが見えないって? しばらくしたら落ち着くから、病院は行かないっ」


「そうお? 本当に大丈夫なの? 遅いんだから余り心配させないでね。おやすみなさい」


「ホント、ママ、心配症よ。あたし、大丈夫だから。おやすみっ」


 樋賀家母が娘部屋を後にしてしばらくしたら、Gと思われし生物は突然に人語を話し始めた。


「お嬢さんこんばんは。騒がせてごめんなさい」


「虫がしゃべったー⁉」


「失礼だなぁ。これが僕の姿なんだ。虫、虫とか言わないでくださいよ」


「とにかく、こんなGぽい怪生物なんてイヤよ‼ イケメンなら良いんだけどな」


 そんなわがままの後に怪生物は忽然と姿を消してしまった。


「アレレ? あの変なのどっか行っちゃったわ?」


 亜沙美の真後ろに怪生物はいた。だが、そこには怪生物の姿ではなく真っ裸な姿の好青年であった。仰天顔の亜沙美、青ざめて自室を出ていった。



 昔の父親が来ていたお古のジャージ上下セットを取りに行ってくるなり、自室に戻ってきた亜沙美だった。


「下着は後で良いから……取り敢えず、これに着替えて‼」


 青年が、着替えが終わるまで目隠しした高校1年生の亜沙美だった。


「とにかく、ママたちにバレたらイヤだから大人しくしてよね」


「どうしようか……でも、もう手遅れだよ」


 青年が指差す方向を見遣る少女。自室ドアが開いててそこから覗く母の姿があった。


「あーら、お取り込み中だった? じゃあ、遅くならないうちに早く寝なさいね。アーサちゃん、おやすみなさい(ルンルン)」


 母に見られたショックが大きくて、青年を追い出そうとしてみた。


「僕は悪くないからね。アーサちゃん」


「人をそう呼ぶな‼ 変態‼」


「だって本名知らないんだし……」


「樋賀亜沙美よ‼ アサミ‼」


「亜沙美さんですね。判りました」


「怪生物め……モンスターは出ていけ~‼ モンスター? じゃあ、名前はどうしようかな? 人外だからジンガイくん? 変だな。うん、異形だから異形くんで良いよね? それに決めた‼」


「ええっ‼ 僕には名前必要ないって」


「怪生物とかモンスターじゃ、余りにもイケメン風のあなたに失礼だからよ」


 こうして、亜沙美と青年異形くんの二人は秘密を持った者同士の関係になったのだった。

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