真夏のドライブ

西山香葉子

第1話

  

「ずいぶん田舎に来たね、あ、あと5キロだって!」

 助手席で詩織がはしゃいだ。

 つきあいはじめて5年目にして初めての旅行に出ていた。

「うん、あとちょっとで高速降りるよ」

 運転しているリカは答える。

 詩織はポカリスウエットを飲み干した。

 八島リカと川瀬詩織は某中高一貫教育校の先輩後輩として出会い、ほどなく惹かれあって付き合い始めた。

「美咲ちゃんと佳乃ちゃんも連れてきてあげたかったね」

「高校生には無理でしょう」

「佳乃ちゃんストーカーに追われたりしてないかな」

「まだ少年刑務所から出てきてないから大丈夫でしょ」

 二人の高校の後輩2人の名前が出た。

 美咲とリカは高校から、佳乃と詩織は中学からその学校に入学した。美咲は入学して間もなく佳乃と仲良くなりかけたが、佳乃にはたちの悪い奴らが鎖のようについていた。その鎖を壊す手伝いを3人でしたが、そいつらが佳乃にストーカーとして張り付いてくる恐れがある。

 4人で同じ大学に通うことを約束して2年目。リカは1年浪人した。

 その学校にも大学はついているが、佳乃には嫌な思い出しかないだろう、途中で転校してしまったし。ということで別の大学を選択した。

 学部まで合わせるのは、リカと詩織の得意教科が違い過ぎるのでできなかったが。


 夏休みの高原。

 高速を降りてしばらく走ると。

「詩織、パンフレット出して、そこから」

 リカが助手席の前の扉を指すので、詩織が底を開けるとパンフレットが出てきた。

 着いたのはペンションだった・

 荷物を置き、夕食まで遊びまわることにした。 


 夏の高原は様々な世代の人々でいっぱいだった。

 地元特製のソフトクリームを食べて、鼻の頭にクリームをつけたリカを笑ったり。もちろん詩織は。

「はい、とれたよ」

 と取ってあげたが。


「スーパー行って水とか買おう。ホテルの冷蔵庫の中身よりスーパーで買う方が安いって言うし。ホテルと違うかもしれないけど」

「そうだね」

 ペンションから一番近いスーパーまで車で5分くらいだというので二人は再び車中の人となった。


 そしてふたりでキャッキャしながら、水だお菓子だジュースだといろいろ買って、レジに並ぼうとすると、詩織の様子がおかしいのに、リカは気付いた。

「どしたの、詩織」

「トイレに行きたい……」

「もうすぐ終わるよ」

「行きたい……」

「じゃあ出口で待ってるよ」

 詩織は早足で消えた。

 リカは、目の前のレジが一人分進んだのに気付き。カートから買い物カゴをえいっとあげた。


 詩織が消えてから15分経った。お会計は終わり、荷物を詰め終えたところである。

 広いスーパーだから迷ってるのかな。

 普段の詩織はそう方向音痴でもないのだが、ここはいつもと違う土地である。

 手放そうと思っていたカートに荷物を入れて、リカは歩き出した。


 18,9のストレートロングヘアのきれいな女の子見ませんでしたか? といいたいのをこらえて歩き回る。人に聞くのはなるべく最後の手段にしたい。自分たちの本当の関係を知られるには、世の中は、セクシュアルマイノリティに冷たいから。

 車に戻ってるのかな、と思って車の前まで行ってみたが(スムーズに行けたわけではないが)、いない。

 どうしよう、このまま離れ離れになったら。

 車の前を離れようとしたその時。携帯電話が鳴った。

「もしもし、リカ? 迷っちゃった」

「ああよかった、詩織……」

 電話がかかってきてほっとした。だが脱力している場合ではない。 

 冷静になって、

「今目の前に何がある?」

 と聞いた。

「クリーニング屋さん……」

 この電話の声はいつもより少しふにゃっとした声だったと思う。

「じゃそこで待ってて。動かないでよ!」

 たぶん一周すれば見つかる。

 

 詩織はクリーニング屋の向かいのサンダル売り場にいた。

「詩織!」

「リカ!」

「良かったぁ……」

「さ、荷物持って。重かったんだから」

「えー」

「文句言わない」

「はぁい」

「さ、車まで行くよ」

「うん」


 車に乗って。二人ともシートベルトを締めたところで、

「少しドライブしようか」

 とリカ。

「夜の運転大丈夫なの?」

「慣れるためにここで練習」

「えーっ」

「さあ行こう、れっつらごー」

「うう……あ、夜景キレイ!」

 結局二人が帰ったのは午前0時だった。

 ベッドの寝乱れ具合から二人の関係を余計に勘ぐられないように、この日は求め合わずに寝た。


                             FIN

      



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真夏のドライブ 西山香葉子 @piaf7688

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