俺の部屋が世界の料理な女の子達のエキゾチックな香りで包まれたんだけど

エピローグ

七月十九日、金曜日。今日は和彦達が通う豊中塚高校の一学期終業式。蒸し風呂のようになった体育館内に合わせて千名ほどの全校生徒と先生方が一同に集う。

校長先生が開式の挨拶をされたあと、校歌斉唱が行われ、

「えー、夏休み期間中の、生活のことについてなんやけどもぉ。えー、豊高生の子ぉらは今さら注意されんでも分かることやと思うねんけどな。深夜にふらふら出歩いたり、髪の毛染めたり、ピアスしたり、特に女の子は爪にマニキュアを塗ったり……コラそこぉ、パタパタ仰ぐなっ！　暑いんはみんな同じやねん……《以下略》」

　生徒指導部長も兼任され、最近怪我をされたのか指に包帯を巻いていた鬼追先生から長々と諸注意があり、閉式となった。

このあとは教室で各クラスの担任から通知表が配布される。

一年三組では播野先生が全員分返し終え、いくつか連絡事項を伝えたあと、

「先生はお盆休みはいつも通り、暑い日本を離れて家族とニュージーランドでスキーなどをして過ごすので、皆さんも楽しく夏休みを満喫してね」

　こんなプライベートな予定も伝えてクラスメイトから羨ましがられ、

「それでは皆さん、夏休みもお元気でね。さようなら」

　最後にはこう締めた。

　そして学級委員長からの号令があり、解散となる。

今日は久し振りに和彦、桜子、俊也、秀則の四人でいっしょに下校することにした。

正門を抜けて、帰り道をゆっくりと歩き進んでいく。

「夏休みの宿題、めっちゃ多いよなぁ。サマーワーク、どの科目も分厚過ぎやろ」

　俊也はため息まじりに呟いた。

「確かに多いよね。俺はもう、少しだけ進めてるよ」

「私は三分の一くらい終わったよ」

「僕はもう八割方済ませましたよん」

「はやっ。おれも数学のワークとか、ちょっと中身見てみたけど分からへん問題ばっかやったし。巻末の答を丸写ししねえと」　

「ダメだよん寺浦君。自力で解かなきゃ」

「俊也、そんなやり方じゃ本当の実力は身に付かないぞ」

　秀則と和彦は率直に意見する。

「ひでのりもかずひこも、相変わらず真面目な意見やな。数学と英語は元々多く出されとったのに、おれなんか成績不振者への追加プリントまで課せられたし。こうなったら母ちゃんに頼んで宿題全部やってもらおっかなあ。絶対無理やろうけど」

「俊也くん、夏休みの宿題で困ったら私に相談してね。お手伝いするよ」

「いっ、いやぁ、それは、悪いし、自力でやるよ」

「そう？　えらいね俊也くん。頑張れー」

　ガチガチに緊張してしまった俊也の頭を、桜子は優しくなでてあげた。

「あっ、あのう…………」

　すると俊也は放心状態になってしまった。

「俊也、相変わらずリアルな女の子苦手なんだな」

「……あっ」

　和彦に肩をパシンッと叩かれると、俊也はすぐに正常状態へと戻った。

「俊也くん、なんかかわいい」

　桜子は楽しそうににこにこ微笑む。

「おっ、おれ、この性格だけは、どうしようもないんだよなぁ」

　俊也は照れ笑いした。

僕も光久さんに頭をなでられると、同じようになってしまいそうです。

　今、秀則は心の中でこう思っていた。

　途中の分かれ道で俊也と別れ、秀則と別れ、家まであと五分くらいの場所で桜子と和彦二人きりとなる。

「和彦くん、夏休みはＵＳＪと海遊館と、民博とエキスポシティいっしょに行こうね」

「分かった」

「雪乃ちゃんと、世界の料理な女の子達も誘おうよ。国際交流にもなるし、きっと賑やかでより楽しくなるよ」

「それもいいね。民博連れて行ったら大喜びしそう」　

二人は楽しそうに取り留めのない会話を弾ませながら、クマゼミの声シュワシュワうるさく鳴り響く帰り道を進んでいった。

和彦は自宅に帰り着くと、母と雪乃に堂々と通知表を見せてあげた。

「体育が苦手なんは相変わらずお互い様やね」

「和彦、まずまずの成績ね。雪乃と同じ大学行きたかったら、二学期はもっとええ成績取れるように頑張らなあかんよー」

「分かってるって」　

上機嫌でお昼ご飯のキーマカレー＆ナンを取り終え自室に向かうと、

「マルハバ！　カズヒコくん。日本の高校の通知表、よかったら見せて欲しいな」

「エ　コモ　マイ。Ｅ・カズヒコ」

「Ｂｅｎｔｏｒｎａｔｏ！　和彦お兄ちゃん。いよいよ夏休みだね」

「С приездом！　和彦さん、今日は特に蒸し暑いですね。ミナはバテそうです」

「Ｈｏｌａ！　和彦君」

　いつもと変わらず世界の料理キャラ達が飛び出して、美味しそうな特有の香りを漂わせて出迎えてくれる。

「ただいま、みんな」

和彦は嬉しそうに帰宅後の挨拶をし、快く通知表をムサカに渡してあげた。

「体育が４なの以外は８多くてなかなかの好成績だね。これなら夏休み補習と無縁でたっぷり遊べるね。カズヒコくん、夏休みはどうする？　ワタシ、鳥取砂丘に行きたいよ」　

「ミナは北海道で涼しく過ごしたいです」

「あたしは瀬戸内巡りがいいな♪」

「アタシは赤道直下のシンガポールよりも暑い大阪や京都巡りたいぜ」

「わたくしはアメリカ村に行ってみたいわ」

「みんなが希望してるとこ、全部回るのはさすがに無理だな」

明日からは、この世界の料理キャラ達と過ごす初めての夏休みが始まる。

和彦も桜子も、

「和彦、インド料理のタンドリーチキンと中華料理の杏仁豆腐の擬人化美少女キャラもデザインしてみたよ。あの子達みたいなミラクル現象が起きる可能性は低いと思うけど、あの子達の新しい家族にしようと思うの」

「なかなかかわいいな。あの子達もきっと喜んでくれると思う」

再来週から前期試験八月上旬から夏休みの雪乃も、きっと今まで以上に楽しい思い出が作れるはずだ。

（おしまい）