第4話 はじめまして
初めて会う日は夕方まで仕事だった。「今日はお仕事ですか?」とメールがあった。「夕方まで仕事です」そう送ると「よかったら今晩ご飯でも行きませんか?無理なら大丈夫です」と。わたしも特に予定が無かったので行ってみることにした。
男性と食事に行くことは、26歳にもなれば何度か経験はある。だが今回出会いのきっかけは「恋活アプリ」。お互いが、恋人を探していることが本来の目的だ。そう思うと今までにないくらい緊張した。待ち合わせは人通りの多い大阪の難波駅。見つけられるか不安だったため、時間より少し着いた。
「着きました」そうメールをいれるとすぐに着信がきた。「どこらへんにいますか?」慣れない感じで普段は敬語でなくても自然と敬語で話をしていた。不安を感じていると向こうが見つけてくれた。
今日会う前に何度か電話をしていた中で、わたしは結構強がった発言をしていた。相手は3つ歳下。なめられたくはない。そんな変なプライドがあった。
いざ「はじめまして」と顔を合わすと言葉が出ない。正直言って顔は中の下。人のことは言えないが、決してイケメンとかそういう顔ではない。よく言えば俳優の高橋一生を崩したような顔だ。あくまで「よく言えば」。
急遽決まった食事。少し歩いて比較的空いてそうな店に入った。対面に座った。わたしは顔もまともに見れないほど緊張していた。それは相手が好きとかそういう気持ちでは一切ない。恋活アプリを使って出会った人と会うというのが、抑えきれないほど恥ずかしかった。
それに比べて相手はそんな素振りはなかったように思える。とりあえず「生ビールで」とお酒を頼んだ。わたしは普段から一人で飲むくらいお酒が好きだ。お酒に頼るしかないとこの時思ってしまっていた。
ビールも2杯目くらいになるとようやく少し落ち着いて話が出来るようになった。わたしは隠し事や嘘をつくことが苦手だった。なぜ恋活アプリをはじめたのかという話になると、素直に答えてしまうのだ。
「ずっと好きやった人がおって、その人を忘れられへんくて、きっかけになればと思って興味本位ではじめてん。」
彼は「ふーん、そうなんや。」と言いながらも少し顔色が変わった。それからはあまり何を話したかは覚えていないが、つまらない話に笑ったりしていた。
共通の好きなものに「水族館」があったことを思い出して話をした。何気なく「ニフレルに行ったことないな〜。」そういうと「俺も行ったことない!」と食い気味で言う彼。そのあとすぐに「よかったら一緒に行きません?」ここは敬語なのだ。「まあ別に予定が合えば…。」と言うとすかさず予定を聞いてくる。そしてその場の空気で約束をしてしまった。喜んでいる彼とは裏腹にわたしは乗り気ではなかった。
終電が近づいてきたので「そろそろ」とお会計。3つ下だとお会計もかなり気を使ってしまう。彼が出してくれたあとにとりあえず半分を渡した。
「じゃあ次はニフレルで!」そんな感じではじめて会った日が終わった。ちなみに「ニフレル」とは最近万博公園の近くに出来た「生きているミュージアム」と言われるとことである。
帰り道、彼からのメール。今日はありがとうというようなよくあるあの感じだ。正直「楽しい」とまでは思わなかった。次の約束にも乗り気ではなかったから。わたしの片思いは、そんなにも重いものだったのかと逆に気付いてしまったのだ。
そして誰も幸せになれなかった @azusapastel
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