第32話 すべてをもとに
ティトのタブレットパソコンの論文やティト・アウラのDNA固定と八七%一致のライフログ照会結果から、ケンとレナは、二人の生まれ変わりだと推測された。
ケンとレナの二人は考え続けていた。あれから、ずっとだ。
そう、ティトの部屋に行った時から……。
生まれ変わりの可能性があることは、二人に与えたショックは大きかった。
朝、起きた時も、鏡を見ながら歯磨きしている時も、仕事をしている時も、どこか頭に中に異物が引っかかっている感じだ。丁度、後頭部の付近だ。
その付近が、ずーっと考え続けている。
ティトが、考えていた永遠の命。
永遠に生きる、生き続ける。
私はだれだ、私はだれでもない……。
最初に口を開いたのはレナだった。
「……私たちは、同じなの?」
「……同じ?」ケンは訊きなおす。
「……私は、アウラのコピーなの?」
レナの問いかけに、ケンはすぐに返事が出来なかった。
僕は、ティトなのだろうか……。
ティトのために僕らは生かされているのか……。
僕がティトだとしたら……。
「ティトの実験は成功したの?」
「実験?」
「永遠に生き続けるって……」
「わからないさ……永遠の証明なんて出来ないんだから」
ケンは右腕でかるく顎を支えて歩き回った。
「私は、私!」レナが強い口調で言った。
「レナ……、分かるよ、言いたいことは……」
ケンは、レナが落ち着きを取り戻すまで、肩を軽く抱いた。
「全く同じ環境なんて、できるはずが無いじゃないか」
レナもその通りだと考えていた。
私たちは、生物なのだ。
全く同じ環境をつくったとしても、私たち生物が同じ反応をするとは限らない。
身体もそうだ。
同じ細胞でも、全く同じ血管網をつくるとは、考えられない。
ケンとレナは、ティトが残したモノに、こんなに自分たちを混乱させられている事実を考えると、やはり、自然に任せたほうが良いと考えた。
ケンは、ティトのプログラムを一掃するプログラムを作ることにした。
しかし、この作業はケンにとっては辛いものだった。
ティトのプログラムを追跡する際、ケンの推測がことごとく的中するのだ。
まるで、自分で作ったかのように……。
あの夢の様にティトの記憶が僕にあるのか……。
僕はティトなのか……。
ケンは、最後の文字を打ち込むとそのプログラムのアイコンをじっと見ていた。
「出来たの?」レナが横に座った。
「なんか、一生分考えたって感じ。疲れたわ」
「ああ、でもこのプログラムで開放されるよ」
ケンは、エンターキーに指を置いき、レナを見つめ同意を求めた。レナは頷いた。ケンはキーを押した。
スクリーンに削除中のメッセージが表示された。ものすごいスピードでカウントダウンが始まり、あっと言う間に終了メッセージが表示された。
二人は、終了メッセージが表示されたスクリーンをじーっと見つめていた。
何事も発さずに……。
その時、ルークが部屋に入ってきた。
「通信電波捕獲網の準備は、できていますか?」
ルークの言葉で、二人は現実に戻った。
「……ルーク、できているわ」レナが、深呼吸し大きな声で言った。
「ルーク、もう、旅立ちの儀式は、なしだ」ケンが、ルークに言った。
「どういうことです?」ルークが説明を求めた。
「もう、私たちの世話はしなくていいよ。管理しなくていい」
ケンは、ティトの生まれ変わりのプログラムを止めたことをルークに説明した。
ルークも二人の考えを理解した。
「……それでは、お願いがあるのですが……」
ルークは、二人の顔を伺っていた。
「……お願いって?」レナが、軽く首を傾けて、説明するようにと促した。
「……パイオニア号の件が終了したら、私たちは、この宇宙船から出たいです」
ケンとレナは、顔を見合わせた。
「私たち?」
「僕とマザーです」
「マザー……、そう」
今度は、ルークがマザーについて説明した。
マザーは、自分と同じように、ティトの設計した人工知能とアウラの作成した身体と、サラという名前を得たことを。
レナは、ルークの右手の汚れた絆創膏に目を止めた。
「ルーク、こっちへ来て、絆創膏を取り換えてあげる」
レナは、ルークの手を取り自分の前に座らせ、古い汚れた絆創膏をはがし、新しい絆創膏に取り換えた。
ルークは、新しい物を買って貰った子供のように、笑顔で新品の絆創膏を見つめていた。
「わかったわ。あなたもマザーも、あっ……、サラね、十分に私たちに尽くしてくれたから……」と言って、レナは、ルークを抱きしめ、軽く頬にキスした。
ケンも頷いて、ルークの肩をポンと叩いた。
ルークは、とっても柔らかい唇を感じて照れ臭かった。
ルークの頭の中に、この感覚が遠い昔にあった……。
アウラのイメージが頭に広がった。目の奥が妙な感じがしていた。
それは、今まで経験したことのない感覚だった。
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