#4 天野川家

「と、いうわけだ龍。を貸してくれ」

「断る」

「ケチだな……」

 彼女のウォールター探しを手伝うため、俺たちは龍の家に来ていた。

「ねえ、ホントに簡単に人を探せるの?」

不思議そうに俺の後ろから龍の方をのぞき込みながら質問は俺に向けていた。

「ああ、凄いぞ、どんなとこにいても見つかるからな」

「おい風真そいつは誰だ!?」

さすが目ざとい、龍の美少女センサーはお目当てのものより時と場合によっては正確かもしれない。

「あ? こいつは…… 親戚の子供だ」

何言ってんの? って表情でこちらを見つめる彼女のことは無視で良い。

「親戚の子供?」

「ああ、迷子になったらしくてな。親を探すためにお前に頼みに来た」

迷子になったのは事実だし、親ではないが保護者のような人間を探そうとしているし、あながち間違いじゃない気もする。

「なおさら却下だ。その程度のことで貸せるか」

「その程度とはなんだ」

「その程度だろう、迷子になっただけじゃねえかよ。そもそも、俺の独断で使えるもんでもねえんだ」

「お願い! 私、どうしてもウォールターを探さなくてはならないの! あなた達が何のことを話しているのかは分からないけれど、それを使えば見つかるというのなら、どうか、お貸しいただけませんか?」

うるんだ瞳と上目遣いのコンボ、これは道中俺が教えておいた切り札だ。こんなことをされて女好きの龍がオチないわけ―――

「待ってな嬢ちゃん、俺の土下座は百発百中だぜ☆」

オチないわけない。何がキラーンだ。




 玄関口で待つこと30分。

「へー! ふーちゃんの親戚の子ねぇ! 超可愛いのん!」

「おい、おびえてるだろ」

「可愛いねぇ、私、皆木唯って言うの。よろしくねっ!」

 俺たちは何故かやってきた唯を含む3人で雑談をしていた。

「こんな時間にふーちゃんの声が聞こえるからさ。気のせいかと思ったけど確かめたくなっちゃってねぇ」

「隣だもんな」

「そうそう、丸聞こえだっつーの!」

「そりゃ悪かった」

「いんや、気にすることないさ。こうやってふーちゃんに会えたし、こんな可愛い子にも会えちゃったしぃ!」

 俺と2人の時は勝気なイメージだったのに唯を前にした途端しおらしくなっている。まあ唯との初対面はちょっとこのエネルギッシュさに押されるのは気持ちは分かるが。

「おう、待たせたな! ……なんでお前もいんだよ」

「やっほす、なんか楽しそうな声が聞こえたから出てきたのでっす!」

「……まあ良いや、上がってくれ」

 龍から案内されて廊下を進んでいく。やはり天野川家は天文魔法の名家だけあってそこそこに広い。

 廊下の奥の扉をくぐり、階段を上り3階まで登る。ここが天野川家のアトリエだ。

「ここがウチのアトリエだ。ちょっと待ってな、準備するから」

そう言って龍は階段を下りて行った。

 アトリエは3階のフロア全体を占領しており、その広さはちょっとした研究所くらいだ。そしてその中央部には大きな円柱型の物が天井を抜いて高くそびえている。

「これは?」

「これは「天文台」って呼ばれてるものだよ」

「天文台?」

 興味深そうにその円柱型の物体をいろんな角度から眺めている彼女を、俺と唯で微笑ましそうに眺めている。こう見るとやっぱり子供みたいだ。

「ただ天体観測をするものじゃないのよん? これを使えば地球上のあらゆる場所の霊力を観測できるのさ」

「何それ!? 凄すぎない!?」

目をパチクリさせて素直に驚くその姿はやはり子供だ。

「しかし、制限や条件はありますけどね」

 突然背後から声がするから驚いた。

「あっ、龍美さんこんばんはっすー!」

「お邪魔してます」

「はい、話は龍から聞いてるわ」

 龍の姉の天野川龍美あまのがわ たつみさん。綺麗な黒髪は大和美人の証、長髪を後ろでまとめてるこの美人さんが天野川家の現当主だ。天文魔法に関しては日本全国でもトップレベルの使い手なのだが、魔法は使うより研究する方が好きらしい。

