最後に愛は勝つ!

嶋里 和人

第1話 振られて始まる物語

愛、それは感情。

愛、それは強さ。

愛、それは力。

愛、それは理。

愛、それは世界の全てである。


と大仰なことを述べてはみたが、愛とはどれほどのものだろうか。君の胸に眠る愛は、君の世界を変えるだろうか。


世界は愛に包まれている。地球を包むオゾン層も愛。夜の闇を照らす光も愛。となると宇宙に輝く太陽や星も愛?

さあて、愛とはどこまで広がるものか。


一口に愛と言っても様々な形で存在する。誰かを想う愛だけでは愛は語れない。そもそも愛は命あるものだけではなく、命を持たない存在にも抱かれる。そして時に人は愛故に対立する。正義という愛を以って、悪という愛を打倒する。


「好きです、御堂みどうさん」

4月1日。エイプリルフールとされるこの日に1人の少年が、1人の少女に愛を告げた。エイプリルフールに告白する者は多くいると聞く。もし成功すれば万々歳、振られたとしても「エイプリルフールだよ、本気にするなよ」と言い訳ができる。実際相手には本当の気持ちを勘付かれているとは思うが……。

何はともあれこの少年、唐内俊からない しゅんは想い人である御堂綾花みどう あやかに告白した。他人に自慢できることがあるのだろうかと言うほどに平均的で平凡な俊。対して綾花は眉目秀麗、文武両道。周囲の注目を集め続ける綾花と一対一で話すことさえ難しかった。どうにか親友達の協力によりこぎつけたこの好機を逃す手はないと、俊は一世一代の決意の元に彼女に告白した。

「唐内君、あなたの勇気と思いには感謝をするわ。でも今の私はその気持ちに答えられない。ごめんなさい」

少年、唐内俊は残念ながら振られてしまった。

「そっ……か……。あはは、うん、えっと……ありがとう」

ぎこちない笑顔を浮かべ、綾花の返答を受け止める。いや、受け止めきれてはいない。しかしそうでも思わないと彼の心は耐えきれずに破裂してしまいそうなのだ。

「えぇ、別にあなたが礼を言うことではないとは思うけれど、こちらこそありがとう。それじゃあまた学校でね」

そう言い残し彼女は俊に背中を向けて立ち去っていく。その背中は彼の告白を受けても何も響くものがないような、いつものことの一つとして受け取られていると感じた。

美人で知的な彼女を放っておく男子がいないはずもない。少なくとも月一のペースで彼女に挑戦する男達。しかし難攻不落の鋼鉄城とまで噂される彼女の首を縦に振らせる猛者は現れていない。これまで彼女に挑戦した男達はイケメンなことはもちろん飛び抜けた頭脳を持っていたり、抜群の運動神経だったり。今度こそはいけると言われた男達をことごとく破った彼女。

無謀な勝負だと分かっていても、俊は綾花に挑んだ。その結果振らてしまったのだが、俊の心に悔しさはなく、むしろ爽やかな春の風が流れているようだった。


「よし、切り替えていこう!」


明日への希望を持ち、少年は夕日に向かって両手を掲げて叫ぶのだった。

「いやすぐに切れ変えられないよなぁ……。とりあえず貴弘たかひろには報告しておこう」

少しでもこの落ち込んだ気持ちを紛らわせようと、親友の貴弘に電話をかける俊。

「もしもし貴弘?……うん、伝えてきたよ」

山の陰に陽が隠れ始める時間。いつもよりも歩幅の小さな彼を見つめる人物がいたが、その時の彼が気がつくことはなかった。

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最後に愛は勝つ! 嶋里 和人 @seiryu07

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