第4話
夜が明け、町は軽いパニックに陥っていた。
土曜日が二日連続でやってきたのである。
しかも、この町全住民が同じような体験に襲われたというのだから、もう集団催眠やら何やらで一部の人たちは大騒ぎだという。
そんな中、僕たちはこの町が一望できる、見晴らしのいいある高台の隅にいた。
目の前にある盛り土の上に置かれた石の手前に、小さな花が一輪添えてある。
僕と凜は手を合わせ、目を閉じて数秒祈る。
ここは相川さんのお墓だ。今し方、僕たちで作った。
あの後、相川さんの体であった灰を、凜の魔法により一粒残らず集め、ここに持ってきたのだ。
ちなみに、ヤツの残骸はその場で凜が燃やした。あのサディスティックな笑みは、もう一生僕の頭から離れないだろう。
「・・・大変なことを請け負っちゃったわね。」
凜はそんなことを言う。
「でも・・本当にそんな日が来るのかな? 虐待、実験、乱獲・・・もし吸血鬼の存在を公表しちゃったら、そんな感じの悲劇が生まれそうで、今よりずっと生きづらくなりそうだ。」
僕は弱音を吐く。先ほど人を一人殺しておいて、何も感じないとか超絶失礼なことを感じていた僕だが、その面影は何処に行ってしまったのだろう?
「また随分と弱気ね。大丈夫、吸血鬼は不死身なのよ? 百年でも二百年でも生きていられる。時間は無限。ゆっくりと頑張りましょう? ・・・あ、先に人間が滅んでしまう可能性があるわね、急がないと。」
「止めてよ縁起でもない・・・・・・」
人間が滅んだ先でも生きている気でいるとか・・・ゴキブリ並の生命力だな、吸血鬼。いや、でも人間が滅んだら血液の摂取はどうするんだ? 他の動物で出来るのだろうか?
「まぁとにかく、先のことはこれからまたゆっくり考えていくとして・・・そろそろ帰りましょうか、大輝。・・・相川さん、また。」
そう言って、凜は市街地へ向け相川さんのお墓を後にする。
「また、すぐ来ますね? 僕がお酒を飲めるようになったら、また前のように飲みましょう。今度は二人ともお酒で。」
相川さんに向けてそう言った後、僕は凜の後を小走りに追いかけ、横に並ぶ。
「? 奴隷なんだから後ろを歩きなさいよ。“三歩下がって主の影を踏まず”って言葉、知らないの?」
「え? その設定まだ続いてるの? てっきり凜が僕を殺した云々の話でもう決着がついたと思ってたんだけど・・・」
「その借りはアイツを殺した時の援護でチャラ。もし私の援護がなかったら、あなた死んでいたのよ。」
「それはそうだけど・・・この後どうする? 思えば僕、徹夜みたいなモノだし、帰って寝たいんだけど・・・?」
「ダメ。服と家電と、それに家具を買いに行くわよ。結局どれ一つ買えていなかったわけだし・・・それと、」
「それと?」
「・・・さっきの魔法で血が足りなくなったから、吸わせてもらうわよ。」
「あぁ、うん・・・ん? ねぇ? コレって僕が意識ある時の吸血って初めてってことになるのかな? 幻覚魔法の中では実際に吸わせたわけではないし。」
「いちいちそういうことを気にしない。○○○○って呼ぶわよ。」
「ウッ・・・覚えてたんだ・・・・・・。」
「当然。」
僕たちはそんな風に言葉を交わしながら、一歩一歩前へ歩いて行く。
他愛もない日常のただの1ページだが、それが今の僕たちにとって一番大切に思える。
誰も話題にしないが、もう僕は立派な殺人者で、凜はそれに加担した共犯者だ。
だが、僕たちは復讐を果たしただけだ。
だけど、今度はヤツの仲間や親族が、僕たちに復讐してくるかもしれない。
そうして、今度は僕たちの仲間が奴らに復讐を始めるのだろうか?
きっと復讐の連鎖はこうして生まれて、終わらないのだろう。
それで相川さんは、その連鎖を断ち切って新しい世界を作る、それを願いにしたんだ。
ならば僕たちが、その願いを叶えてあげなければ。
相川さんは一人だった。
けれど、僕には凜がいて、凜には僕がいる。
そう思うと何だかこの世界を変えられるような勇気が沸く。
二人なら何だって出来る、そんな勇気だった。
ハハッ
どこかで相川さんの笑い声が響いた、そんな気がする。
奴隷生活 桜人 @sakurairakusa
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