苦手なものを克服しようとしたら得意なものまで強化されてしまった件について

結葉 天樹

小説を書き始めた。それが全ての始まりだった

 元々、私は国語が苦手だった。

 中学生の頃はどれだけ頑張ってもテストで七十点に届かず、特に漢字の書きと小説の登場人物の心情を答える問題が大の苦手だった。

 しかし、これからの人生で漢字を使わないことや文章を読まないことはあり得ない。何としてでも克服しなくてはならなかった。


 しかし中学二年生のある日、何故か私はこう思った。


「自分で小説を書いてみたらどうだろう?」


 今から考えれば国語の知識も技術も未熟な人間が何を無謀なことを言っているのだと驚く発想だが、まあ中学二年生と言う謎の自己万能感を持つ多感な時期故に仕方がない。


 だが、これが自分の人生に大きな影響を与えたと今では考えている。


 やり方としては普通の勉強の手法ではなかったが、いざ小説を書いてみたところ意外に難しい。

 物語を作るにも登場人物の名前・性格の設定。世界観の設定など書き始める前にやることがいくつもあった。

 ファンタジー物の話が好きだったので魔法を登場させようとしたら魔法の原理やその世界でのあり方まで設定しないと話に矛盾が生じてしまう。

 そうなると当時の知識では書ききれないなんてことも多々あった。


 実際に書き始めても「この熟語の使い方はこれでいいのか」「漢字はこれで間違っていないのか」と何度も辞書を引いた。結果的にこれがよかったのだろう。気づけば苦手だった漢字や文章表現は、大好きなものになっていた。


 ある程度書ける様になってからは、「もっといい表現をしたい」と思い始める。そうなればプロの作家の書いた物語を読み始める。わからない言葉があれば調べる。良い表現は自分の作品でも使ってみるなど、良い方向にどんどん刺激され、語彙も増えて行った。


 この頃から異変を感じた。

 自分が大好きだった歴史についての知識・力が次の段階に移ったのだ。

 単に記憶していただけだった人物や事件の名前が次々に結びつき、時代背景や国際情勢など、色々な立場から歴史を見ることができるようになった。苦手な時代でも既存の知識と結び付けられるようになってからはどんどん楽しさを見出した。苦手だった和歌の意味や古文の話の内容も理解できるようになり、時代劇なども、時代の詳しいことまで知っていたことで、台詞の裏に込められたものを理解することができるようになった。


 自分で書く様になって気づいたことだが、一つの物事には様々な事柄が結びついて構成されている。勉強するということはその結びつきを作ることでもあると思っている。


「こんな勉強何の役に立つの」


 勉強をやっていて多くの人が思うこの気持ちは自分も学生時代に感じたことがあるが、今はこう思っている。


「どこかに結びついているかもしれない」と。


 だから私は普段から色んなことを調べようとしている。色んなことを知ろうとしている。

 人は、得た知識・技術を活用することにとても喜びを感じる。それは運動系でも文化系でも共通している。

 幸い私は趣味で小説を書いているので得た知識は全て糧になる。知識をまとめて様々な形で表現することができている。


 誰でも苦手なものがある。それを克服するのは難しいかもしれない。

 だが今回の私の経験から言えば、苦手なものは得意なものに繋がっている。得意なものを突き詰めて行くことで苦手なものにたどり着くことは有り得る。アプローチの仕方が違うので、いつもと違う視点からその分野に取り組むことができる。苦手だから、嫌だから諦める・捨てる・投げ出すのではなく、とにかく一つの事をとことん突き詰めてみる。それだけで良い影響は出てくるのではないだろうか。


 結局、手に入れたものを廃棄物にするか研ぎ澄ませた隠し武器にできるかは本人次第でもあるのだ。


 実際のところ、得た知識・技術が人生で本当に役に立たなかったのかどうかは死ぬまでわからない。

 私自身、高校を卒業して十年以上経ってから役に立ち始めた知識や技術もある。だから今は得たものに対して役に立つか否かの判断はする時期ではない。


 知識・技術に関しては今の内に貪欲に求め続け、そして磨き続ける。

 それでいいのだと思っている。

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