第六話「どう見てもリア充だ」


「今日が終われば冬休みだな!」

「その前にクリスマスだよ、けい。……明後日はクリスマスイブ」

「おま、やめろよそういうこと言うのっ」

「なんで? って聞くまでもないね。恵はぼっちだから」

「てめぇ……壮一そういちだってぼっちだろうが!」

「ぼ、僕は別に……望んでそうしてるから」

「強がんなって。ま、どーせまたこの三人でバカやって終わりだろ。なぁ、仁太郎」

「む? ああ、そうだな」


 考え事をしていた俺は、突然話を振られたがなんとか答える。

 一応、耳には入っていたのだが……割とどうでもいい話で助かった。


「今日は上の空だね。……なにかあった?」

「いや別に、なにもないが」

「んー? ああ、お前も見てたのか」

「な、なにをだ?」


 思わずぎくりとなる。

 咄嗟にさっきまで見ていた方に目を向けてしまい、余計にしまったと思う。


「あ、僕も気になってたんだ。……清里さん」

「気になるよなー、今日の清里さん。いったいなにがあったんだろ」

「お、お前らも気になってたのか?」

「そりゃ気になるだろー」

「だって……ね。いつもみたいに、男子に囲まれてないんだから」

「……そうだな」


 二人が視線を向けるのを見て、俺も再び清里の方を見る。

 そこには……。


「私、あのゲームで勝てなかったのがどうしてもわからなくて」

「わたしは、どうしてかわかってるけどね~」

「あたしも。でもどうしようもないと思うよー」


 清里は、いつもの男子たちではなく、今澤と有原の二人と会話をしているのだ。

 睨んだ通り、男子連中はどうしたらいいのかわからないようで、遠巻きに見るだけで近寄ろうとしない。女子たちも不審な目を向けるが、むしろ好都合とでも思ったのか、いつもは清里を取り巻いている男子に話しかけにいった。


(……問題無さそうだな)


