青い君へ。

田ノ中源太郎

青い君へ。

あおい「私、お菓子を作るのが得意なんですよ」

きみえ「そうなんですか…一度食べてみたいなあ」


すべてのキッカケはここからだった。

きみえさんはよく私の家へ遊びに来てくれる


きみえ「やっぱり、あおいさんの作るお菓子は美味しいですね

絶妙なこの味加減がたまりません」


そして、私の作ったお菓子をいつも褒めてくれるのだ。


とても有難い。はじめはほんの趣味の一環として続けていたことだったが

こうしてその努力を認めてくれる存在があるのいうのは、心強いものである。

そう、私にとってきみえさんとはかけがえのない存在だった。


きみえ「今日の焼きプリンも素晴らしい出来ですね

カラメルソースの風味がとてもいい香り…」

きみえ「羊羹も美味しいわ。餡の舌触りがさらさらとしていて上品だもの」

きみえ「あおいさんはケーキまで作れるのね。まるでお店の商品みたい!」


気付くと私は、きみえさんに褒めてもらう事を日々の楽しみとしてお菓子を作っていた。

きみえさんを喜ばせたい。きみえさんの幸せそうな顔がみたい。またきみえさんに褒めてもらいたい…


けれど


きみえ「ごめんなさい。私、家の都合でこんど海外へ引っ越すことになったの

今まであおいさんとお話できてとても楽しかったわ。出会えてよかった」


きみえさんは父の転勤で海外へ引っ越すことになったそうだ。

この連絡を聞いたとき、私は正直わけがわからなくなっていた。

引越しは再来週の夕刻らしい。


これからはまたきみえさんのいない生活に戻ってしまうのだ。

私の日常からきみえさんが切り取られてしまうのだ。

私はきみえさんのいない生活だなんて、正直考えられなくなっていた。


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青い君へ。 田ノ中源太郎 @t_genta01

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