「唯ちゃんも言っていたけど改めて説明してあげるわね。

 これは超文明級霊力換装モニュメント「逆説天文台」。

 みんなは簡単に天文台って呼んでるけどね。

 一応「天文台」と言えばアメリカのオルバ家が所持する「天文台」があるから、

 紛らわしいのよね。

 オルバ家の所持する「天文台」は簡単に言うと地球以外の場所に存在する霊力を

 観測するものだけど、こっちの「逆説天文台」は地球の全ての霊力を観測するの。

 仕組みとしては、白の霊力の応用で人工太陽と人工月を形成、

 それらを本物の太陽、月と霊力・意味を同期させる。

 すると、太陽の視点、月の視点からの映像を映し出すことができるってわけ。

 そうすることで、昼の地域も夜の地域も観測できるの。

 分かった?」

「いえ、全く」

「分かんないでっす!」

「まあそうよね、説明するより実際に使ってみた方が分かりやすいかも」

「オッケー、セッティング完了したぜ!」

 丁度よく龍が階段を駆け上り戻ってきた。

「逆説天文台、起動シークエンス。人工太陽、人工月、生成実証開始―――」

 霊基盤を巧みに操作する龍美さんの姿は美しさの中に強さまでも兼ね備えている。これが魔法名家の当主か……

「調整完了。大体ここら周辺にレンズの座標を合わせたわ。その探し人の霊力は分かる?」

「えっと、とりあえずこの世界のものではない感じです」

「この世界のものではない?」

「はい、もしくは凄く古いとか」

「凄く古い、ねぇ……」

「分かりにくいでしょうか……?」

「いいえ、十分よ。この反応かしら、今の時代の一般的な霊力反応とは異なってる。かなり古い構成パターンの霊力が見つかったわ」

周辺地図が映し出された霊基盤に一際輝くがあった。

「凄い霊力、只者じゃないわね…… ちょっと待って、次々に周りの霊力反応が消えてる……?」

「私迎えに行って来る!」

「その探し人はあなたの知り合い? 仲間で間違いないの?」

「……はい、多分大丈夫です」

「……そう、十分に注意してね」

「待て、俺も行く!」

 走り出そうとする彼女の腕を掴んで引き留める。

「俺も行くよ、元はと言えば俺の責任だ。そのケジメを取らなきゃ」

「分かった」

「それじゃ、私はここからナビゲートするわね。風真君、霊話はできる?」

「はい、もちろんです」

 霊話とは霊力による遠隔通信を行う魔法だ。昔は端末を持たなきゃ遠隔通信ができなかったらしいけどもちろん霊話は霊力によるコネクションと交信の為、ハンズフリーだ。

「んじゃ、俺は風真達に着いて行くぜぃ! 只のお迎えなら良いけどよ、あの霊力反応は異常だ。周りの霊力反応が消えてるってのも気になるしよぉ。もしもってことがあると風真一人じゃ頼りにならんからな!」

「えーっと、私も着いて行こうかな。こっちに居ても頭痛くなりそうだし、なんか探検みたいで楽しそうだしぃ!」

「みんな、ありがとう……!」

「最後に。ここまでお前を手伝ってくれる仲間が揃ったんだ。俺はお前のこと、何て呼べば良い? まだ名前、聞いてないぞ」

「分かったわ。……リゼリット・オーラルデイネス、リズって呼んで」

「やっと教えてくれたな、リズ」

「リズちゃん、俺リズちゃんの為ならどこへでもだぜぃ!」

「よろしくね、リズっち!」

「…………そう。頑張ってね、リズさん」

 俺たちは霊力反応のあった運動公園へ向かった。

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魔法社会の異端学 陸陸人 @LicuWriter

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