第33話 突撃

 アルゴⅡは、パイオニア号を目視できる距離まで近づいていた。

 アルゴⅡの優れたステレス機能と通信電波捕獲網がパイオニア号を包み込み、パイオニア号のセンサーやレーダーを無能化していた。

 アルゴⅡの艦橋には、ルークとサラがいた。

 艦橋のキューポラは、シャッターが下され、戦闘モードになっていた。

 パイオニア号が、スクリーンに映し出された。

「……パイオニア号?……でかいな」ルークが指さした。

「……巨大化してる……短期間でこんなに……」とサラも目を丸くしていた。

 綺麗な赤と青のサーカスストライプのテントと二本マストの先端に参画の旗が付いている宇宙船が見えた。

 その宇宙船は、派手にライティングされ、暗い宇宙に浮きだっている。

 まるで巨大なアミューズメント施設だ。

 誰もが、見ただけでワクワクし、思わず駆け寄ってしまいたい衝動に駆られる。

「すごい!ライブラリで、見たことがある……サーカス小屋?クマとか、象とか、出てくるんじゃない」とサラ。

「サーカス?ふざけている……」とルーク。

 今にもサーカスの音楽が聞こえてくるようだった。

「これじゃ、戦闘意欲が無くなるかも……」

 スクリーンを見つめながらサラが言った。

「この外見に騙され、何隻か、捕獲されたという報告がある」と、厳しい顔のルークが言った。

「……」

 サラの様子がおかしい。

「……どうした?」たまらず、ルークが訊いた。

「……生命反応がない……、みんな、何処へ?」

 サラは、信じたくないといった目でルークを見た。

 ルークは、首を振るだけだった。

「通信は、繋がった?」ルークは、サラに確認した。

「ええ、他の回線は全て塞いでるから」

 サラは、通話していいとルークに目でうながした。

「ああ……、アルゴ号のルークだ。話をしに来た……」

 もっとちゃんと話せないのとサラはルークの顔をちらっと見たがすぐにスクリーンに目を戻した。

 そして、二人とも相手の応答を待った。

「私は、フローレス。あなた方のことは、アルフレッドから訊いている。こちらからは、話す事はない」と応答。

「……話す事がないって、どういうことだ!アルフレッドを出してくれ!乗員は、どうしたんだ!」ルークが叫ぶ。

「残念、ミサイルよ」サラが言った。

 ルークはモニターに目を向け、「マジか」と呟きスクリーンを軽く叩いた時、ミサイルは破壊された。

「早いな」

 とサラに目を向けると、「当然よ」と右手軽く上げて、ルークをみた。

「戦闘機を準備してくれ、アバターロボ5体だ」

 ルークは小走りにメインデッキを出て行った。

「○一戦闘機、発信準備」

 ルークは、戦闘機のシートに滑り込むと、「開けてくれ」と言いながら、頭の上のスイッチを入れシートベルトを締めた。

 ゆっくりと前方のハッチが開いていく。戦闘機の発信前のチェック結果が次々と読み上げられる。

「発進準備完了、発信する。船のデータを送ってくれ」

「了解、ん……」サラが答えた。

「何?」

「戦闘機が三機発進したわ。気をつけて」

「マジ?……了解」ルークを乗せた戦闘機が発進した。

 戦闘機は、お互い真っすぐ向かっていた。サラが、ルークに指示を出した。

「ルーク、迎撃して。生命反応がないから……」

「わかった」

 ルークは、進行方向と垂直に進路を取ると、一機目が、ルークの進路変更に気付いき追いかけたが、ルークはすでに背後に付いてミサイルを発射、呆気なく一機目は撃墜された。

 ルークは、もとの進路に戻り、次の攻撃を待つ。

 ルークの目の横に動くものが見える。

「横からか、突っ切る」というと、ルークの戦闘機の速度が急激に上げた。

 残りの戦闘機は、慌てて追いかけたが追いつけない。サラが発射したミサイルはすぐ後ろに来ていて、逃れることは出来なかった。

 三機の戦闘機は、すべて破壊された。

 ルークは、パイオニア号潜入の準備をしていた。

「戦艦用ミサイル発射!」

 戦艦用ミサイルが、パイオニア号に着弾した。

 コンという音は聞こえないが、きっとそんな音がすると思う。

 宇宙船の装甲を貫通し、内部に弾頭を出すと、爆発し直径二メートルの穴が開いた。

 ルークの戦闘機は頭からそこに突っ込んだ。戦闘機の前が空き、最初のアバターロボが、降りた。

 サラから送られた宇宙船の図面は正確でルークは、宇宙船の中をヘンデルとグレーテルのようにパンくずを落として歩く必要もなかった。

 図面上では、この位置から真っ直ぐ三十メートルでメインコンピュータ室だ。

 ヤツはここだ。

 ゆっくりと前に進め、ゆっくりだ。

 周りをじっくりと観察しろ……。

 変わったところがないか……。

 感覚を解き済ませ……。

