第43話 ドラゴンヴァンパイアと空の旅

第43話 ドラゴンヴァンパイアと空の旅




 街を出てライナスがペガサスを召喚して二人でその背に乗って空に飛び立ってから一夜明けた。

 時間はもうすぐ昼になる頃だろう。

 今もペガサスのペガは二人を背に乗せ、青い空をそれなりの速度で飛んでいる。


「……それにしてもよく眠っているな」


 ペガサスの背で未だに眠るパイアをライナスが一瞥して呟いた。


 確かにライナスの言う通り、パイアは飛んでいるペガサスの背で穏やかな表情で未だに眠っている。

 しかし、それもしょうがないことだろう。

 今までパイアの中で眠っていた龍の血を強制的に目覚めさせたのだ。

 身体が馴染むまでにそれなりの時間は必要だろうな。


「んん……」


 そう思っているとパイアの口から声が漏れる。

 どうやらやっと目覚めるようだ。


「……あれ? 僕は……」


 ゆっくりとパイアは瞼を開いて身体を起こす。


「やっと起きたか」

「ライナス? えっと、ここは……うわっ!?」


 目を覚ましたパイアが遥か下に見える大地を見て慌てる。

 寝ぼけてるのか?


「ちょっ! 落ち着けアリア、ここはペガの上だ」

「ペガの上……あぁそうか。 そういえば、そうだったね。 ライナスごめん。 ペガもごめんね」


 すぐにライナスがパイアを落ち着かせて今度こそちゃんと目が覚めたようだ。


「いや大丈夫だ」

「ヒヒーン」

「ありがとう……ちなみに今は何時くらい?」

「もうすぐ昼になるくらいだな」

「えっ? そんなに?」


 自分が思ったよりも長く眠っていたことにパイアは驚く。


「穏やかな顔でよく寝てたぜ」


 ニヤリと笑みを浮かべながらライナスはそう言った。


「……あはは。 ずいぶんと迷惑を掛けたようで」

「このくらい構わねえよ。 アリアは色々とあって疲れが溜まってんだろ」

「えーっと……そうかも」


 パイアは申し訳なさそうな顔をしてそう応えた。

 大方、ライナスに血の覚醒のことを隠していて申し訳ないとか思ってんだろうな。


「ごめん」

「だから構わねえって。 それよりアレを見てみろ」


 ライナスは地上に向けて指を指した。

 指を指した先には石造りの砦のような物が建っている。


「あれって……まさか【ザッカット砦】!?」


 パイアが信じられないといった顔で驚いた。

 ザッカット砦?

 なんだそれは?


「ああそうだ。 あれはザッカット砦だ」

「嘘……だってザッカット砦っていったら昨日の街からヨーランまでの3分の1の所にある砦だよ!」


 なるほど、その位の距離なのか。


「いやぁ俺も最初は驚いたぜ」

「ライナス、ペガって……ペガサスってそんな速いの?」


 そんなに驚くことか?

 俺からしたら遅いんだが。

 俺なら多分1時間もしない内に目的地にたどり着けると思う。


「いや、いくらペガサスが速いからってこんなに速くはねえ。 おそらくペガが特別速いんだろうな」

「へぇー。 ペガは凄いんだね」


 いや、なんで他のペガサスの速さをお前は知ってんだよ! 

 っとツッコミたいところだが、別にいいか。

 俺は関係ないし。


「この速さで行けば明日中にはヨーランに着けるな」

「歩きで半年以上掛かる距離が2日くらいになるなんて……」

「まぁ歩きだと街道を進まなきゃ遅くなるが、空から行けば全部無視して行けるからな」

「そっかぁ」


 そこで二人の会話が途切れる。

 いつまでも黙っていてもしょうがないし、そろそろ俺が声を掛けてもいいだろう。


《おはようパイア》

「あ、おはようございます神王様」

「ん? 何か言ったか?」


 俺がパイアに声を掛けるとパイアは小声で返してきたが、ライナスとの距離が近くて少し聞こえてしまったらしい。


「何でもないよっ!」

「そ、そうか」


 少し慌ててパイアがライナスに何でもないと言うがちょっと変だぞ。

 別にライナスに隠す必要なんてないと思うが、まぁいい。

 しょうがないから俺から一方的に声を掛けるか。

 ……何だか寂しい奴みたいで嫌だな。


《俺から一方的に言うからお前は返事を返さなくていいぞ》


 すると、パイアはコクリと小さく頷いた。


《とりあえず、お前の中に眠っていた龍の血の覚醒は成功した。 お前はもうその力を感じ取れる筈だ》


 そう俺が告げるとパイアは不思議そうな顔をする。

 なんだ、わからないのか?


