魔王
柑奈
魔王
あたしは魔王だ。
魔王たるもの、強くなければいけない。だから、あたしは強い。
魔王たるもの、簡単には攻め込まれないような城で構えてなければならない。だから、あたしは鉄でできた城の最奥にいる。
魔王たるもの、強いお付きの者がいなければならない。だから、緑色の怪獣と青色の怪獣があたしの座っている椅子の両横で控えている。
魔王たるもの、勇者をラスボスとして待ち受けなければならない。だから、あたしはここにいる。
そして――魔王たるもの、最後には敗北しなくてはならない。魔王という存在には、必ず勇者には負ける運命が待っている。
――ああ、嫌だ。あたしはここでお付きの者たちと楽しく暮らせていられれば、それで充分なのに。戦いたくなんかない。死にたくない。生きていたい。
そっと、呟く。
「お願い、来ないでよ。あたしは貴方と戦いたくない。なのに、どうして……」
「ん? なにか言われましたか魔王様?」
あたしの右隣で控えている緑色の怪獣が聞いてくる。その言葉でハッとする。あたしは魔王だ。弱みなどみせちゃいけない。しっかりしなければ。
「ううん、なんでもない」
「左様ですか。では、そろそろ勇者軍の到着になりますので、ご準備の方を」
「うん、わかった」
そう返事をし、椅子から立ち上がる。それと同時に開く扉。
「我は勇者である! 世界の平和のため、魔王、貴様を倒しに来た!」
そう叫ぶのは鎧に身を包んだ若者。後には仲間であろう者たちの姿も見える。
――ついに、この時がきたか。
目の前の男に『魔王』が言うべき台詞を吐かなければならない。そのために口を開きかけたところで――
「
奥から少女を呼ぶ声がする。はあい、と大きな声で返事をして駆けて行く少女。
緑色の怪獣と青色の怪獣と戦隊ものの人形が、誰も居なくなった部屋の中、静かに夕日に照らされていた。
魔王 柑奈 @suigetukanna
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