首狩り

笠之 月博

首狩り男の伝承

 青年の恋人は、凄惨な死を遂げた。青年は、理不尽な恋人の命の幕切れに酷く苦しんだ。そして、彼は脳裏に焼き付いた恋人の白い肌に赤い血がこびり付く様を、皮膚から骨が飛び出す様を忘れる為に、〝首狩り〟を始めたと言う。



「君が古い物語を読むなんてな。そんなイメージ、僕には無かったよ。」

 目の前の彼が青臭い話し方で私に向かって軽蔑の言葉を投げてきた。

「うるさいですよ。私だってたまには純文学を楽しむ事だってあります。」

 ムキになって、私が声を荒らげると彼はくすくすと笑って、私の方に向き直った。

「これは純文学じゃあ無い。今じゃ村に伝わる童話だ。首狩り何かじゃないがね。そもそもこれは物語ではなく、伝承なんだ。純文学と伝承の違いも分からないなんて、君にはまだ首狩り男の物語は早すぎるんじゃないかい?」

 演説の様に、手を後ろに回して語りはじめた。鬱陶しいにも程がある。

「もう良いです。貴方に聞かなければ良かった。」

 私は、彼に借りた本を小脇に、少し埃臭い書斎を出た。


「首狩り男、ねぇ。」

 私はだだっ広い廊下を歩きながら、ぼそりと呟いた。

 古くこの村に伝わる伝承、「首狩り男」。正直な話、これはあまり童話などにして子供に読ませる話ではない。

 簡単に言えば、恋人の死に悩んだ男が理性を失い、首を狩る。それだけの物語だ。胸糞が悪いったらありゃしない。

 それなのに、私はこの物語に惹かれてしまったのだ。



 __さて、始めようか。私が見た物語を、全て此処に記す。



 2×××年 9月 ××日

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首狩り 笠之 月博 @Arion_ognor

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