《……あー、自分の中に意識を向けてみろ。 普段感じ取れなかったものがあるだろ?》


 不思議そうな表情から真剣な表情になり、しばらくして頷いた。

 感じ取れたか。


《どうやら感じ取れたようだな。 それならもう気付いていると思うが、その力の中心……源と言った方がいいかもしれない所がある筈だ。 お前はそこに近付けば近付くだけ力を得られる。 慣れるまでは少しずつ力を引き出す練習をすればいいだろう。 そうすれば、俺が殺したプレイヤーくらいとならやり合えるようになる筈だ》


 そう聞いてパイアは嬉しそうな表情浮かべる。

 ここまではいい。


《……ただし!》


 パイアがビクッとする。


《デメリットもある。 よく聞け、これはお前と龍の血との相性が想像以上に良かったことにより生じた副作用》


 そう……本来この血の覚醒に大したデメリットなんて無い筈だった。


《お前は力の源に近付くだけでより大きい力を引き出せる……が、逆に力の源に近付き過ぎるとお前は人としての自分を失っていくだろう》


 パイアがゴクリと喉を鳴らす。


《もしお前が力の源に完全に触れた時、お前は比べ物にならないくらい強大な力を手に入れて人ではなくなる。 肝に銘じでおけ》


 再びパイアは真剣な表情でコクリと頷いた。


《……まぁつまりだ。 力の源に近付き過ぎなければ、それは有用な力だ。 お前の言ったように人でいたいなら注意して使え……それだけだ》


 そこでパイアは真剣な表情を崩して柔らかく微笑んで大きく頭を下げた。

 おいおい。

 そこはそんな感謝するところじゃないだろ。

 むしろデメリットが出来て俺を非難するところじゃないか?

 ……なんでお前は笑っていられるんだ? パイア。


《はぁー……まぁいい。 とりあえず、後ろの男が驚いているから頭を上げろ》

「あのー。 アリア何やってんだ?」

「あ、えっと! 何でもないよっ!」


 慌てて頭を上げたパイアはライナスにそう言った。


《いや、何でもないって》

「いや、何でもないって」


 ……ついこの男と被ってしまった。


「……ぷっ! あはははは!」

「な、何笑ってんだよ!?」


 堪えきれなかったパイアが大声で笑い出した。

 ライナスは何が何だか分からないといった感じだ。

 ……まぁいいか。


 そんなこんなで時間は過ぎていった。




♢♢♢




 昼が過ぎ去り2、3時間が経った頃。

 俺は背後から何かが近付いて来るのを感じた。

 この感じからして生物……数は8といったところか。

 空を飛んでいるようだが、鳥ではない。

 8の中の5の反応は人間だ。

 しかし、残りの3の反応は俺には分からない。

 ……ただ、何か変な感じだ。

 とりあえず、パイアに教えておいてやろう。


《おい、パイア》

「ん?」


 パイアはどこか眠そうな顔でうつらうつらとしている。

 たくっこいつは……まだ眠いのか。


《とりあえず目を覚ませ。 背後から何かが近付いて来ているぞ》

「な、なんだって!」

「お、おいアリアどうした?」


 急に声を上げたパイアにライナスが驚く。


《数は8。 その内5は人間だ。 しかも、空を飛んで追いかけて来ている》

「飛んでいる人間!?」


 パイアはすぐにペガから身を乗り出して後ろを見た。


「おい危ねえぞ、アリア!」


 突然のパイアの行動にライナスが声を荒げる。


「……見えない」


 どうやらパイアには見えないらしい。

 そりゃそうだろ。

 俺の感知範囲は広いからな。


「アリア、説明してくれ。 一体どうしたんだ?」

「……その……何かが背後から来ている気がしたんだ」

「何?」


 ライナスはすぐさま後ろに振り返って注意深く見る。


「……何も見えないぞ」


 どうやらライナスにも見えなかったようだ。

 しょうがない、俺が見てやろう。

 俺は目に力を入れて魔力を込める。

 すると、段々と背後の奴らの姿が見えてきた。

 あれは……3つの影。

 その3つに人間が騎乗しているのか?