 大丈夫だとは思っていたが、ほんの少しだけ心配だったのだ。

 なにより今日は終業式。冬休み、クリスマスイブが目前だ。積極的に動こうとする男子がいるかもしれなかった。

 が、杞憂だったな。


「珍しいよな。清里さんがあんな風に女子と話してるの」

「清里さんもだけど……今澤さんと有原さんが他の女子と会話してるのも、初めて見たかもしれない」

「へぇー、そうなのか? さすが壮一、詳しいな」

「べ、べつにそんなんじゃ」

「珍しくても、いいんじゃないか? 三人とも楽しそうだぞ」

「……あー、それはそーだな」

「確かに……うん」


 清里は本当に楽しそうに笑っている。あの笑顔に、クラスの何人が気付いているだろうか。


 そんな風に彼女たちを見ていると、不意に清里たちと目が合う。

 三人は頷きあい、今澤と有原が席から立ち上がってこっちに向かってきた。


「な、なんだ?」

「落ち着きなよ……。恵に用事があるわけじゃないと思うから。たぶん」


 ふたりが俺の前に立つと、恵は俺の肩を掴んで後ろに隠れ、壮一はそっぽを向いて興味が無さそうにしながら、身体をめいいっぱい傾けて、聞き耳を立てる。

 親友二人の様子に若干呆れつつ、俺は今澤と有原に声をかけた。


「どうした? ふたりとも」

「仁太郎くん、明後日って暇?」

「暇だな。なにもないぞ」

「カラオケボックスでゲーム会やろうと思うんだけど……どうかな?」

「おっ、いいな。俺はオッケーだぞ」

「よかったー。……それでね、じんた君。六人までのゲームとか、持って行こうと思うんだ」

「せっかくだから、フルメンバーでやってみたいんだけど~……」


 有原と今澤が、俺の後ろと横にちらちらと視線を向ける。

 恵は俺の後ろで完全に固まっている。相変わらず女子に免疫の無いやつだ。

 一方の壮一は、ガタッと机から滑り落ちそうになり、一人でばたばたしている。


「こいつらで良ければ誘っておく。どうせ暇だろう、人数に入れておいてくれ」

「本当? ありがと~、仁太郎くん」

「それじゃ、詳しいことはまたあとでねー、じんた君」


 二人は嬉しそうに、清里の元へと帰って行く。

 が、今澤がなにかを思い出したように戻ってきて、俺にそっと耳打ちをした。


「優理子ちゃん、今まで周りに、ぐいぐい来る積極的な人はいなかったみたい。だから意外とすごく乙女だったりするから、がんばってね。仁太郎くん」

「……? なんの話だ?」


 俺は首を傾げるが、今澤はそれ以上説明する気がないようで、手を振って清里の側へ戻って行ってしまった。



「な、な、ななっ! 仁太郎、今のはなんだ? ああ、女子が、女子がぁっ!」

「仁太郎っ! 説明してくれるね? 今の。どういうこと? さあ、早く説明してよ!」

「お、落ち着けよ壮一。恵はそれ以上力を入れるな。俺の肩を握りつぶすつもりか」


 やれやれ。俺は二人をなだめる。


「聞いていただろ? 明後日、ゲームをして遊ぼうというお誘いだ。お前らも来るだろ?」

「い、い、いいいい、いいのか? いや、でも俺はっ、そのっ」

「ぼ……僕は、そうだな。……うん、ちょうど予定は空いてるかな。参加してもいいよ?」

「なんでちょっと上からなんだよ」

「いや! 仁太郎様! お願いします、僕も参加させてくださいっ」

「土下座すんな! なんだよお前、意外とあっさり捨てるのな、プライド」

「僕だって仁太郎に土下座する日がくるなんて思わなかったよ。だけどクリスマスのお誘いだよ? プライドなんていくらでも投げ捨ててやるさ」

「い、いいからもう顔を上げてくれ。ちょっとキャラが変わってるぞ。んで、恵はどうする? ……あー、いや、来い。お前は絶対に来い。いいな?」


 直立不動で固まって変な汗をかいている恵を見て、俺は溜息をついた。


「ちょっ、来いって、なんで俺には命令系なんだよっ」

「お前は少し女子に慣れろ……。これはいい機会だ」

「……確かに、そうかもね。仁太郎に同意するよ」

「マジで言ってんのか?! う、うおおお……」


 恵が頭を抱えてしゃがみ込む。

 免疫を付けるチャンスだが、若干不安になってきた。

 あいつらに迷惑をかけないようにしなければ。


「……それで? どうして仁太郎があのふたりと親しいのさ。そこの説明がまだだよ」

「わかったわかった。ちゃんと説明してやるから」


 やれやれ……。

 興奮している壮一と混乱している恵。

 今澤と有原については簡単に説明できるが、問題は……。


「ん……?」


 と、そこへスマホにメールが届く。

 ふたりのどっちかが明後日の時間について送ってきたのかと思い、確認する。


(違うな。……清里から?)


 明日のゲーム会、六人用のゲームをフルメンバーでやりたいと言っていた。

 いや例えその言葉が無くても、清里がメンバーに入っていることはわかりきっている。

 さっき二人だけで話しかけてきたのは、清里まで一緒に来たら面倒なことになるからだろう。その間に、清里はメールを作成していたわけか。


(まぁいい。待ち合わせの件ならすぐに見た方がいいな)


 その場でメールを開いて……俺は、固まった。


 清里からのメールの内容は――。




明後日のゲーム会。あ、クリスマス会でもあるのかな? 楽しみだね。

ふたりともすごく張り切ってるよ。


それから…。

ありがとう、仁太郎くん。


言った通りだったね。陽子ちゃんと美和ちゃんと話してたら、男子が話しかけてこなくなったよ。


どうしてもすぐにお礼が言いたくて。メールしちゃった。



一昨日、公園で仁太郎くんに話しかけられてから、世界が変わった気がする。

私は今、充実してる。本当にリア充になれたと思う。


でもね?

ふたりと話しててわかったんだけど、私にはまだまだ知らないことがいっぱいあるみたい。

明後日はゲームをしに行くんだけど、実はカラオケも行ったことがないんだよ。

他にもたくさん、私は……遊び方を知らないみたい。


だから仁太郎くん。

よかったら、また遊びに連れて行って欲しいな。


昨日は、結局あやふやなままだったから……。

今度はちゃんと、デートとして誘ってもらえると嬉しいです。




 読み終わり、バッ顔を上げて清里を見る。


「…………!!」


 ばっちり目が合い、清里は顔を真っ赤にして慌てて目を逸らした。


 なるほど、意外と乙女……か。

 ……恥ずかしいなら、こんなこと書くなよ。


「どうしたの? 仁太郎、早く説明してよ」

「い、いや、なんでもない。ちょっとだけ待っててくれ」


 俺は壮一に断り、ダッシュで廊下に出る。

 がらりと窓を開け、冷たい空気に自分の顔をさらした。


「……今なら、俺にもわかるかもしれない」


 世間一般的に言うところの、リア充というヤツが。


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俺はどう見てもリア充だ 告井 凪 @nagi_schier

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