エピローグ

26 朝日に背を押され

 空は白み始めていた。

 まだ眠る町並みは朝もやに包まれていて、世界には自分たち意外は存在しないかのように思えた。

 アジトの入り口には、二つの人影があった。

「黙って出てきて良かったのか?」

「うん。昨日のうちに、みんなにお別れは伝えたから」

 見送りはシャムだけだ。他の『猫』のメンバーにプリンシパル・シティに戻ると告げたとき、みんなの驚愕は大きかった。特にスコとアメショーは泣いて泣いて宥めるのが大変だったほどだ。

 プリンシパル・シティに戻ったら、またいつこの場所に来られるかは分からない。治療薬の開発次第では、もう戻ってこられないかもしれない。

 みんなのリミットは近いのだから、それ程時間を掛けられる訳ではない。先の見えない状況に不安はある。

 それでも、ヒメは歩き出さない訳にはいかなかった。

 大事な仲間を、そして愛する人を救いたい。その思いがヒメを突き動かせる。

 シャムは掛ける言葉を探していた。

 こんなとき、なんと言ったらいいのだろう。がんばれ? 負けるな?

 永遠の別れではないのだろうが、シャムは迷っていた。

「それに、また戻ってくるから」

 くるりと振り返ってヒメは続けた。その瞳はなにかを言いたげだ。

「じゃあ、行くね」

 ヒメはシャムにくるりと背を向けて、歩き出した。

「ヒメ!」

 呼ばれて思わず立ち止まる。振り返った先には、真剣な表情のシャムがまっすぐにこっちを見ていた。

「いま……名前……」

「俺らもがんばるから……待ってる」

 シャムの背後には、太陽が昇り始めている。これは始まりの光なのだろう。

 出会ったのは闇夜だった。星空の下、迷い続けた彼ら。この光の先は、出口に続いているのだろう。

 ヒメは涙を拭う。始まりに涙は似合わない。

 ヒメは満面の笑みをシャムに向けた。

「うん……! 行ってきます!」

 光が二人を包んでいた。

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PRISON CITY 安芸咲良 @akisakura

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