第21話 報告

翌朝、私が教室に入ると

既に間宮くんは学校に来ていた。


病み上がりのせいだろうか、顔色を見る限りまだ本調子のようには見えない。


「体調……大丈夫?」

まださほど親しくなったとは言えないけれども、

頭痛の原因となったのは自分にも原因があるような気がして、少し遠慮がちに声をかけた。


「ああ、もう大丈夫」


何となく他人行儀な──実質まだ知り合って間もないし当たり前なのだけれど。

どことなく一線を引いたような返事にこちらもそれ以上深く話す事もなく

私は黙って彼の隣を通り過ぎ自分の席に着いた。


途端にポケットが震え、メッセージの受信を知らせる。


『昨日はごめん、つい二人で会えたのが嬉しくて一方的に気持ちを伝えすぎたと思う』


タケルくんからだ。

確かに昨日は少しびっくりしたし、怖かった。

メッセージは続けて送られてくる。


『突然あんな事言われたら、困るよね』


『昨日、帰ってから反省した。俺は会えて嬉しかったけど、君の気持ちまで考える余裕がなかった』


予鈴が鳴ると同時に扉の開く音がして担任が入ってくるのが見えた。

慌てて通知のスイッチをオフにしてポケットに再び入れる。


続きは休み時間に見ればいい。


朝はお決まりの小テストがある。

今日は英単語のようだ。


プリントにずらりと並んだ言葉を順に英訳していく。


昨日の事は、まだ自分の中で未消化のままだ。

彼が何を言っているのかもよく分からなかったし、自分がそれを受けてどうすれば良いのかも全く分からなかった。


彼と向き合って話をするには──材料が足りない気がした。

過去の、記憶が。


私にはまだ、知らないことが沢山ある。

タケルくんが会いたいのはきっと、過去の「さくら」であって私ではない。


けれども私は正直「さくら」の事をまだあまり良く分かっていない。

そんな状態で知ったつもりになるのはおこがましいし、相手が「元・兄」だと言うなら尚更の話だ。


それなのに、急にあんな事を言われても

「どうしようか……」


「ちょっと、さくら。時間切れ」

「えっ」


目の前からひょいとプリントを取り上げられて我に返る。メイだ。


「やだ、悩んでるのかと思ったら全部埋まってるじゃないの」

「もう、びっくりさせないでよ」

「勝手にトリップしてたのそっちでしょ」


プリントはあっという間に前の席まで送られ、担任の手元に届いていた。


チャイムが鳴り、HRの終わりを告げる。


「で?どうだったの」

「何が」

「昨日!あの美少年と何を話したのよ」

「あー、うーん」

「何その曖昧な返事。もしかして……恋の予感?!」


ふいに彼の昨日の言葉が能内を掠める。


『一目惚れっていうのかな』

『君の事を知りたいと思ってる』


「!」

「やだ、ちょっとその顔はホントにもしかして」

「ち、違うから!」

「顔が赤い」

「これはその、ちょっと昨日の事を思い出して」

「ますます聞き捨てならないわね?!」

「うう……」


こうして。

私は昨日の一件をメイに話すことになった。


「なるほどねー」


ようやく話の流れを理解してくれたようだ。

うんうんと頷いて彼女はしばらく考え込んだあと、くるりとこちらへ向き直り確認をする。


「でもさ、それってやっぱり告白じゃないの?」

「ええ?!」

「だってまだ中学生でしょ、夢で見た例の彼女にときめいてしまったのかも」


メイの言っていることは、あながち間違いじゃないと思う。


「でも私は……」

「正直、いい迷惑?それとも満更でもない感じ?」

「えっ」


急に本題に切り込まれて、返事に詰まってしまう。

別に迷惑だとは思わなかった。

けれども──


「彼、美少年よねーあんな綺麗な顔の子に言い寄られたらときめいちゃうかも」

「……」


反論する言葉が見つからない。

確かに正直な所、興味を持っていると言われて嬉しいと思う自分もいる。


だけど彼が見ているのは私では無いのだから──


「付き合おうって言われたの?」

「ううん、また二人でこれからも会いたいって」

「ふうん」


メイは複雑な顔をしてチラリと隣を見た。

私もつられて同じ方向を向くとそこには


「……どういう事だ?」


目を丸くした男子二名がこちらを見ていた。

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