糸の先には

言端

prologue


おわり。end[エンド]。終着点。

すべての事象の、玉結び。不可逆かつ必然、非可塑にして決定項。

この世界に湧き起こる無数の事象のうちの、瑣末なひとつ。すべての始まりには終わりがある、なんていうありふれたセンテンスに過ぎぬ。

「それなのに、なにかにつけ、ガタガタと煩いのよね私達は」

凍てつく外気で曇ったガラスに汚い丸を描いて、掌ですぐに消す。続いて線を引く。線は曲がり、歪む。綺麗とは言えないそれを、雛子はいくつも引いていく。

「これは、終わった丸。こっちは切れた。こっちは、消された、かな」

消された、と言って一端を塗り潰した線を掌でまた線ごとかき消し、

「このへんが、関の山なのかしら」

口の中で溶けてしまう小さな吐露も、僕は聴いている。始まりから終わりまで見通せるまっすぐな糸の上を、僕らは時折跳ねながら、一瞬離れたりもしてみながらそれでも着実に端から端を目指して歩く。雛子はそうじゃない。ぐちゃぐちゃに絡まった結び目などに足を取られながら、それでも終着の引力に導かれるように無理やり終端へ走っていく。その終わりの形は、着いてみるまで見えない。綺麗に結ばれているのか、切りっぱなしの糸くずのように不格好なのか、雛子はそれを知りたがっているようにも見え、その様子はひどく可哀想で人間らしく、泥くさい生の輝きに満ちている。

「あら、そんな目で見ないでよ。私はきれいに終わりたいなんて思ってない。ただ、どうやって綴じられるのかって、それをただ知りたいだけなの」

穏やかに笑む雛子は一瞬後には微笑みを湛えたまま事切れそうだし、五十年経ったら同じ顔で笑んでいそうでもある。だがそれは、ある意味本質的であるようにも思われた。


いつ、どんな形で切れるとも知れぬ彼女らの糸。行く末が、俄に気になった。もう少し見ていてみよう、その意で漸く一言返事をする。


「にゃー」




[未完]

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糸の先には 言端 @koppamyginco

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