第2話<ローブの男>
それが目の前に現れたとき、ぼくと彼女は一瞬言葉を失い、身動きが出来なくなった。
亡命した吸血鬼を追いかけていつの間にか森の中に入っていたわけだが、目の前の光景はどう考えても常軌を逸している。
「……所長、お知り合いですかぁ?」
「足元に頭蓋骨ため込むような知り合いはいないよ」
男か女かもわからない目の前の“それ”の足元には頭蓋骨が積み上げられている。映画や小説の世界で見たことはあっても、実際目の当りにするとなかなかに不気味だ。
「じゃ、じゃあお引き取りいただきましょうよ。わたし思うんですけれど、この状況って結構アブナイんじゃないかなーって。肩に鳥乗ってるし。めちゃくちゃ凶暴そうなんですけどあの鳥」
「凶暴かどうかといえば、目の前のこのお方自身が非常に凶暴そうだね。きみ、もしかしたら探し求めている亡命吸血鬼の眷属かなにかかもしれないよ。話しかけてみてほしい」
ははは、と彼女は乾いた笑い声をあげる。
「いやー、無理じゃないですかねー。わたし英語からっきしですし、あの鎧とかマジやばいですって。コスプレの領域超えてますよ。手に刃物みたいのも持ってるし。探偵事務所の助手業務の範疇外かなー、なんて」
これだけおれらが話していても、目の前のそれは微動だにしない。言葉が通じていないのか、もしかすると生き物ではなくただの置物なのかもしれない。
しかし“それ”の周りに漂う空気が後者の可能性を全否定している。“それ”は確かに意思を持っているだろうし、おれらに対して好意的とは思えない。
「所長! ピストルですよピストル! いっつも持ってるじゃないですか。映画の中でプラスティックだからX線にもひっかからず機内にも持ち込めるって悪役が言ってたやつ、ほら、あれですよぅ。もう一発ぶっぱなしちゃってください!」
「実際にけん銃なんて持ち込めるわけないだろう。いやしかし、困ったなぁ……。とりあえずおれの後ろに下がってて。どうも嫌な予感しかしない」
「だからそれはさっきからわたしが言ってるじゃないですか。イッっちゃってるって!」
とりあえず、と右足を半歩後ろに引いて重心をそちらに移す。
がしゃり、と重い音が鳴り“それ”が初めて動いた。思わずびくりとし凝視すると、相手もこちらの攻撃に備えている。まずい、非常にまずい。こちらのちょっとした気配の変化を完全に読まれている。まともにやりあって勝てそうな相手じゃない。というか、まともじゃない。
「あのー……。こ、こんにちは……。ハロー? グーテンターク……?」
反応はない。もうここまできたらしょうがない。
おれは拳をかまえた。“それ”の肩に乗っていた鳥が不気味な鳴き声をあげ、森中に響き渡る。
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