クリスマスは時を越えて

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クリスマスは時を越えて

2016年12月25日


 終業式が終わり、帰宅しようと教室を出ると、男子たちが廊下を走り回っている。彼も一緒になって「いつめん」の元に駆け寄っていく。そんな彼――才羽雄聖を教室から身を乗り出して見ているのは、彼の幼馴染で片思いしている、岡本夏美。幼稚園から見続けている彼の背中は9年間変わったことはない。変わったのは、夏美の気持ちだけだろうか。いつも気安く話しかけてくれる雄聖は、夏美の憧れで想い続けていた。しかし、今まで一度も自分の気持ちに素直になったことはなかった。そんな中、彼女は雄聖が転校してしまうことを知る。いつも何でも打ち明けてくれた雄聖がこのことを言ってくれなかったことに夏美は落ち込んだ。そのまま二人は別れ、別々の中学、高校を歩んでいったのだ。


2027年12月25日


 25歳となった雄聖は立派に成人し、小さいときからの夢、医師として毎日奮闘していた。田舎から上京し東京の大学病院で小児科医として社会に貢献していた。人生としては充実していたが、あれから夏美に逢ったことはない。いい大人になったが、彼女一つできたことはない。実のところ、雄聖も夏美のことが好きだったのだ。しかし、なかなか言いづらい年頃で、夏美に正面から話すことはできなかった。雄聖は、ずっと想いを引きずったまま、今の生活を続けている。

 夏美も今や、東京で一人暮らしをしながら社会人として毎日を充実させていた。今日は、クリスマス。サンタさんにお願いして、想い人に会わせて……。なんて、考えている。25歳になりファッション関係の仕事に就いた夏美は、会社に立ち寄ってから同僚と共に大きな病院へやってきた。二人の直属の上司が、入院してしまったため、見舞いに来ていた。この病院は四階までが診察スペースそれから上が入院スペースとなっている。正面玄関からやってきた二人は、奥のエレベーターへと向かってたが、エレベーターには、車椅子に乗っていたおばあさんたちが何人も乗っていたため、迷惑になってしまうと考え、階段から五階へとあがった。その途中、三階くらいに達しただろうか。一人の男性医師が通った。ものすごい速さで階段を駆け下りていく。その瞬間、夏美は振り返る。何の確証もなかったが夏美は何かを悟り、同僚に先に行くことを促し、自分は、その医師の元へ走って行った。彼は一階まで降りて中庭へと向かった。夏美もそれに続けて、追いかける。誰も居なくなったところで、ありったけの声で、雄聖!!と叫ぶ。その医師は、振り向いて、夏美のほうへ向く。そう、間違いない。彼こそが夏美の好きな才羽雄聖だ。「SAIBA」というネームプレートと雄聖の顔を見て、思わず泣き崩れる。雄聖も気づき、夏美へと駆け寄る。

――――

もうどのくらい経っただろうか。雄聖は、夏美を抱きしめ、

「ごめん、ごめん。」

と、繰り返すばかり。

「ずっと、探してた。あの時から、大好きだった。」

夏美は延々と20年前のクリスマスからの話を続けた。雄聖も、うなずきながら、

「俺も、夏美が好きだった。ずっとずっと好きだった。」

言葉にならないくらいの気持ちを全部吐き出して泣いていた。やがて、夏美はふふっと笑い、

「好き。」



どんなに叶わない願いだろうと、サンタクロースに頼めば、叶えてくれる。その夜、二人は楽しいクリスマスを過ごした。その時、二人は一枚の紙で契約をし、お正月、誕生日、ひな祭り、お盆……。二人が皺いっぱいになるまで一緒に居た。

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