第9話

「ジンちゃん!」

 病室のドアを開けて、勢いよく瑠奈が飛び込んできた。

「うるっさい。響いて痛いから静かにしてくれ」

 ベッドで半身を起こした仁が、両手で耳を押さえた。

「そんなことより、なんか、看護婦さんといい感じになったらしいじゃない? どういうことなの?」

「ばか瑠奈。男女同権の時代だから、看護婦さんって呼んじゃダメなんだよ。看護師さんって言わなくちゃ」

「そーゆーことじゃなくて! 柴田さんっていう綺麗な看護婦さんと、何したの?」

「世間話」

「ほかには?」

「別に。いろいろ話して、気が合うねって。それだけだけど」

「浮気者!」

「嫉妬深いと嫌われるぞ。まあ、俺は瑠奈に胃袋をつかまれてるから、浮気なんてする気もないけどな。今日の差し入れは何?」

 勢い込んでいたところをかわされて、瑠奈はちょっと困惑した様子を見せた。

「……えっと、煮込みハンバーグ」

「ボリュームたっぷり?」

「もちろん」

「やったっ! 病院食は少ないし、味も薄いし、ほんとマズいからな」

 瑠奈が持ち込んだハンバーグを食べているところに、八賢士の仲間たちがやってきた。先頭で入ってきたスーツ姿のナイスミドルを見て、仁はしばらく考え込んだが、やがてその正体に気付いた。

「ゲンさん?」

「さすがに、病院に来るのに、いつもの格好ではまずいからのう」

「それにしたって……超かっこいいじゃん」

「ホームレスじゃなかったら、惚れちゃうかもー」

 文絵がゲンさんの腕にしがみつきながら甘えた声を出す。

「あたしがコーディネイトしたんだから、格好よくなるのはあたり前よ」

 礼美が鼻を鳴らす。

「そんなことよりも、仁くん、例の隠し金の話だ」

 大塚が顔を寄せてくる。その額には、まだ絆創膏が貼られている。

「お、どうだったんすか」

「困ったことになっている。隠し金のありかに行ったのだが、途中で邪魔をされてな」

「また北条の連中に?」

「いや。新手だ。本人たちは、天海十二神将と名乗っていた。やつらを打ち破らない限り、隠し金は手に入らないらしい」

「打ち破るって、どうやって?」

 仁の問いかけに、大塚は無言のままにんまり笑った。

「まさか、またフットサル?」

「そうだ。われら里見エイト・ドッグスの次の対戦相手は、天海ゴールド・ハンターズに決まった」

 まだまだ、この風変わりな仲間たちとの付き合いは続きそうである。

 仁にはそれがうれしかったが、ひとこと言わずにはいられなかった。

「ネーミングセンス、悪っ」

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エイト・ドッグス 滝澤真実 @MasamiTakizawa

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