だって、わからないことだらけだから
翌日、デブちん…大将は自殺した。
「は?何?あいつ自殺したの?」
「はっ…金づるが消~えた」
「これからどうする?」
「とりま、カラオケ行かね?」
彼が死んでも、俺らの日常は大して変わっていない。変わったことと言えば、第2のデブちんがクラスで誕生したことくらいであろうか。
「何で大将の異変に気付かなかった!」
同じ中学だった友達の何人かは現クラスメイトだった俺を責めた。大将は中学生までは大将だったのだから、死して尚、慕われていたのだ。
ただ、同じ高校に進んだ友達がどうやら…全部俺の責任にしたらしい。俺が助けてやらなかったから、彼は自殺したのだと周囲の人間に吹聴して回っている。
「知らなかった。本当だ」
そして俺もまた、彼の死から目を背けようとした。
誰が悪いのか?なんてどうでもいい話だ。
だって、もう終わってしまったことなんだから。
「本当に何も知らないのね?」
大将の母親にそう聞かれた時、俺は悲しげに見える仮面を被って、何も知らないを貫き通した。罪悪感なんて…いよいよ感じられるはずがない。
「そう…ありがとう」
幸か不幸か、大将は何も書置きをせずに自殺してしまったため、彼の自殺原因は迷宮に葬られた。誰かが虐めについて告白しても…もはや立証は不可能に近い。教育委員会のような大人の組織も事を荒立てたくないようで…大将の葬式は静かに迎えることとなる。
「英語のテスト、どうだった?」
「ぼちぼちですね」
善人の先輩も、今回の件には何も言及してこない。彼女も知っているのだ。
今更、何をしようというのだ?
数か月後には誰も大将のことを口にしなくなった。中学の友達さえも。
もし、俺が彼を助けられるとしたら、それはどのタイミングだったのか?
一体いつ、彼に手を差し伸ばせばよかったのだろうか?
最初から彼と仲良くしていれば…
トイレでこちらから歩み寄ってあげれば…
終わったことを考えた時、俺は少しだけ後悔をする。でも、その後悔はあっという間に泡となって弾ける。そこには何も残らない。
俺以外の人間がどうなろうと…正直、どうでもいいのかもしれない。
愚者奇行 雨水かいと @Isune
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