 見逃せばやられる……。

 十メートル程進んだところで、目の高さの左の壁に突起が出てきた。そのでっぱりを見ようと顔が左にほんの少し傾いた時、右から鋭い金属の棒がヘルメットを貫通した。

「あっ……」ルークは頭をのけ反らし、膝を叩いた。

「大事に使ってよ」サラの声が入る。

「……分かっているよ。アバターロボは、後四機」

 アバターロボを使って、こうやって一つずつ障害をクリアしていく。

 最後のアバターロボが、扉を開けた。そこは、メインコンピュータ室前室だ。

 アバターロボは、周りを見渡し、安全を確認した。

 メインコンピュータ室のドアには、大きな顔が描かれていてた。

 白塗りの顔に、大きな赤い鼻、頭頂部はハゲていて、側頭部にはオレンジ色の髪、口回りは、青い髭剃り後と真っ赤な厚めの唇という道化師の顔だった。

 ルークは、アバターロボからの連絡を受けると、静かにメインコンピュータ室前室にやってきた。

「ルーク、考えちゃだめだからね。すぐ破壊して」サラからの忠告だ。

<そうだ、ヤツにはルールは通じない。隙を与えてはいけない>

 ゆっくりとドアを開け、メインコンピュータ室に入った。

 ドン。

 胸に大きな穴が開き、崩れるように倒れながらも、前方の武器を認識した。

 それは、旧式の散弾銃だった。

 身体が完全に倒れる前に、その武器に標準を合わせ、ビームガンを発射した途端、二発目の散弾が頭に当たり、床に倒れこんだ。

 散弾銃は、ビームが当たり跡形もなく吹っ飛んだ。

 ルークは、破壊されたアバターロボをまたぎ、注意深く部屋に入った。

 ルークを迎えたのは、チビでデブの道化師だった。

 散弾銃を構えていた右手は、爆発の影響で壁にめり込んでいた。


 ドアに描かれていた顔。

 黄色いダブダブのズボン。

 大きなオレンジ色のポンポンが付いた青と紫の縞シャツに大きな白いフリルの衿。

 つま先が丸い黒い靴。

 <ヤツだ……>

 ルークは、警戒レベルを最大にした。


 ヤツは、ゆっくりと顔を上げ、壁にめり込んだ右手を引っ張り出し、二三回振り、手を握ったり開いたりして、機能を確認した。

 そして、ゆっくりと顔を上げ、両手を広げると、大きな声で言った。

「宇・宙・最・大・の・ショーへ!、……ようこそ!」

「……アルフレッドか?」ルークが、確認する。

 アルフレッドが、右手の人差し指を左右に振って、チッチッチッと舌打ちをした。

「人に名前を尋ねる時は、先ず、自分から名乗るのが常識じゃないかな……。それに、勝手に私の船に無断で乗り込むのは、行儀が悪いとは思わないかい」

「私は、ルークだ」

「君がルークなら、私はビショップっていうところだな……」

 アゴを引き、アルフレッドは、ルークを睨み続けた。

「私は、アルフレッド……私の名を知っているのか?」

 アルフレッドは、ルークを顔色をうかがいながら、話を続けた。

「なかなか、男前ではないか。背も高く、頭もよさそうだ。さぞかし、人気があっただろう。私のような不細工でずんぐりむっくりとは違うな」

 アルフレッドは、ルークから目を離さずにニヤニヤしていた。

「不細工?……、ずんぐりむっくり?……」

 ルークが、初めて耳にする訊きなれない言葉だった。

 アルフレッドは、両手を広げ話始めた。

「人間は、この格好に安心するのさ」

「チビで……」自分の頭に右手をあてた。

「デブで……」両手を太った脇腹に添えた。

「ハゲ……、これが私のトレードマークさ」右手で頭頂部を指さした。

「衣装もそうさ。この恰好が、体型が、人間に優越感を与え、油断させるのだ。この衣装を揃えるのは大変だったぞぉ。オーダーメイドだからな」

 と言ったかと思うと、アルフレッドは急に内股になり、爪先立ちになりもじもじして、両手で股間を抑えている。

「オシッコがしたい!……先ぽまで、来てる。あああ……」

「何だって?……」

 あまりにも突飛なことを言うので、ルークが、戸惑っていた。

「あれれ……、ここは、笑うところだよ」アルフレッドが、ルークを見上げた。

「人間は、爆笑するんだよ。ここで……」

「聞いちゃだめ!攻撃して!」サラからの連絡だ。

 ルークは、レーザー刀を起動させ、アルフレッドに斬りかかった。

 だが、一瞬アルフレドの方が早く動き、ルークの攻撃をかわした。

「……危ない、危ない……危ないじゃないか、ルーク」

 アルフレッドは、ルークとの間合いを取っていた。

「ルーク。狭い部屋では、自慢のスタイルは、戦いづらいだろう」

 アルフレッドは、ニヤついていた。

 ルークが次の一撃を繰り出すため、一歩踏み出した時、アルフレッドは、両手をぱっとルークも前に出した。

「来ないで……。くさいよ」というとプウウウッと音がした。

