第4話 真実の真実
「お、龍、久しぶり。どうした? こんな突然電話なんかかけてきて。何かあった?」
「あのな、俊。メグちゃんの事なんやけど」
「………。あぁ、もう終わった事やないか。お前のせいじゃない。それにあの後お前も一生懸命探してくれたやないか。お前が責任を感じることじゃない。それをわざわざ言おうとしたんか? お前も女々しいやつやなぁ」
「いや、そうじゃないんだ。そうじゃなくて……」
「…………」
「メグちゃんは消えたんやない。メグちゃんは……」
「メグがどうしたって?」
「メグちゃんは……俺が殺したんだ」
「殺した? どういうことや?」
「あの時、俺はメグちゃんが通り過ぎるのを見た。その後、道の整備のためにあぶない枝や石を片付けてた。そして、ふと振り返った時、メグちゃんがそこにいた。俺、気づかんでメグちゃんを蹴落としてしまったんや。その衝撃で、メグちゃんは崖下に落ちた。何度も頭をぶつけて、どう考えても助からん状態だった。俺は急いで崖を飛び降りた。そんでメグちゃんの所に行った。でももう明らかに助からない事は分かった。もう頭が真っ白になって、メグちゃんを急いで別の場所に隠した、そんで知らんふりして捜索したんや。そんで、翌日隠したところからメグちゃんを遠くの川に流した……メグちゃんは俺が殺したんや。」
龍は一気にそう言い終えると、嗚咽を漏らして泣いた。
白衣の男は呟いた。
「龍さん、それは本当なんですね」
龍はゆっくり頷いた。
「……すまん、すまん全部俺のせいや……あれから何度も死のうとも思った。でもそんな勇気も無かった。俺、自分がどんなちっちゃい人間かと思った」
そう言って泣き崩れる龍の姿をしばらく眺めてから、白衣の男は別の誰かに眼をやり、一つ頷いた。
「もういいですね、はい、リリースします」
その合図を皮切りに、辺りの電気がつき、辺りからぞろぞろと人が集まり始めた。そして、ある者は俊に取り付けられていた機具を外し始めた。
龍は辺りを見回した。
「これは?」
白衣の男は懐から名刺を取り出した。
「真実を話してくれてありがとうございます。私は、特殊捜査官の山岸です。
科捜研の管轄になります。」
「カソウケン?」
「はい、今回は10年前田中恵さん失踪事件が時効を目前としまして、その最後の解決策として、私たちの部門に依頼が来ました。」
その頃、横たわっていた俊は、大方の装置が外されたところだった。
俊は頭を振りながら起き上がった。
「いや、刑事さん、聞いてたよりきつかったですよ、これ」
「俊、お前……全部嘘やったんか?」
「騙してすまん、でもこうするしかなかったんや」
龍は思わず山岸と俊を交互に見合わせた。
「私たちの計画を実行するには俊さんの協力が不可欠でした。不本意ながらも俊さんはこの大掛かりな『演技』につきあってくださりました。全ては龍さん、あなたの心を開くために」
龍はその場にがっくりとうなだれた。
「龍さん」
龍は山岸を見た。
「先ほどの証言を元に、龍さんの身柄を確保します。よろしいですね?」
龍の手には手錠がかけられ、二人の男とともに出口へ向かった。
去り際に、俊は呼びかけた。
「龍、お前は悪くない。タイミングが悪かっただけや。でも……」
俊の目も少し潤んでいた。
「……でもな、やっぱりもう助からんでもいい、それでも最後に一度メグを抱きしめたかったな……」
龍は何も言わずに、警察官に連れられ去って行った。
「山岸さん」
山岸はその様子遠くに見つめながら、後輩の質問に答えようとしていた。
「何?」
「何か世知辛い世の中になりましたね、たった一つの自白を取るために、こんなにも大掛かりにやるなんて」
「まあな、ただ昨今、自白の重要性が低下したとはいえ、自白のみに頼らざる事件はまだ多数ある。昔のような強迫まがいの取り調べが難しい今、このような、大掛かりな捜査は今後も増えて行くだろうな。そのための我々の部署だしな」
(了)
心理戦 木沢 真流 @k1sh
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます