おとなりの絵描きさん

□おとなりの絵描きさん□


おとなりの男の子が、絵を習い始めた

お家に藝大の現役生を呼んでいるらしい


絵は好きだよねと母に訊かれて

おとなりに行って一緒に習ったらと

すすめられ

私もおえかきが好きなので

習うことになった


おとなりの男の子は私より一つ上

私は、小学一年生

彼は、二年生

先生は、分からないけど大学生


絵を描くのは楽しかった

スケッチブックと画材を持って

おとなりに行く火曜日は楽しかった


先生は、優しく教えてくれた

知らないことを沢山教えてくれた


毎週、毎週、続けていった

毎年、がんばって続けていった


小学校で、苛めにあって

辛くて嫌な日

死にたいとこぼした日もあった


驚いたことに

二年生の時

担任の先生が、苛めは止めましょうと言った


母が話してしまっていた

最悪だと思った


そんな中

おとなりの絵画教室は

ひたすら絵を描けて

悩みを忘れられる所だった


学校で

昇降口で蹴っ飛ばされて、飛んだらしい


帰り道

葱坊主の前で、ボッコボコに殴られた


男の子は、力に出る


アイドルグループの下敷きを見せられて

名前が分からないと

びっくりする悪口が飛び交う


この靴を

知らないおねえちゃんに

遊びに使っていいと言われたと

小さな子に

私の靴を泥だらけにされた


女の子は、陰湿で遠回りに出る


絵画教室は小学六年生迄続けた


黙ってモチーフに向かう日

お話を少しして空想の絵を描く日

楽しかった


男の子は、中学一年生で

首を絞められて失明しかかった


先生は、大学院に行っていた

国費留学が決まったと

銀座で個展を開いた


私は、中学受験をし

美術に熱心な私立に進学した


この時、言えなかった言葉があった


ありがとう、先生


好きでした


好きでした



どうして言えなかったのだろう


もう、パリへ発ってしまった


先生



ありがとう

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愛がとけたら いすみ 静江 @uhi_cna

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