第3話 赤頭巾 炎上編

 この国に貧困層が絶えないのは国自身にも責任があるが、一番の問題はそこじゃない。まず国民を貧困にさせている原因を確認する。それは賊による金品・食料の略奪被害によるものだ。この国に隣接する山を拠点とする山賊が時折山を降りてきて、国民から財産を巻き上げる。その結果として、貧困が生まれている。

もちろん政府は見過ごさずにアクションを起こしていたが、私から見れば生ぬるい。これまで王はその山賊にも補助金を出せば大人しくなるだろうと考えてきた。しかし、功を奏したことはない。今までもこれからもおそらくは無理だ。

 王女は山賊への補助金交付について思うことを王様に進言した。


「むしろ付け上がるだけです。山賊による略奪行為をやめさせたいのであれば、大臣にお任せあれ」


 よしきた。神から斧を奪った作戦指揮官の腕前を見せつけてやろう。要は山賊が略奪しに来ないようにしてしまえばいいのだ。やるべきことは決まっている。相手は大組織だ。1人で乗り切るのは難しい。背中を任せられる位に信用のおける相棒を手配しなければならないだろう。心当たりはある。


「王子、例の作戦について相談があるのですがよろしいか?」

「大臣殿、申してみよ」

「作戦の実行要員として、王女をお借りしたい。もちろん危険な真似はさせません」

「そなたのことは信用している」

「あともう一つ。御布令を出してほしいのですが」

「聞こう」

「赤頭巾が山経由で隣国に贈り物を輸送する、と」

「分かった。すぐに伝えよう…虚言であるか?」

「はい。山賊に伝われば十分、ということで」


 山賊に輸送班を襲撃させるように仕向ける作戦。山中で赤は目立つ。山賊は金目の物に目がないから、赤頭巾を見つければ応援を手配し、取り囲んで確実に奪い取ろうとするだろう。山賊が一箇所に集まってくれればこちらのものだ。


「王女、君には赤頭巾を被り、荷車をおしてもらう」

「私が囮ということですか」

「私は前もって山に入り、罠を仕掛けておく。君は指定ポイントに到達したらそこに待機。頃合を見て例のブツを使え」

「用意してありますよ。ではお気を付けて」


                            ***


 作戦当日。城門から赤頭巾に扮した王女が荷車を引きながら鬱蒼とした森林に包まれる山に向かう。そこには噂を聞きつけてやってきた山賊たちがチャンスを伺って待ち伏せている。赤頭巾はまるで何も知らないかのように山に足を踏み入れる。そして山に入っておよそ30分後、赤頭巾は足を止め、チラッと上を見る。

 山賊たちは獲物が一休みするこの時を待ち望んでいた。物陰に隠れていた山賊複数名が出現し、赤頭巾を包囲する。


「山賊だ! 怪我したくなきゃ荷物を置いて逃げ出しな!」

「抵抗しても無駄だ。援軍はまだまだ来るからな」


 赤頭巾はその場から動かず、沈黙した。少しすると言った通り、山賊の増援がやってくる。


「逃げ場はないぜ…お、よく見ればお前、女か。女に輸送を任せるとは馬鹿な国だぜ!」


 大きな声で下品な笑いを響かせる山賊一同。に対して全く動じてない様子の赤頭巾は樹木の上方に待機する者のちょっとした信号を受け、行動を開始する。


「馬鹿はあなたたちの方。気がついてないなら教えてあげる。袋の鼠が誰なのかをね」

「お前に決まってんだr…」


 赤頭巾が指を鳴らす。すると小さな爆発音と共に山賊の足場が崩壊。山賊たちは穴に落下し、断末魔の声をあげる。


「落ちただけだろ…? なんでそんな声出してるんだよ!」

「それはそれがただの落とし穴じゃないからさ」


 樹木の上から声が降ってくる。意表を突かれた彼らは腰を抜かした。


「見てみるがいい。きっと分かる」


 言われるがままに穴の底を見た山賊は、そこに赤い金属光沢を見つけた。曲線を描く分厚い刃物。彼らはどういうことか理解した。


「斧を敷き詰めてたのか! 恐ろしいな、野郎ども、逃げろ!こいつら正気じゃねぇ!」

「お前ら! こっちだ! ここには罠がなさそうだぞ!」

「なんでそう言えるのか知らねーが、でかした! 行くぞ野郎ども!」


 ナイスアシストだ。これで一人も逃げられずに済む。罠の効果範囲に全員入ったし、助言した張本人は効果範囲外に消えている。山賊はもう手遅れだ。逃げようとしようがもう遅い。斧を覗き込ませている間に赤頭巾の王女と私は合流予定地点まで後退した。


「仕上げだ」

「はい」


 王女はポケットから小さな紙製の箱を取り出し、中から1本のマッチを取り出し、擦って火をつける。そして前方に投げ捨てると、落下した地面から勢いよく火の手があがる。そしてその火は逃げ遅れた山賊を取り囲むように展開していく。これは前準備の段階で注いでおいた油に引火した結果だ。山賊は我が思い取りの道をたどってきてくれたのだった。

 炎の道は最終地点である荷車に達し、大規模な爆発を引き起こす。荷車に積んでいたのは金品ではなく、火薬だ。強烈な爆風と共に山賊は全滅する。炎は燃え広がり、火の手は山を焼き尽くすまで続くだろう。悪事を働いた山賊は赤頭巾を襲ったばかりに全滅させられた。この噂は炎の如く広まり、広範囲の賊がその活動を休止した。


 居住区への燃え広がりを防ぐため、国防軍は消火活動を行っている。流石の私も反省している…ちょっと焼きすぎた。


「スパイスが強すぎたか」

「しかし、これで目標は達成されます」


 悪さをすると断罪される。いいモデルになったから良しとするか。私たちは灰の雪を被りながら国に帰った。


                          ***


 帰城し、灰を洗い流し、新たな衣に腕を通す。山1つ焼き殺したことで、山賊被害は根絶された。王族ではできない大胆な作戦で、長きに続いた貧困層の増加は、久しぶりに減少。将来的にはいなくなると予想される。国からの報酬のおおよそ八割を我が手に収め、残りは頼れる協力者に送った。


「…我が私怨の任務は完了した」

「略奪行為は根絶された。国は安定。民は皆満足できる生活を送れておる。全てはA大臣の功労だ」

「私だけではなく、王女もです」

「王女を育てたのもお前であろう。お前はこの国の貧困層にとっての英雄だ」


 悪きこりだった私は今や、弱者に崇められる英雄となった。Aはこれからも悪知恵を働かせて、国のために真面目に働いていくことだろう。


                                           [金の亡者A]編 完結

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馬井卦瑠流童話 馬井卦瑠 @KPSA

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