第45話

〈神保可奈江〉

 あの後部室には寄らず、私は一人帰路についていた。

 ……どこが間違っていたのだろう。

 私が思い出すのは一人の少年。

 何にも知らない赤子のような、醜い普通の『人間』。

 私は愛を持って語りかけた。愛を持って道を示した。愛を持って支え助けた。

 私と同じようにはさせないために。

 ……甘さがいけなかったのだろうか、優しさが過ぎたのだろうか。

 傲慢にも、あの少年は上を向いた。

 私に追いつきたいと、上を向いた。

 だがそこに私はいない。私はもっと下にいる。

 私は『人間』ですらない。『人間』と呼ばれることさえおこがましい、『人間』が大っ嫌いな存在。

 マズい。

 私に追いつこうとすればいずれ、上を向いた少年の視線は真下へと向かってしまう。

 このままでは、またあの少年が堕ちてしまう。

 自らの意志で、『人間』を外れてしまう。

 そう直感した私は、即座に行動に出た。

 要は幻滅させればいいのだ。あの少年が私に憧れていた部分を、私自身の手で裏切ってしまえばいい。

 『人間』に成り立てであり、信も疑も不安定な少年は気付かないはずだ。

 自分が『裏切られた』という、事実に。


 『天使』は『人間』になることで生きることを選び、最低の『人間』は『人間』を信じることで普通の『人間』になった。

 私の周囲は変わってゆく。

 私は変わっているだろうか。



 ……私は、『人間』になりたい。

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人外物語 桜人 @sakurairakusa

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