第4話

「……リー、マリー。起きなさい、朝ご飯はもう出来てるわよ」

 目が覚めると、お母さんがわたしを揺すっていました。戦争で気を張っているわけでもなく、とうそうほんのうというものを失ってむきりょくなわけでもない、ちゃんとした、わたしの大好きなお母さんです。

「……?」

 とここで、わたしはおかしなことに気付きます。お母さんがいつものお母さんなのは当たり前のことです。何でわたしはお母さんがいつものお母さんであることにほっとしているのでしょう。

 でも、そんなことは別にどうでもいいのです。だってお母さんはもうここにいるのだから。

「早くベッドから出て着替えてらっしゃい。お母さんはもう先に食べちゃうからね」

 眠たい頭であれやこれや考えていると、お母さんはお部屋を出て行ってしまいました。わたしもベッドから這い出ます。

 ふと、わたしの腕の中にいるくまさんが動いたような気がしました。わたしは驚いて彼を見つめます。しかし、何秒経っても彼が再び動くことはありません。

「……おはよう、くまさん」

 わたしはくまさんを力一杯抱きしめました。そして大事にくまさんを抱えてクローゼットまで行き、お洋服を着替えます。

「……よしっ」

 わたしはお父さんとお母さんのいるリビングへと階段を降りていきます。もちろん、くまさんと一緒に。

 今日のわたしは、何だかいつもより幸せな気分です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「幸せ」 桜人 @sakurairakusa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る