大陸、今の中国辺りからやって来た男・張旦が、イズモとヤマトがまだ別々の存在だった頃の日本について、また、そこに住むひとびととどう関わったか、その数々の事件について語る物語です。
全体としては、張旦の知性や性格を感じる物静かな印象です。特にはじめのうたは日記を読んでいる感覚でした。
が、ヤマトの王子・オウスが起こす事件の数々はいずれも鬼気迫る描写で表現されています。
張旦が医者として活動したり日々の暮らしやイズモのひとびとについて語る日常の場面はさらさらと読み進められました。対して、オウスが何かをやらかすと、スクロールする手に力が入りました。
オウスは実に魅力的です。彼は、美しく、艶かしく、自信家で、目の前にいたらきっと惹かれるに違いありません。しかし、そうであればなおのこと、オウスに求められても応じない(と書くとなんだか誤解を招きそうですが……)張旦はいかにイズモの王・タケルを愛していたか(というのも語弊がありそうですが……)というのを考えさせられます。狂おしく切ない。張旦は平和以外何も望んでいなかっただろうに……。
大陸とイズモ、イズモとヤマトの対比の中に現れる『文明』や『蛮族』の考え方も面白かったです。どれもあくまで張旦の主観だと思えばすんなり受け入れられます。なるほどこの時代の東アジアに生きるひとびとの目に映ったのはこんな世界だったのでしょう。歴史映画を見たあとの満足感です。