《遠くに3つの影が見えた。 おそらくその影に人間が乗っている》

「ッツ!? ……えっと、あのそのー」

「本当に何か来てんのか?」


 ライナスが怪訝な表情でパイアを見ている。

 さて、どうするパイア?


「あの……僕には実は遠くの気配を感じる力が……あったりして」

「……」

「えと……」


 いや、幾ら何でもそんな誤魔化し方はないだろパイア。

 いくらライナスがアレだからって流石に。


「はぁーしょうがねえなぁ。 今はそれで納得して信じてやるよ」

「あ、ありがとうライナス!」

「くっ」


 パイアが笑顔でお礼を言うとライナスは頬を赤く染めてからすぐに顔を引き締めた。


「それで? その気配ってのはどんな感じなんだ?」

「えっと、背後から3つの何かが飛んで来ていて……それに人間が5人乗ってるみたい」

「何っ!? そこまで詳しく分かるのか!」


 そりゃ驚くよな。

 俺だって普通の人間が目に見えないような遠くの気配を詳しく分かったら多少驚くわ。

 そうだ、見ようと思えばもう少し詳しく見れるな。


《もっと詳しいことも分かるぞ?》

「ッツ!?」

「どうした?」


 突然驚いたパイアをライナスが不審に思う。


「もう少し詳しく分かるかも」

「何っ!? それなら話してくれ」


 しょうがないな。

 俺はもう少し力を入れて見ようとする。

 すると、3つの影がハッキリと見えた。

 あれは……何だ?

 緑色をしたトカゲのような生物が三体飛んでいて、その背に武装した人間が騎乗している。

 あの空飛ぶトカゲのような生物……ドラゴンではないだろう。

 まさかワイバーンか?


《3つの影だが緑色をしていてトカゲのような生物だ。 その背に武装した人間が乗っている》

「まさか……」

「アリア、どうした?」


 パイアの顔が歪む。

 パイアはあの生物を知っているのか?


「三体の緑色のトカゲのような生物が武装した人間を乗せて飛んでいる」

「なんだと……ちっ! そりゃ間違いなく【ウインドワイバーン】だぜ」


 ライナスが舌打ちをして、その正体を告げた。

 やはりワイバーンか。

 知識として知っていたが、まさか実物を見られるとはな。


「ウインドワイバーン? それは一体? 普通のワイバーンとどう違うの?」

「簡単に説明すると、ウインドワイバーンってのは普通のワイバーンと違って風を操ることが出来るモンスターだ。 ワイバーンの中でも一番速く飛べる種だ」


 ふーん、そんなモンスターがいるんだな。

 てか、ペガサスの次はワイバーンか。


「……でも、ワイバーンは亜竜とはいえ竜種だよ。 それに人間が乗れるなんて……信じられない」


 そうなのか?


「それを言ったらペガサスに乗っている俺たちのことだって普通は信じられないだろうよ」

「それは……確かにそうだけど。 じゃあ僕たちを追いかけて来ている奴らは僕たちのように魔法具でワイバーンを召喚したってこと? それも三体も!」


 確かにそれはおかしいな。

 魔法具というのはパイアの話ではかなり貴重な物の筈だ。

 それを3つも持っていて惜しげも無く使える……なるほど。

 ってことはだ……答えは一つしかない。


「それが出来るような奴らだってことだ」

「それって……まさか!」

「あぁ」


 パイアも気が付いたようだ。


「ぷれいやー!」

「そうだ、間違いねえ」


 パイアは顔を歪め背後のまだ見ぬプレイヤーたちを睨みつけた。

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常識外れの最強種族 〜俺が始めた異世界歴史〜 リブラプカ @Purizuma

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