恋占い~マーガレット~

丹羽玲央奈

短編

「好き、嫌い。好き、嫌い。好き、嫌い――」


 あたしは最近、花占いに凝っている。

 相手はもちろん、あの人。優しくてかっこよくて、サッカーが上手くて欠点なんて何一つない、まさに完璧としか言いようがない。

 あっ、でも、頭はちょっと悪いかもしれない。まあ、そんなところを補ってあまりあまるほどの魅力を持ち合わせているんだけど。


「――好き、嫌い。好き、あぁ嫌いかぁ」


 また嫌いで止まっちゃった。失敗、失敗。

 おかしいなぁ。さっきからずっと嫌いで止まっちゃう。何でだろう。

 もしかして、茎や葉をカウントしていなかったからかしら。それとも、花弁のカウントを間違えてしまったのかしら。


 あの人は昔からかっこよかった。昔と言っても初めて見たのが中学の時だから、まあ言うほど昔ではないんだけどね。

 当時からあたしは冴えない三軍女子だった。虐められることはないんだけど、見下されるようなそんな存在。

 大きくて分厚い野暮ったい眼鏡に校則を守った膝下のスカート、スタイルは悪いし運動はできないし、勉強は平均よりはちょっとだけできるけど、自慢するほどのことではないし――。

 あの人のことは放課後、教室の窓からグラウンドの方をちらりと覗くだけでも満足だった。当時は恋してるというよりも、恋に恋してる乙女と言った方が正しかったけど。

 その日だっていつもと変わらないと思っていた。


「あのさ、○○○さ、わかんないところがあるんだけど教えてくんない?」


 試験前に県大会があってなかなか勉強ができなかったからあたしに聞いてきたらしい。

 今思えばそんなにロマンチックなエピソードでもないけど、あの時のあたしはすごい嬉しかったわけ。なにしろ三軍のあたしが一軍の中心でグラウンドを覗くしかなかったあの人と一緒、しかも勉強を教えて役に立つことができるのだから。

 内容自体は結構初歩的な部分だった。でも地頭はいいらしくて、一度説明したらすぐに吸収してしまう。

 そんなところあたししか知らないと思うと、不覚にも優越感を覚えてしまう。

 結局、下校時刻ぎりぎりまで教えることになった。でも、試験一週間前だし、テスト直前で部活も中止になるくらいなんだから仕方ないよね。


「ありがとな、○○○。とても分かりやすかったよ。また教えてくれないか」


 そう言いながら微笑んだあの人を見た瞬間に、私は恋に落ちた。まさにフォーリン・ラブって感じだった。

 それ以来あたしは無意識にあの人を目で追いかけるようになった。

 恋に恋するから、本当に恋した、に変わったのが否応なしにわかるくらいには世界が変わった。

 セピア色の世界が色彩を帯びてカラフルに見えるくらい世界が綺麗に見えた。本当に見るものすべてが新鮮になった。

 恋って素晴らしいな、と心の底から思った。


 本当は分かってる。あの人はあたしのことを何とも思ってないことくらい、見ればわかる。

 あの人が好きなのは一軍女子のエリカだってことも知っている。

 あの日勉強を聞きに来たのは単純に勉強が大変な状況だったからで、誰でも――あたしじゃなくてもよかったんだってことも分かってる。

 それでも未練たらしく諦められないから困っているのに。

 茎や葉を含めてもやっぱり「嫌い」で終わってしまう。

 何だかもう嫌になってきちゃう。

 はぁ、どうしようか。

                        ~Fin~

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