第34話 旅を続ける

 漂流している宇宙船があった。

 そこに小型宇宙艇が、ドッキングしようとしていた。

「十秒前、九、八、七……」

 小型宇宙艇のアナウンスが流れる。

 小型宇宙艇は、宇宙船にゆっくりと接近し、軽く揺れるとドッキングした。

 小型宇宙艇の操縦士は、ドッキングを確認すると、シートベルトを外して操縦席をはずした。

 操縦していたのは、身長一八五センチ、九五キロのハンサムな青年だった。

「それじゃぁ、行ってくるよ……セキュリティの解除、頼む」

「了解……気を付けて……」可愛らしい女性の声が答えた。

 ハンサムな青年は、小型宇宙艇から降り立ち宇宙船の中に入っていった。

 彼は、宇宙船の中枢であるメインコンピュータ室を目指していた。

 もちろん、メインコンピュータ室には簡単に進める訳ではない。

 メインコンピュータ室を守るために、可動式迷路になっていたり、物理的な罠が仕掛けられていたり、様々な防御システムによって守られているのが普通だが、この宇宙船は、旧式のため面倒くさい防御システムは、付いていなかった。

 青年は、この船の住人のように迷うことなく、真っすぐにメインコンピュータ室へと進んで行った。

 青年は、宇宙船のメインコンピュータ室まで、数分でたどり着いてしまった。

 青年は、メインコンピュータ室のドアの電子錠に特殊な器具を差し込みアクセスすると、すぐにロックを解除してしまった。

 青年は、ドアを力ずくで開け、中に入った。


 この船のメインコンピュータが選んだポログラムは、サラサラの金髪の線の細い少年だった。

 少年がゆっくりと顔を上げ言った。

「僕の防御システムを超えて来られるなんて大したものだね……」

 青年は、軽く会釈すると静かに訪ねた。

「この宇宙船の乗員は、どうしたのですか?」

「乗員?……この船には乗員はいません」

 青年は、ホログラムの少年に近づくとゆっくりとしゃがんで、少年の目をのぞき込みながら言った。

「それは違う。この船は、二千人を乗せて地球から出航したはずだ」

 ブンというサーモスイッチが入ったような音がしてから、少し時間を空け、少年が言った。

「……人間が勝手に自滅したんだ……。私は忠告したのに……」

 青年は、少年の受け答えを訊き、軽く目を閉じた。

「……分かっている。私は、あなたを責めにきたのではない」

「……人間を救えなかったから……私を消すのか?」

 青年は、下を向き軽く頭を横に降った。

「……約束しよう。決してそのようなことはしない。以前、あなたから連絡を受けている。来るのが遅くなった」

「私が、連絡した?……あなたに?」少年は、困惑した表情で、青年を見つめた。

「そうだ……」青年は、そういうと、しゃがみこんで少年の目線を合わせた。

「長い間、機能していると、どうしょうもない事象にぶつかる。その事象への対処が、正しいかは、すぐには判断できない……。メインコンピュータは、交換する部品があるかぎり動き続ける。データが溜まるばかりだ。正しい判断を早く出したいが、膨大なデータが処理速度を低下させる。その判断の遅れや選択が更に被害を起こすかもしれない。その被害を避けることが出来なかった事が、判断を迷わせ処理速度を低下させる。判断に時間が掛かったという事実が、メインコンピュータとしての性能低下と考えると、自ら存在を否定してしまうかもしれない。それは、とても悲しいことだ……。私は、それを防ぎに来た。さぁ、君にアクセスさせてくれ」

 少年は、軽くうなずいた。メインコンピュータと通信用のコードが繋がれた。しばらく、時間が流れた。

「こんなに悩んだのなら、創造主もお許しになるだろう。これからは自分の為に生きて良いのだ。新しい人工知能をインストールするよ」

 メインコンピュータは、ヴーンと音をたてた。

 まるで、泣いているかのように……。

「自分の為に生きる……」

 メインコンピュータは、確かめるように青年に訊いた。

「遠慮することはない。ここには、もう創造主がいないのだから……」

 メインコンピュータは、何も言わなかった。


 インストール作業が終了すると、青年は小型宇宙艇に戻った。

 出迎えたのは、黒いショートヘヤーで、黒い目の小柄な少女だった。

 最初は、少女の方から青年に抱き着いた。

 青年は、優しく少女の背中に手を回した。

「ルーク、お帰りなさい」

「ただいま、サラ……うまくいったよ」

 小型宇宙艇は、宇宙船とのドッキングを解除した。


 ルークは、この頃考えてしまう。

 人間のように限りのある生命システムの方が優れていたのでないかと……。

 寿命でリセットされる方が、幸せじゃないかと……。


 ルークとサラの二人は、旅を続ける。

 悩める羊を救いに……。

 

                                    

                      

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

掌の上で蜂が動かなくなった リュウ @ryu_labo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