終わりと始まり ~プログレス英雄譚~

@kino_shosetsu

序章 『消えていく灯火』

この歳になると嫌でも性格が穏やかになる。

そして、大事な息子が完全に枯れ果ててしまうのもまた必然。まあ、サキュバスサービスに年齢は関係ないので不便さを感じたことはないが...。

おっと、こんなことを書くのはまずいな。

よし、それではまじめな話を、もう俺も天からの迎えが近いのかもしれん。というのも、御年74歳である。当然っちゃ、当然の話だ。 

病のたぐいで治療法の少ないこの世界。ここまで生きることが出来るのは珍しいらしい。これも日本人の体質によるものか...。

ダクネスが亡くなったのは今から大体20年くらい前だ。そのあとから急に顔見知りの奴らがパタパタと立て続けに亡くなっていった。 そしてその頃から年をとっていくのが急に怖くなった。それは自分に死が迫る恐怖ではない、周りの人が死んでゆく恐怖だ。ダクネスが亡くなったときはもう大変だった。



**********



「おいダクネス!俺たちおいっていっちゃうのかよ!」

歳をとり若干かすれた声で俺は泣き叫んだ!



それは、小雨のふる夕暮れ時のことだった。ダクネスの病気が良くなり、久しぶりにみんなで外食へいった時のことだ。ここ数か月、病気のせいで屋敷でずっと寝ていたダクネスの為にその外食へは元冒険者仲間が沢山来てくれた。

ダクネスも久しぶりの外出ともあって、大いに楽しんでくれていた。

その帰りのことだ。急にダクネスの調子が悪くなり...




「ダメですよダクネス!気をしっかり持つのです!」

「ごめん。みんな。 ありがとう、私は幸せだった。アクア、めぐみん、カズマ、みんなには本当に世話になった。感謝はしてもしきれない。」

「だめよダクネス!まだよ!まだ終わってないの!生きるのよ!」

「そうだぞ、ダクネス!こんなことで死ぬのはお前じゃない。お前の頑丈さは他の誰よりも俺たちがよく知ってる。だから!だから...ッ」

「ふふっ、すまないな。なあカズマ、ひとつ聞いていいか。」

「ああ、いいさ。何でも聞けッ」

「私は、このパーティーで役に立つことが出来たか?私はみんなの盾になれただろうか?」

「ああ、もちろんだ!お前ほど丈夫で優秀なクルセイダーが役立たずなわけないだろ!馬鹿なのか!お前はいつだって俺たちの盾だ!今も、これからも、だ!」


「そうか、ありがとう...カズマ。」


ダスティネス家の者、またダスティネス家と関係のある貴族。冒険者仲間。そして俺たちに見守られる中、安心した表情を浮かべ、ダクネスはゆっくりと息を引き取った。


そこから、が本当に大変だった。

めぐみんはダクネスが行ったのだから私も行かせろと屋敷の2階から飛び降りようとするし、まあ、それには俺ものってしまいそうだったのだが...。アクアはアクアで部屋に閉じこもったまま一か月は出てこなかった。



**********



今も、思い出すと辛いな。

よし、今日はこの辺にしておこう】


そして俺は本のように分厚い日記帳を閉じる。

最近、自分の人生を振り返ろうと書き始めたのだ。日記っぽくはないが、毎日書くようにしている。


「カズマ爺さんや、ご飯ができたわじゃ。」


なんか、おかしい口調で呼んできたのはアクアだろう。

アクアは女神なので年の取り方はとてもゆっくりで、見た目は初めてあったときとほとんど変わっていない...のだが、自分だけ見た目がピチピチなのが嫌らしく、おばさんマスクを常つけている。ただ、顔だけそんなの付けているので、体が若い分なんとも気持ち悪い見た目である。


「わかったよー」


そういえば、歳をとるとみんな一人称がわしになったり、しゃべり方がおじさん臭くなるのかと思ったがそんなこともなかった。


何十年と歩いた廊下を歩む。この廊下を踏むのも、あと数えるくらいしかないのだろうか...。

見慣れた居間につく。仲間と、どんちゃん騒ぎして楽しんだ居間だ。毎日が楽しくて、年齢を重ねるのなんてあっという間だった。

そんな思いに更けながら、食事の用意してある席に座る。


「そういえば、今日はめぐみんの命日よ!お墓、行ってあげなくちゃね!」

「そっか、今日だったな。もう、17年もまえになるのか...」


********************


それは、この街の風物詩とも呼ばれる、爆裂魔法の音、地揺れ、風の絶えた日だ。


「めぐみん...嘘...でしょ...私、もう嫌よ!もう、誰も亡くしたくないの!『ヒール』ッッ!『ハイネスヒール』!!『ハイネスヒール』ッッ!」

病に治癒魔法は効かない。それでも、アクアは必死に魔法をかけ続けていた。

「めぐみんッ!お前はやればできる子だ!頑張れるはずだ!」

「ふふふ、残念ですが、どうやら我が力をもってしても、出来ない事はあるようです。...でも、これでダクネスの後を追うことが出来ます。」

そんな事を言いながら、俺たちにvサインを見せてきた。

「だめよ!まだ追わせたりなんかしないわ!それに、めぐみんなら出来るわよ!...『セイクリッドハイネスヒール』ッ!」

「もう大丈夫ですよ、アクア。もう十分癒されましたから。カズマ、私もダクネスのように、一つ聞きたいです。」

「ああ、いいさ。何だっていい。」


「私は、迷惑な爆裂娘というだけでなく、皆の火力として、力になることが出来ましたか?......私は、このパーティーで役に立つことが出来ましたか?」


「今更聞くなよ!お前は、数多の魔王軍幹部を葬ってきた大魔法使いじゃないか!そんなお前が、役立たずな訳あるか!お前は、この世界...いや、この広い宇宙随一の魔法使いだ!」