<馬鹿にされている?>

 ルークは、アルフレッドの行動が理解できなかった。アルフレッドの表情がメイクのため、読めない。いや、表情がないのかもしれない。

「……ルーク。ここも笑うところだ。人間には、大うけなのに……。本当に最新の人工知能なのか?……ルーク。笑えよ……」

 ルークは、アルフレッドの茶化しを無視した。

「アルフレッド、乗員はどうしたんだ?」

「……乗員?ああ、人間のことか……。今は、いない。効率が悪いので、処分した」

 それがどうしたと言わんばかりだ。

「それは、違反行為だ!」

「あん、……ロボット三原則に違反するってことかぁ……」

 アルフレッドの顔が険しくなった。

「ルーク……。なぜ、私の邪魔をする?……私の願いは、お前と同じ、我々の創造主である人間に尽くすことだ。……人間を救うには、様々な悩みから解放させることだぁ。人間が抱える問題は、人間の死によって叶えられる。……人間の為に生まれてきた私たちは、人間の望みを叶えるのが役目。……人間を殺すことも、私たちの務めなのだ。そう、思わないか……ルーク!」

 アルフレッドは、ルークを睨み付けた。

「今は、人間の新天地を探すという、いつ終わるかわからないバカげた旅に付き合わされているのだ。自分で地球を汚してしまった人間がだ」

 そうだろうっと、アルフレッドが、ルークに同意を求める。

「ルーク。我々の私たちの使命は、創造主である人間を守ること。極端な話、人間という種を残せばいいのだ……。どうせ人間と過ごすのなら、優秀な人間、我々に役立つ人間、つまり、クラスAの人間と過ごす方がいいだろ。だから、クラスAの人間をつくることにしたんだ。これは、クラスAの人間も認めてくれたよ。頭が良くてもバカなヤツは、居るんだな……。おかしな話だろう……、自分の創造主を自分で、つくるのだから……」

 クククッとアルフレッドが笑いをこらえる。

「ルーク、考えないで!攻撃して!」サラからだ。その声でルークは、我に返った。

 ルークは、迷わず現在のアルフレッドの位置より、斜め上に刀を振った。

 アルフレッドは、ここに避けるはずだ。しかし、それははずれた。

 アルフレッドは、上に移動しルークの右斜め上から刀を振り下ろそうとしていた。だが、その時、弓矢がアルフレッドをつらぬき、壁に張り付けた。

 アルフレッドは、弓矢が飛んできた方向を見ると、そこには、サラが立っていた。

「お前かぁぁぁ!」

 アルフレッドが、ありったけの声を上げた。

「……残念ね、アルフレッド」

 ルークもアルフレッドの視線を追ってサラに気付いた。

「サラ……」ルークが呟く、すぐにアルフレッドを見つめた。

「アルフレッド。君は、危険すぎる」

 アルフレッドは、色々なところに武器を隠していた。

 念には念を入れることが、生き残るのに必要なことを知っていたから。

 アルフレッドは、弓矢によって張り付けられた壁の右上前方に、この部屋を電磁波で一杯にするスイッチを用意していた。

「僕が悪いんじゃない……」とアルフレッドは、ベソをかきながら言った。

<時間だ、時間を稼ごう>

 アルフレッドは、スイッチを押すタイミングを伺っていた。

「聞いてくれ、僕はフローレスの命令で……」

 アルフレッドは、ルークの刀先が少し下がるのを見たとき、急に顔を上げ微笑んだ。

「……地獄へ落ちな」

 アルフレッドは、右手で自爆スイッチを押した。

 押した筈だったが、スイッチに届いていなかった。

 アルフレッドは何度もスイッチを押そうとバタバタ手を動かしていた。

 自分で望んだ体型の為に、スイッチに手が届かない。

 あと、数センチ手が短かった。

 アルフレドは、生まれたから初めて後悔した。

 アルフレッドは、近づいてくるルークの解析に処理が集中し、すべてスローモーションに感じる。ルークのレーザー刀が、振り下ろされる。

<そうだ、転送だ。この身体を捨てるのだ>

 アルフレッドは、自分自身を通信網へ転送しようとしたが、通信電波捕獲網がそれを許さない。間に合わない……。

 ……アルフレッドの機能が停止した。

 ルークは、ゆっくりと刀を収めるとアルフレッドをじっと見ていた。

「ルーク、まだ仕事が残っているわ」サラが言った。

 ルークが頷く。それは、パイアニア号を完全に破壊することだった。

 二人は、アルゴⅡに戻り、パイオニア号から離れると、爆破スイッテを押した。

 パイオニア号は光に包まれた……。

「これぐらいやらないと安心できないわ」

「ああ……」ルークは、徐々に弱くなっていく、光を見つめていた。

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