僕は、いかにして無罪になり得たのか。

「まだ、中学生だろ、しょうがないよ」

 そんな声が聞こえた。

 気がつくと、僕は、天井にライトセーバーのような蛍光灯が何本も並列に設置され煌々と灯りをともす大きな会議室のような部屋に居た。

 腰縄も手錠もない、相変わらず、ベルトはない。靴紐もない、そして、フード付きのポンチョはそのまま。

 部屋は恐ろしく眩しかった。目隠しされた護送されてきたのだ、ここがどこだか検討すらつかない。


 室内には、二人の男が居た、ともにスーツ。僕は、よくあるグルグル回る事務用椅子に座っていた。

 僕は、泣き止んだ後で少し放心状態だった。

 スーツを着た一人が、名刺を渡してきた。

「文科省の技官、山本といいます」名刺にもそう書いてある。

 もう一人のスーツを着た男も名刺を渡してきた。

「防衛省の技官をしている、斎藤といいます、よろしく」

 防衛省の斎藤さんのほうが、丁寧だったがネクタイは、僕の父親がしているようでダサかった。

 山本さんが、言った。

「君自分がどういうことしたか、自覚ある?」文科省のほうが、偉そうだった。

 僕は、小さい子がやる戦術を取ることにした、どうせなにを言っても言い負かされるか、刑を受ける身なのだ。

 答える義務はないし、答えて事態が好転する目算などこれっぽちもない。

「すごいよね、うちの155ミリの特科の砲弾、榴弾の信管、空中作動も遅発も全部かわして、25億円もするコブラ落として、9.5億円するって言われてる10式戦車1量破壊、あれなに?」防衛省の斎藤さんが言った。

「ボクです」

「えっ?」

「B・O・K・U、ボクと呼んでます」

「ボクね」山本さんが答えた。

 一人のこれまたスーツの男が部屋にノックもせず入ってきた。

 山本さんが言った。

「こちらはね、まぁ、偽名だけど、警察庁から出向中の内調の鈴木さん」

 内調の鈴木さんは、さすがにいかつい、取り調べにあたった県警のどの刑事より眼光が鋭い。

 内調の鈴木さんが言った。

「バックはどこ?、北朝鮮、中国、イスラエル?」

 僕は黙っていた。

「もしかして、アメリカ?、あの日、在日米軍のコブラボールやプレデターにグローバルホークがぶんぶん飛んでたんだけど我々に事前通告なしに」

「知りません」

 僕は答えた。

「一応県内の工務店はもう全部当たったんだけど、施行は国内の工務店?それともネットで買える海外製の対テロ用のキットかなんか!?」鈴木さんの質問は一々鋭い。

「ちがいます」

「海外の元特殊部隊やなんかの軍人で組織された民間の警備会社用のやつかな?」 

「ちがいます」

「なんで、あんな強いの、というより、あれなに?」

 鈴木さんがじっと立ったまま上から僕を見つめる。

「汎用人型建築です」

「えっ、もう一回言って、はんよう、、」

「汎用人型建築BOKUのです、これ県警にも言いました」

「うん、調書は読んだし、取り調べも全部見た、だけど、あんなのどうやって造ったの」


 ここから、僕は、何時間かかったかわからないが、一番最初から全部話した。

 途中、4人には何個ものコンビニ弁当と何本ものペットボトルとチェーン店のコーヒーが箱単位で差し入れられ、4人で何度もトイレに行きコーヒーの匂いのする小便をし、僕の説明は続いた。

