空《スカイ》

ムノニアJ

第1話空《スカイ》

 森羅万象ジ・ユニバースは仕込通り、物理通信路を遠隔同時断絶カット・オフ、外部指向零導波レイドウハを百秒間分断ブレイク開始スタート。艶深い遂行服コンダクト・スーツと端整な顔への穢れを一切厭わず、ルナは細身の躰を基地ベース内部空間の闇へと投げ出した。周囲を一瞥、特殊人造眼グレイ・アイズ感知機センサー合成視界コンポジット・ビュー、高機密通信網の位置を断定、傍らの壁面を両子指の結合崩壊メスリゾルバーで切断、普段通りの連鎖腐食体イロージョン・バグの代りに仲間の撞木シュモクより渡された棒状割込装置インタラプターを断絶部に挿入。接触点に微小の熱と光、坊主曰くこの瞬間に基地内防衛人形ガードマトンの九割以上が無効化。ルナの聴覚器官、転倒する人形マトン共の音響を知覚、二十七匹の異常を確認。前方に大気の揺れ、無骨な形状の防衛人形ガードマトンが回廊の陰より現出しルナ急接近アプローチ、音無き光刃フォトン・エッジ、推定六%の残能機体の一匹。ルナ、右肘より遷用途刺帯センヨウトシタイを射出、鉤爪と強襲式アセイラブル接続点を兼ねる先端部が内壁に反射、人形マトンの装甲の推定最薄箇所を貫通、同時に内部機能を全面破壊、停止アレスト。何もかもが暗黒の中の戦闘コンタクト低圧純粋窒素空間ロウ・ニトロ特有の音響補正を知覚。対象は決して遠くない。寸分の無駄も殺しゲートを三枚クラック展開、酸素オキシの香り、最低限の照明。紫色の研究室ラボルナ目標ターゲット研究員ラボ・マンと対峙。冴えない五十絡みの小男、白衣の裾を揺らし、机から抜いた貫通銃ペネトレイターの先端は震え、ルナ、思わず口元が緩み、命令信号段階フェイズを一上昇、既に天井に仕込んでいた八番オクティと呼称される多脚式小型人形が研究員ラボ・マンの顔面に吸着。壊れ落ちる丸眼鏡、研究員ラボ・マン、絶叫、喘ぎ、命乞い、失禁、終いに漏らした暗号鍵キールナ、鍵の上下端を演算、トゥルーの認識と同時に最終信号放射、八番オクティ忠実に自爆セルフ・キル研究員ラボ・マンの頭部を、粉々に、吹き飛ばした、崩落する白衣の躰。ルナの小鼻に付着、僅かな血混じりの肉片、体温。瞬間、ルナ、頭蓋内記憶処理体に極小の光輝ルミネセンスを認知、あるいはそれは、感触タッチ、躰を支える肩の、幼きルナを担ぐ観知らぬ誰かの肩の感触タッチ移植組織ティシュー無き生身の両腕を伸ばすルナ、あのスカイの蒼さは、まるで小さな両手で掴めるかのようだった――回帰リカーレンス。紫色の研究室ラボ、遠方より聞こえる絶叫、血を噴く首無死体。繰返し鬱陶しい叫びは語る、脱出しろ、任務ミッションは済んだ。ルナ撞木シュモクよりの音声信号と漸く認識。約四秒の硬直を自覚。刺帯シタイ先端部を発射、研究室ラボ上端、換気ハッチ横の操作盤と貫通接続、滑空グライドと同時に二枚の防御機構を突破ブレイクスルー、脱出路開放、頭部より穴に侵入。猛風。瞬間、惑星の満天の蒼空ブルー・スカイが開闢し、ルナの躰を抱き留めた。奇妙だ、今殺した研究員ラボ・マンの顔が思い出せない。スカイは、いつかとは違う色をしていた。

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空《スカイ》 ムノニアJ @mnonyaj

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