不測の事態
授業中、不意におならを催した。
間違いなくお昼に食べた焼き芋の影響だろう。
いつもなら298円なのに、今日に限って198円だったのだから仕方がない。
私のお腹に救った暴れん坊は、江戸っ子風にいうと「こいつぁかなりの大物だぜぃ、はっつぁん!」となるのか、とにかく大物のようだ。
溜まったガスをゆっくり出すと匂いが充満する可能性があるし、少し力むと音が出てしまうことは間違いない。
残念なことに、今受講している生徒たちは中3の受験生で、鉛筆の音以外しないとても静かな状態で熱心に問題を解いている。
小学生たちのように元気な声で質問をしたり、学校であった出来事を聞いてもないのに延々と話したり、突然奇声をあげてみたり、そういうことをする中学生はいないのか!お前たち、俺がおならをしても分からないくらいの声で話してみろ!と、逆切れしてしまいそうな気分だ。
でも、どうにかしてこの暴れん坊を外に出さないと、私自身が授業に集中できない。
あれこれ考えてみるも、お腹を引っ込めると、その分お尻の穴に負担がかかる気がするし、息を吸うと吸ったぶんだけガスが増える気もする。
要は何もできないのだ。
でもあと4分我慢すれば、教室を移動する時間になる。
その時なら、少々音を立てても分からない。
我慢するんだ、俺、我慢だ!
と、自分自身に言い聞かせていたら、突然お腹が「キュ〜」っとなった。
細く長い音だった。
もしかすると、ガスが逆流しているのだろうか、匂いはしないし音源はお尻の穴ではないが、その音はお尻の音から出るガス音と変わらないものだった。
そしてそれに気づいた生徒の一人が「今、誰かおならしたやろ」と言った。
まずい!
すると別の生徒も「俺も聞こえた」と言った。
本当にまずい!どうにかせねば!
あ〜、ご先祖様、私の罪をお許しください。
私は何も悪くないのです。
悪いのはお昼に食べた、あのにっくき安売りのイモなのです。
とっさにその場を取り繕おうと、私は
「お前ら、言い出しっぺっていうのを知っとるか?それは『屁をしたやろ』って言ったヤツが屁をしてるっていう意味なんよ。だから屁をしたのは最初に『屁の音がした」と言ったA君、お前だ!」
あ〜、罪を他人になすりつけてしまった。
しかもまだ15歳の汚れていない中学生に。
すると、それを言われたA君は
「は〜い、今度から気をつけま〜す」と答えた。
なんて大人な中学生だ!
きっと君は志望校に合格するよ。と、私は心で彼の行動に感動しながらも、もう塾のある日には芋は食べまいと誓った。
A君、ごめんね。
りんごヨーグルト 尾実(おみ) @amayuz76
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