第4話 いい仲? それはどうなの?

それから数日後。

「ねぇねぇねぇ。左近。あなたはいつから賀茂保憲かものやすのり様といい仲になったの?」

目を輝かせながら、ウキウキとした声を上げる尚侍に、持っていたお菓子をポトリと取り落とした。

ああああ、せっかくの唐菓子からがしがあ――――!

久し振りのお菓子なのに―。お菓子なんて貴重なのに―!

「左近……お菓子よりも大事なお話ですのよ?」

私が半泣きでお菓子を眺めているのに気づいた内侍が、そっと懐紙かいしに包んだ替わりの唐菓子を下賜かししてくださった。

「ありがとうございます。ところで、そのお話は何なのでしょう? 私は賀茂保憲様と仲良くなどしておりません」

「そうなの? でも、とても噂になっていてよ? 夜遅くに左近が使われていない局から少し乱れた姿で飛び出してきて、その後にとても嬉しそうな保憲様が出てこられたと」

また手にしたお菓子を取り落とした。今度は懐紙に包んだままだったから大丈夫!

……って違う! 問題はそこじゃない。それって昨日、というか今日の夜中の出来事であって、しかもそんな変な噂がすでに尚侍の耳にまで入っているの?

後宮は噂の伝達が早いと昔から思っていたけど、はやっ! 早すぎる!?

愕然としていた時、庭先から耳に優しく低い声が聞こえていた。

「左近様はいらっしゃるか」

甘く優しいその声は、とても聞き覚えのあるもので……。

まわりにいた女房たちが小さく微笑み合う。

違う。そうじゃないのです。誤解です!

「わ、私は物忌み中と申し上げてくださいませ!」

顔を真っ赤にして突っ伏す私に、皆が声を上げて笑いだした。




それから数カ月。保憲様の文攻撃が続くのである。



やっぱりあの人間、何考えているのかわからなくて怖いよ――――!


妖と呼ばれる類に恐れられる男、それが陰陽師なのかもしれない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宵闇の桜 桜月雛 @gatos2016

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