日当たりのいい家

作者 古池ねじ

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★★★ Excellent!!!

なめらかな文字運びの文章は、全編を通して、優しい音楽を聴いているようでした。
ゆすらさんの旋律にあわせて、木崎さん、崇さんをはじめとした登場人物の皆さんがそれぞれの音階を奏でて、よく、耳をすますと、お父さん、お母さんの「音」も聞こえてくるような・・・。

そんな物語でした。

★★★ Excellent!!!

作中に出てくる一文なのですが、あまりに読後の気持ちにぴったりな言葉だったので引用させていただきました。
しみじみ思います、この物語がこの世界にあることが嬉しい。そんな物語に出逢えたことも、本当に嬉しくてたまりません。

はじめは、なんて美しい文章の世界が広がっているんだ!と、文字を味わうことに夢中でした。
文字のすべてが心の栄養になるような読み心地で、出てくる一言一句にいちいち感情を刺激され、日本語の表現ってこんなにも魅力的なものだったんだと感動して、底光りのする美しい筆致に心底惚れ惚れとしました。
そんな感じで文章に酔いしれていたら、次第にストーリーにも飲み込まれ、気付いたらこの物語すべての虜になっていました。

途方もない喪失感を抱えながら、それでも生きていく主人公ゆすらさんと、そんな彼女にそっと寄り添うお料理上手な木崎さん。ふたりの暮らしぶりにそって、物語はゆっくりと進んでいきます。
その雰囲気が、とても好きでした。好きすぎて随所でしつこいくらいに泣きました。
切実で誠実な悲しみの描かれ方と、やわらかでさりげない優しさの描かれ方の対比に、どうしようもなく涙腺が緩むのです。
優しいものに触れたときに出る涙って、浄化作用が凄まじいじゃないですか。そういう類の涙が止まらなかったです。

料理だけじゃなく、優しさのレパートリーもやたらと豊富なのです木崎さん。
その愛を一身に受けるゆすらさんの優しさの受け取り方がまた、とても素敵なのです。拭い去ることのできない喪失感を抱えているからこそ、新たに得るものの尊さをいつでも噛み締めていて、そんなゆすらさんにしか見えないものが丁寧に描き出されてるところがとんでもなく素敵なのです。

愛情ってきっとこういうもの、というひとつの答えをふたりの中に見た思いがしました。
改めて思います。この物語がこの世界にあることが、嬉しい。

どうもごちそ… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

登場人物が互いを尊んでいる、とても素敵なお話でした。

作中に登場する木崎飯、本当に美味しそうでした。
心を平穏にしてくれるおいしいご飯は誰かと食べるから意味を持っておいしくなるのだろうし、誰と食べるかによって幸せの感じ方が変わるのだろうなと思います。

ゆっくり時間をかけて自分の中に沈んでいる大きな石の塊に向き合う主人公に倣ってゆっくり読み進めていましたが、そうして良かったです。毎話、読後はあたたかい気持ちになれました。ちょっと泣きそうになりながら。

★★★ Excellent!!!

国民的作家だった父を亡くした若き女流作家の、どこか昭和レトロな雰囲気の日常。ぼんやりふわふわと過ぎてゆく、これといった事件も起こらない穏やかな日々の底にも、ずしんと重い喪失感や切実な孤独がたしかに潜んでいて、それでもやっぱり穏やかで温かく、料理上手の専業主夫・木崎さんの手料理の数々に彩られた丁寧な暮らしの手触りに癒やされます。そして、良い飯テロ。とても良い飯テロ。一章ごとに、いろんなものが食べたくなります。

★★★ Excellent!!!

主人公のゆすらは生きていくのがあまりうまくないタイプの人間かもしれません。神経の糸を張り詰めすぎたり、緩め過ぎたりして、失敗をしてしまう。そういう人だと思いました。

物語の中でもいつもどこかが緩みすぎていて、その裏でとんでもなく張り詰めたピアノ線のような、細い目には見えない糸の存在を感じます。

家主のいなくなった家で。娘のゆすらは夫の木崎さんとふたりぼっちで暮らしています。幼い頃からずっと慣れ親しんだはずの家なのに。自分の家なのに。肉親の不在が、周囲の態度が、ゆすらの存在を揺るがします。

そんな中で出会った、ゆすらの拠り所となる男性。なにもかもゆすらとは反対の、本を読まない、父を知らない、男性。
木崎さんは専業主夫として小説家としてのゆすらを支えます。ゆらぎない愛情と、温かい眼差しとともに、たくさんのごちそうを作って。

丁寧に積み重ねられた文章が、緊張感を保ちながら綿々と綴られています。
ゆすらの感じている違和感、差異、疲労、倦怠。才能への恐怖、亡くなった父への思い。毎日ごはんを食べて、仕事をして、ときどき外へ出て同業者と会ったり。自分へ向けられた周囲の同情や期待に押しつぶされそうになりながらも、物語の中でゆすらは小説家として大きなステップアップを遂げます。それはある意味彼女が父の死を乗り越えた瞬間なのかもしれません。
大好きで、偉大で、尊大な、父親。しかしゆすらはどこか、裏切られたような見捨てられたような気持ちを抱いてしまいます。傷ついた彼女を癒やしたのが木崎さんの料理と揺るがない眼差しなのでした。

奇妙な距離感をもった新婚夫婦の一年。みなさんもぜひゆっくり追いかけてみてください。美味しいごちそうと、季節と、何重もの愛情にくるまれた孤独が、頭の中で駆け巡ることになると思います。