 時間の感覚はなかった。

 なにせ、時間の感覚がなくなるほどの努力をして制作したのだ。説明にも時間の感覚がおかしくなるほどの努力がいる。

 最初に脱落したのは、文科省の山本さん。次に、最初は熱烈な関心を見せたけど、製造やシステムのパートになると急に熱意が冷めた防衛省の斎藤さん。

 最後まで苦戦しながらも根性をみせ接戦に持ち込んだのは、内調の鈴木さんだ。

 内調の鈴木さんの敗北宣言は、こうだった。

「君を信じよう」

 信じるのなにもない、全て事実なのだ、言語化された完全なる写実だといってもいい。

 内調の鈴木さんはそう言うと、会議用の長机の上にワイシャツ一枚でひっくり返ってしまった。

 内調の鈴木さんがぶっ倒れたころ、最初に脱落した文科省の山本さんが、強壮ドリンク剤で復活していた。

 僕は、コンビニ弁当とミネラルウォーターしか摂取していない、しかも、ミネラルウォーターは水道水と同じ軟水だ。


 そして、いよいよ権力サイドの本音が見えだした。

「国としては、君に対して提案がある」

 僕は、ごくっと唾を飲み込んだ。

 国という言葉を普通に使う、官僚の彼らが恐ろしい。

 文科省の山本さんは続けた。

「先ず、最初に君は逮捕された犯罪者だということを自覚してもらいたい」

 裁判所で刑が確定して犯罪者になるはずで、ぼくはまだ容疑がかけられただけの容疑者だ。言い返す事もできたが、黙っていた。

「幸いにも、君には、被害届が殆ど出ていない、事実被害が出ているのは、警察と陸上自衛隊で、我々は、その被害を取り下げる用意がある、但し、一点だけ条件がある。君の造った、なんだっけ?」

「BOKUです」

「そう、それに関する全ての情報、運用のノウハウ、製作方、操縦方を全て我々国に提供してもらいたい、何一つ隠すことなく」

「もし断ると、、」

「法治国家で起きた通常の少年がおこした周到に準備された大量殺人事件として、通常の手順を経て法のもとで裁かれることになる。今、我々はマスコミや総務省がネットですら押さえ込んでいるが、それもすべてナシになる」

「少年法があるはずですが」

「あれだけの騒ぎを起こし、一体君は何人を殺したのだ?」

「正当防衛です。いずれのケースも最初に攻撃したのは、県警であり、自衛隊です」

「それは、我々、体制側である国が使う言葉で、君ではない。君は大量殺人を犯した只のテロリストだ」

 僕は、黙り込んでしまった。

 テロリストという言葉は、中学生には重い。特に、ソシオパスでなく、殺した陸上自衛官のことも思い悩んでさえいる僕には。

「少年法により死刑にならなくても、あれだけの大量殺人を犯した中学生を精神疾患罹患者として治療の名のもと、一生精神科の隔離病棟に留め置いても世論は当然だと思うだろう。マスコミといっても、いろいろあって雑誌媒体などは、君の名を暴き巷間こうかんに知らしめることなど、なんとも思わんだろう。しかも、君が造ったのは、誇大妄想パラノイアが更に大型化し具現化ぐげんかたような子供じみたロボットだ、それも"引きこもり"の象徴のような自宅を改造したときている。狂ってると普通の人なら誰もが思うだろう」

 今こそ、ほんとうにBOKUが必要だった。これほど追い込まれたことは人生でなかった。 BOKUを手放すのは正直辛かった。それこそ、身を切られる用に辛かった。BOKUは、その名の通り、自分自身と言っても良かった。

「君には、選択の余地はないといってもいい」

 と文科省の山本さん。

 防衛省の斎藤さんは、微笑ほほえみながら言った。

「安心したまえ、君には、今後も汎用人型建物の研究には重要中心人物としてたずさわってもらうつもりだ」

 僕にはこの条件をのむしか無かった。

「お互いベストを尽くし、現用兵器を全て無力化出来る、最強の汎用人型建物を日本中にマイホームとして建築し、世界のミリタリー・バランスを変える気はないかね?、専守防衛と平和の名のもとに世界を征服するのだよ。このことはもう総理と官房長官のもと、閣議決定がなされていて、正式に来年度予算に計上される予定になっている」

 防衛省の斎藤さんは本当に手さえ差し出してきた。

 本当なら、この手を握ってはいけなかった。これは、悪魔との握手だ。僕は兵器を作るつもりはなかった。強くなりたかっただけだ。彼ら三人は僕の真の誠の動機を理解していない。ドント・トラスト・オーバーサーティDon't trust over thirtyで、一生追われる身になって生きるか、狂人として一生、病院で隔離されるのが人として正しい道だし、ある意味、精神的には純粋ピュアかもしれない。

 巨大ロボットに乗るアニメの主人公ならそうしたはずだ。そのほうが、アニメ自体も

面白くなりそうだ。そして、逃げ続けるか、精神病院を脱走する。

 しかし、僕は、三人の官僚彼ら全員と握手した。


 そう僕は悪魔と手を結んだのだ。


 大手を振って、家に帰れたが、今も、僕は、誰も知らない地下で、僕は世界征服する汎用人型建物を研究し製作している。


 そう、世界を征服するために。

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僕は、いかにして世界を征服しようとしているのか? 美作為朝 @qww

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