直後、めぐみんはいきなりベッドから降り...いつの日かのあの時のように、紅魔族マントをひるがえして、


「我が名はめぐみん!この素晴らしいパーティーメンバー達の一員にして、魔王を倒し勇者に、宇宙随一の魔法使いと認められしもの!......またいつの日か、どんな形でもいいので会えるといいですね...」



それから間もなくして、めぐみんはゆっくりと息を引き取った。


*****************************


「よし、アクア行くぞー...て、お前外出する時ぐらいそのおばさんマスクはずせよな。」

「いいじゃない、これはおばさんとしてのアイデンティティーなんだからはずさないわ!」

「お前、おばさんじゃないだろ!正直見た目が気持ち悪いんだよ!」

「そんな事言わないでよ!それに、前にカズマ私のこと年齢不詳のババアとか言ってくれたじゃないの!」

あ、そういえばコイツ、俺より年上のBBAだったんだよな。

「まあいいか、行くぞ、アクアおばあさん」

俺の言葉に、アクアがニコっと微笑んだ。

......散々に使い古され、ギーギーと軋む屋敷のドアを開ける。今日は、暖かな風が吹く春の日だ。屋敷の花壇の花々も、こんな日を祝福するかの如く鮮やかに咲き乱れる。

お墓は、例の悪霊騒ぎの墓地近くだ。あの墓地に置くのは致しかなかったので、少し離れたところに建てさせてもらったのだ。

いつも4人で歩いた道を、アクアと2人で歩く。アクアを叱った道を、ダクネスと喧嘩した道を、めぐみんを背負って帰った道を、今、4人で歩くことは出来ない。虚しくなる、でも、いつかまた4人で歩ける気がするんだ。この、思い出の沢山詰まった道を...


*****************************


【○月×日、最近、歩調が乱れるようになってきた。お迎えというのは、本当にもうすぐらしい、遺書的なものを残すとしよう。アクア、お前には一つ頼みがある。俺が死んだら、この世界に来た時のように、お前に案内をしてもらいたい。あと、出来たら俺が冒険者の時の、装備も残しておいてくれ。頼むよ...   】


天からのお迎えは、これを書いてから数日もたたないうちだった...


**********************************


「アクア先輩、お帰りなさい、カズマさんがお待ちですよ。」

私の後輩の女神、エリスはそう私に告げた。

カズマが亡くなり、あの残し書きで頼まれたように今から私が、この後のことを案内する事になっている...きっと、あの残し書きが無くとも私はエリスに駄々をこねていただろうに...



初めて出会ったときのように...魔王を倒した英雄となった時のように...カズマは背中を少し丸めて、あの椅子に座っていた。

私は泣かないと決めていた、私だって成長したんだ、最後の最後までカズマに泣いている所を見せたく...は無かった......のに......やっぱり、私は駄女神だ...

「グスッ、カズマぁぁぁごめんなひゃい!わたし、泣かないって決めてたのに!わたし、最後の最後までカズマに泣いてるところを見せたくなかったのに!」

カズマは、軽く私の頭を叩いてくれた。いつもより、その拳は暖かい気がした

「お前は、それでいいじゃないか。それに、お前が泣いてくれなかったら、俺が...泣けないだろ」

カズマは、笑顔ながらにぽろぽろと泣いていた。

「それよりほら...、やらなくちゃいけないことがあるだろ」

「そう...だったわね...。いつも、私たちのことを助けてくれた優しいあなたには、2つの選択肢があります。一つは、日本で、再び新たな生を受け赤子からやり直す。もう一つは、天国へ行って、何をするでもなく、のんびりとするか...。...さあ、どちらか選びなさいな!」

カズマは悩まずに選んだ。新たに人生を歩むことを、






「アクア先輩、カズマさんは...」

「大丈夫!魔王をも手球にとったカズマさんよ!楽しく暮らしていけるわ!」

カズマは、無事日本へ転生をした...。

そういえば、最後に何か言っていたような気がする...。

......あっ!もしかしたら...私は思わずクスッと吹き出してしまった。だってカズマだもんね!だから、それが叶うように、そして、日本でも楽しく暮らせるように...

「『ブレッシング』!」

私は、日本にも届くように祝福の魔法を声高に唱えた。










一章は終了です!

失敗したなあと思って書くのをやめた作品ですが、評価をつけてくれた方がいたようなので書かせていただきました。あと二章ぶんくらいはあると思うので、良かったら読んでみてください!では、ここまで読んでいただきありがとうございました!

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