猫人小伝妙その3

ニューラグーンは、皇国と共和国の緩衝地帯にある町であり、その周辺を含めた所謂『ニューラグーン州』の州都である

皇国の大元である、キリシニャンと呼ばれる宗教発祥の地ではあったが、今回語られる少年が現れた当時は、さびれた地方都市にすぎなかった

さて、その少年が現れたのは、町で一番賑わう『肉球祭り』の日である

最初の目撃した靴職人は、少年がまるで、どこからかテレポーテーションしてきたように、急に現れたように見えたニャ、と語る

彼は少年と意思疎通しようとしたが、たとえば当時皇国と共和国の衝突が今にも起きそうだったので口にした

『戦争』

という言葉について、少年は意味もわからず

『おうまさん、おうまさん♪』

と、唄うのみで、ようは言葉自体は知っていても、その意味は知らないようであった

少年は、靴職人に町の警察署へ連れて行ってもらい、そこで、彼は、色々尋問されることになる

しかし、ここでもまるで埒があかず、担当した巡査は

『とりあえず、ここににゃまえ書けニャ』

と、紙とペンを渡すと、少年はそこに

『カスパール・ハウザー』

と、書いた

奇妙な事に、彼は来訪者の中で、一番最初に来た『ニホンジン』のように見えたが、だとすれば、姓+名が普通なのに関わらず、名+姓でかつ、後の調査で発覚したように『ドイツジン』風の名前を名乗ったのか?

謎は深まるばかりだが、ともあれ、彼は、ここで名前を名乗ったのである




さて、彼は、後々になって、自分がどうやってニューラグーンに来たのかという話を回想しているのだが、それによれば、こういう事らしい

…僕はずっと、何処かの地下室にいたらしい

らしいというのは、僕にはその時期は、なにもかも曖昧なのです

ともあれ、僕は、そこで、ひとり馬のおもちゃで遊んでいました

いつまでも、いつまでも

…そういえば、食事や身の回りの世話をしてくれる、猫のおじさんがいた事を、思い出しました

もう50歳位は、越えていて、おじさんというより、おじいさんみたいな猫だったなあ

けれども、歳に比べて、体は頑丈そうで、よく狩りに行っては、鳥肉をもってきてくれてました

…ある日、彼は、僕を背負って、僕を地下室から連れ出しました

その時に気付いたのですが、彼は、僕を背負う前に、まず僕の両手を合わせて、手首のところで白い布でゆわえ、それから僕の両手を自分のあごの周りに掛け、僕を運びました

(注:この運び方は、猟師の運び方であるという)

そして、僕を妙な、なんというか、とにかくヘンな動きをする男の元に連れて行って、僕の目の前で、その動きを見せ続けました

(注:どうやら、これはいわゆる催眠術であったらしい)

後、多分お酒だったのでしょうが、苦いお水を飲まされました

なぜお酒だったと思ったかというと、その水を飲むと、ものすごく眠くなってしまうのです

そうして、僕は、気がついたら、ニューラグーンに来たのです




さて、研究者によって、ニューラグーン近郊にあるビルザッハ城に勤務していた森番、フランツが、少年を世話し、彼を背負ってニューラグーンにつれてきた猟師であり、

ルッツという通称:博士プロフェッサーの私設行政書士が、催眠術をかけたらしい男である、という事がわかった

しかし、この2人は小物であり陰謀を企むはずがないと、研究者たちは黒幕を捜そうとした

そこで、ビルザッハ城の主である、ブルーバック家の存在が浮上する

ブルーバック家は、帝国から、ニューラグーンに移住してきた、貴族の一門である

そして、ある組織との関係を疑われていた

つまり、自称『カスパール・ハウザー』は、この謎の組織による、なんらかの実験の被害者ではないか

という仮説が提唱された

しかし、すでに100年以上も前の話であり、関係者も皆死んでしまっているため、この説が真実がどうかは、確かめようがない

ともあれ、こうして少年は、歴史の闇から姿を現したのであった




さて、少年は、結局見世物のように、市の管理する小屋で、動物のように扱われた

これは、ニューラグーンの市長ビンダーが、市の新たな観光の柱にしようとしたことによる、処置だったらしい

しかし、彼はやりすぎた

3ヶ国により作られた司法機関『連合警察』の介入によって、少年は、小屋から出る事が出来た





少年は、ニューラグーンに住んでいた教師ライトの下で、暮らすことになる

ともあれ、少年は


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フラグメント 今村広樹 @yono

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